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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第五幕   若くして新たな伝説を残す男の探遊記
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18 甘えん坊猫か? イタズラ猫か? みたいな噺

 あっという間だった。


 下へ降りる階段を見つけ、まだ完全にマッピングの終わってないアンダー1フロアを後まわしにし、第2フロアに降りた一行は深い霧に呑み込まれた。


 気が付けば散り散りになっており、ミルはノアールとウッくんの三人だけになっていた。


「完全にはぐれたみたいね。けどダンジョンの中だし、直ぐに合流できるでしょ」


「そういうもんなんか? けどまぁ、一人にならんでよかったわ。ウチは寂しがり屋の仔猫やからな」


 確かに人懐っこくはあるが、寂しがり屋って誰の事だ? と言った感じだがそこはスルー。


 それよりもウッくんの狼狽え振りは、どうにかしないといけない。


「お、落ち着いてウッくん、冒険をしていれば、こんな事は日常茶飯事だから」


「お、おつ、落ち着くって、俺ば別に!?」


 ただ声を掛けただけなのに眼前に理力銃を向けられ、ミルは右に回り込み、銃を手刀で叩き落とす。


 慌てて銃を拾うウッくんは、後ろに立つノアールに同じ事をして、同じようにまた銃を拾う事となる。


「あのウイックも冒険の経験がないと、こうなっちゃうのね」


 安全な世界で特に変化のない日々を送った人の反応としては、ウッくんは別に臆病者の部類に入るわけではない。


 非日常の緊張感の中、腰を抜かさないだけ、十分男を見せていると言える。


「大丈夫よ。貴方の事は私達がちゃんと護ってあげるから安心して、それよりも怖いのは貴方が冷静さを失って暴走する事だから」


 ミルはウッくんの手から理力銃を取って、彼の右太股に下げたホルスターに収める。


「おっ、あっちに道があるで」

「うおっ!?」


 ウッくんの背中側に立っていたノアール。


 突然の声に驚き、ひっくり返りそうになる男を、ノアールは彼の両肩を掴んで支える。


「にゃ!?」


 思いのほか男は重く、慌てて体を押し当てる。

「ふおっ!?」


「ちょっ、大丈夫かいな、ホンマ」

「ほ、ほんま?」


 背中に感じる柔らかい感触に慌てるウッくん。


 聞き慣れない方言にも戸惑いながら、姿勢を正し、ノアールにお礼を言う。


「なんか、くすぐったいな。ウイックはんは、ちょっと触ったくらいやと喜んでもくれへんからな」


 真っ赤になって俯く男を前に、新鮮な感触が面白い。


「さぁ、行きましょうか。ノアはウッくんの事をお願いね」


「ええで、ウチが一緒やから安心しぃや」


 含み笑いのノアールは、わざと体を密着させて、男の左腕にしがみつく。


「はぁあ、お、おい、そんなにくっつくな」


「なんでや、この方があんたの変化に気付きやすいやろ?」


「お、女がそんな簡単に、お、男に身を委ねるもんじゃあないだろ」


 狼狽える姿がまた可愛い。


 ノアールは更に顔を近付けて頬を寄せ合う。

「はわっ!」


「もう、遊んでないで、行くよ」


 表情を引き締め、感情を押し殺しているが、ノアールはヒシヒシと感じていた。


「ミルにゃんも一緒に遊ぶにゃん」


 おふざけモードのノアールは、喉を鳴らしながら、ウッくんの顔を嘗め回す。


「やんない、その人はやっぱり私達がよく知るウイックじゃあないしね」


「……それもそうやな」


 ドギマギしながらも悪い気がしなくなっていたウッくんだったが、二人の遣り取りももっともだと襟元を正して、ただ手に取るように分かる消沈する意気が、今度はミルの母性に火をつけた。


「後ろからの援護、期待してるからね」


 優しくハグをして、耳元で囁き、そこで切り替えて先に歩き出す。


「ここがただの洞窟じゃあない事は分かってたけど、こんな凝った罠があるなんて聞いた事ないわね」


 みんなで行列になり、階段を下りてきたはずなのに、気付けば離ればなれになり、階段なんてどこにもない、抜け道一本の行き止まりに飛ばされた。


 しかも一人してしまうのではなく、こうなるとこの三人である事にも、意味があるように思えてくる。


 通路を進むと、遺跡のような人の手が加えられた床や壁の広い廊下に出た。


「なんだろう、罠のニオイしかしてこないわね」


「どっちにいくんや?」


 右か左か、正直言って分かるはずがない。


「ノアってマッピングできる?」


「はははっ、直感や第六感に頼っていいやろか」


 ソロで秘宝ハンターをしていたミルは、それなりにマッピングも経験はあるが、元来の性格で向いていない事は分かっている。


「な、なんなら俺がやろうか?」


 彼は錬金術師という、細かい作業が得意な職業で、遺伝子は同じ筈の冒険家のウイックは、わざわざマッピングなんてせずとも、見ただけで地形を覚えてしまうことを、ミルは直に見て感心した覚えがある。


「貴方はできる」


「当然」


 即答で返されて、疑う必要もないと思いながら。


「じゃあ試しにやってもらいましょうか」


 罠鑑定スキルを持っているノアールが先頭に、マッピング係は真ん中、ミルは最後尾で全体を見回す。


 遺跡造りのフロアは、二ブロックを通過するだけで、四つの罠を見つけ、その事如くを避けるノアールに、引っ掛かるウッくん。


 壁から飛び出す矢、落とし穴、転送ゴブリンが斬りかかり、天上からも鉄球が振ってきた。


 それを助けるミルと言う流れができて、剣士の少女は流石に強めの注意を与えた。


「ご、ごめん……」


「あぁ~あ、泣かしたらあかんよ。ミルにゃん」


「……ノア、そのにゃん付けで呼ぶのはやめて」


「いや、そろそろ気ぃ遣わんでいいかなおもてな。ウチは親しい相手はみんな、そう呼んでるし」


「ああ、そうなの? はいはい……」


 ミルはともかくみんなとの合流を明確な目標にして、戦闘に立って罠を尽く破壊し、最短コースを勘で当てて、次の階段を見つけるのだった。

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