18 甘えん坊猫か? イタズラ猫か? みたいな噺
あっという間だった。
下へ降りる階段を見つけ、まだ完全にマッピングの終わってないアンダー1フロアを後まわしにし、第2フロアに降りた一行は深い霧に呑み込まれた。
気が付けば散り散りになっており、ミルはノアールとウッくんの三人だけになっていた。
「完全にはぐれたみたいね。けどダンジョンの中だし、直ぐに合流できるでしょ」
「そういうもんなんか? けどまぁ、一人にならんでよかったわ。ウチは寂しがり屋の仔猫やからな」
確かに人懐っこくはあるが、寂しがり屋って誰の事だ? と言った感じだがそこはスルー。
それよりもウッくんの狼狽え振りは、どうにかしないといけない。
「お、落ち着いてウッくん、冒険をしていれば、こんな事は日常茶飯事だから」
「お、おつ、落ち着くって、俺ば別に!?」
ただ声を掛けただけなのに眼前に理力銃を向けられ、ミルは右に回り込み、銃を手刀で叩き落とす。
慌てて銃を拾うウッくんは、後ろに立つノアールに同じ事をして、同じようにまた銃を拾う事となる。
「あのウイックも冒険の経験がないと、こうなっちゃうのね」
安全な世界で特に変化のない日々を送った人の反応としては、ウッくんは別に臆病者の部類に入るわけではない。
非日常の緊張感の中、腰を抜かさないだけ、十分男を見せていると言える。
「大丈夫よ。貴方の事は私達がちゃんと護ってあげるから安心して、それよりも怖いのは貴方が冷静さを失って暴走する事だから」
ミルはウッくんの手から理力銃を取って、彼の右太股に下げたホルスターに収める。
「おっ、あっちに道があるで」
「うおっ!?」
ウッくんの背中側に立っていたノアール。
突然の声に驚き、ひっくり返りそうになる男を、ノアールは彼の両肩を掴んで支える。
「にゃ!?」
思いのほか男は重く、慌てて体を押し当てる。
「ふおっ!?」
「ちょっ、大丈夫かいな、ホンマ」
「ほ、ほんま?」
背中に感じる柔らかい感触に慌てるウッくん。
聞き慣れない方言にも戸惑いながら、姿勢を正し、ノアールにお礼を言う。
「なんか、くすぐったいな。ウイックはんは、ちょっと触ったくらいやと喜んでもくれへんからな」
真っ赤になって俯く男を前に、新鮮な感触が面白い。
「さぁ、行きましょうか。ノアはウッくんの事をお願いね」
「ええで、ウチが一緒やから安心しぃや」
含み笑いのノアールは、わざと体を密着させて、男の左腕にしがみつく。
「はぁあ、お、おい、そんなにくっつくな」
「なんでや、この方があんたの変化に気付きやすいやろ?」
「お、女がそんな簡単に、お、男に身を委ねるもんじゃあないだろ」
狼狽える姿がまた可愛い。
ノアールは更に顔を近付けて頬を寄せ合う。
「はわっ!」
「もう、遊んでないで、行くよ」
表情を引き締め、感情を押し殺しているが、ノアールはヒシヒシと感じていた。
「ミルにゃんも一緒に遊ぶにゃん」
おふざけモードのノアールは、喉を鳴らしながら、ウッくんの顔を嘗め回す。
「やんない、その人はやっぱり私達がよく知るウイックじゃあないしね」
「……それもそうやな」
ドギマギしながらも悪い気がしなくなっていたウッくんだったが、二人の遣り取りももっともだと襟元を正して、ただ手に取るように分かる消沈する意気が、今度はミルの母性に火をつけた。
「後ろからの援護、期待してるからね」
優しくハグをして、耳元で囁き、そこで切り替えて先に歩き出す。
「ここがただの洞窟じゃあない事は分かってたけど、こんな凝った罠があるなんて聞いた事ないわね」
みんなで行列になり、階段を下りてきたはずなのに、気付けば離ればなれになり、階段なんてどこにもない、抜け道一本の行き止まりに飛ばされた。
しかも一人してしまうのではなく、こうなるとこの三人である事にも、意味があるように思えてくる。
通路を進むと、遺跡のような人の手が加えられた床や壁の広い廊下に出た。
「なんだろう、罠のニオイしかしてこないわね」
「どっちにいくんや?」
右か左か、正直言って分かるはずがない。
「ノアってマッピングできる?」
「はははっ、直感や第六感に頼っていいやろか」
ソロで秘宝ハンターをしていたミルは、それなりにマッピングも経験はあるが、元来の性格で向いていない事は分かっている。
「な、なんなら俺がやろうか?」
彼は錬金術師という、細かい作業が得意な職業で、遺伝子は同じ筈の冒険家のウイックは、わざわざマッピングなんてせずとも、見ただけで地形を覚えてしまうことを、ミルは直に見て感心した覚えがある。
「貴方はできる」
「当然」
即答で返されて、疑う必要もないと思いながら。
「じゃあ試しにやってもらいましょうか」
罠鑑定スキルを持っているノアールが先頭に、マッピング係は真ん中、ミルは最後尾で全体を見回す。
遺跡造りのフロアは、二ブロックを通過するだけで、四つの罠を見つけ、その事如くを避けるノアールに、引っ掛かるウッくん。
壁から飛び出す矢、落とし穴、転送ゴブリンが斬りかかり、天上からも鉄球が振ってきた。
それを助けるミルと言う流れができて、剣士の少女は流石に強めの注意を与えた。
「ご、ごめん……」
「あぁ~あ、泣かしたらあかんよ。ミルにゃん」
「……ノア、そのにゃん付けで呼ぶのはやめて」
「いや、そろそろ気ぃ遣わんでいいかなおもてな。ウチは親しい相手はみんな、そう呼んでるし」
「ああ、そうなの? はいはい……」
ミルはともかくみんなとの合流を明確な目標にして、戦闘に立って罠を尽く破壊し、最短コースを勘で当てて、次の階段を見つけるのだった。




