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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第五幕   若くして新たな伝説を残す男の探遊記
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19 ツンケン人魚とトゲトゲ法術士の小競り合いの噺

 罠だらけのフロアなのに、自分達が立てている以外の大きな音を聞かない事から、ここには誰もいないと判断し、階段を下る事を選択した三人。


 勇んで次のフロアに降り立ったが、いつの間にかメンバーが入れ替わっていて、ウッくんはあまりの状態変化にパニック寸前になっていた。


「静かにしてよ。私、騒々しいのって、実はあまり得意じゃあないから」


 烙印の影響で陸上生活が馴染んだセイラだが、海の上が思った以上に騒がしい事にはまだ慣れなくて、今もみんなのお喋りに、あまり参加する事はない。


「しかし秘術士でないウイックさんですか? りりしさはこの方の勝ちかと思いますが、やはりあの豪快さと非常識さという魅力を持つ殿方なんて、全世界を探しても、あの方ただ一人ですの」


 身震いをしながら、想い人を慕い、法術士が舌なめずりをする。


「あんたって、本当はいい子なの? 本物の変態なの? どっちなのよ?」


 ミルやノアールと違い、セイラとエルラムは全くウッくんに興味を示さない。


「あ、あの、俺はちょっと、その……」


 しかし彼が今頼れるのは、この人魚と法術士だけ、媚びを売ろうにもやり方も分からないが、少しでも気に入れられないといけないのに言葉も出ない。


「ああ、心配しなくても見捨てたりはしませんの。ご安心くださいな」


 エルラムは男の心中を察し、それ以上近寄るなと、全身全霊で訴えかけてくる。


「酷い女でしょ? 全くウイックがなんでこんなの可愛がってるか、気が知れないわよ」


「随分と辛辣ではありませんか? 第一ワタクシ、ウイックさんに可愛がられた覚えなんて、全くありませんけど」


「あんたが可愛がられていないってんなら、私なんて相手にもされてない寂しいヤツってことになるじゃない」


「貴方、ウイックさんの優しさに、まさか気付いていらっしゃらないのですの?」


「そんなの分かってるわよ。つまりは罪作りな男だってことでしょ」


 状況確認もそっちのけに不満を口にしあう少女達、下らない言い合いをしている間に近寄ってくるのは魔物、鏡面のような地面と天井、壁はなく上下の境界線まで続いているが、ここはダンジョンの中だと感じる。


「セイラさん、そのかたのこと、頼みますよ」


 回復と任意者への身体強化、防御結界を得意とする人魚は、これといった攻撃能力を持ってはいない。


 ピューレのように武器をもらってもいないが、理力強化の効果がある指輪と、同じく能力向上の術衣で、セイラの張る結界は正に最強高度を誇る。


「一人で大丈夫なの? そうか、その運動しやすそうな、“ぶるまぁ”だっけ? その術衣でエナジーの枯渇はないんだったわね」


「ええ、だからお任せくださいの、この程度の魔物などは、さっさと片付けてみせますの」


 見た感じ魔門界の獣と言うより、魔力が暴走した大海洋界の獣が魔物化した集団のようだ。


 今の状況、大技は控えたい。


 まともな空間でない事は、確認するまでもない。


 不安定な場所だとすれば、無茶な事はできない。


「めんどうな数がいますの、ここは“ぶるまぁ”より“チャイナ服”に着替えた方が良さそうですの」


 目の前に群がる一角ウサギを“エアロブレード”、風刃で切り刻むと踵を返し……。


「ウッくんさん、少しの間、お願いしますの」

「お、俺?」


「その腰に下げてる物は、お飾りではないのでありましょう?」


 エルラムはウッくんの了解を得ることなく後ろに下がる。


「安心して、あなたは結界の中から、その銃をぶっ放せばいいだけよ。足を止めて撃つんだから、当てるくらいならできるでしょ?」


 ウッくんは有無をも言わさぬ状況に、しかたなく理力銃を構え、迫り来るオオカミの群れに発射する。


 銃弾は結界に阻まれることなく、一撃必中で魔物の額を撃ち抜いていく。


「やりますね。流石はウイックさんの母体ですの」


 ぶるまぁを脱ぎ、着替え中のエルラムが感心する。


「ふえ!?」


 褒められて振り返るウッくん。


「なに、見てるのですの? まだ敵はいっぱいいるのですよ」


 女性の着替えを覗くなんて経験のないウッくんは、男の性か、目を離そうにも離せずにいる。


「ほら、ちゃんと働いて、そうすれば、そこの露出狂はまた脱いで見せてくれるわよ」


 無理矢理セイラに頭を抑えられ、向きを変えられる。


 魔物はほんの少し顔を背けていた間に、目の前にまで迫っており、ウッくんは慌てて銃を乱射する。


「本当にウイックさんそっくりですのね。本能に正直なのは嫌いではありませんが、助かりました。代わりますの」


 着替えを終えたエルラムは結界から飛び出し、魔物を蹴散らしていく。


「す、すごい……」


「ふふっ、貴方もね」


 次々と叩きのめされていく魔物に感嘆の声が漏れる。


 その彼をセイラが絶賛。


 エルラムが魔物に囲まれながら闘う中、後ろを取ろうとする敵を狩る、援護をするウッくんの射撃は神業と言えた。


 程なくして魔物共は全滅。


 見通しのいいこのフロアで、伏兵や援軍はない事は明白、戦闘は終了を遂げるのだが、どこをどう見渡しても次に続く通路は見当たらない。


 頭を悩ます一同は、突然の異変に対応が遅れる。


 鏡面だと思っていた足下は突然波打ち、全員を飲み込み、沈めてしまう。


「ここ、水面、だった、の、ですね」


 立ち泳ぎで水面に顔を出し、辺りを見回すエルラムは直ぐ側に波打たない床を見つけてよじ登る。


「よっと、さてさてどうしたものでしょう? 閉じ込められたというのでないなら、出口はあるはずですが」


 突然の事に泳げないウッくんは、溺れそうになるところをセイラに助けられ、エルラムの立つ床に連れて行ってもらう。


「ごほっ、げほっ、はぁ、はぁ、……セ、セイラさん、貴方は人魚だったんですね」


 水に入って下半身が魚に戻ったセイラを、マジマジと観察するウッくん。


「そんなことより」

「そんなことって……」


「水底に下に繋がる階段があるみたいよ。まったく何なのかしら、ここ」


「底ですか、ではまた着替えますので、今度は見ないでくださいね」


「あら、ご褒美、あげればいいじゃない。彼、がんばったんだからさ」


「ふん、だったらご自由にどうぞ」


 エルラムは“すくーる水着”を取り出して、今度は下着まで脱ぎ、着替えを始めた。

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