17 気持ちを入れ替えて、冒険に胸躍らせる噺
戻った新島中心部は、すでに多くの兵士や騎士達が調査を始めていた。
陣頭指揮には本物のセドリック皇子の姿があり、アーチカが挨拶をすると、実の妹におかしいくらいの緊張を見せた。
「では我々も独自に調査をさせてもらう。よろしいな」
気持ちがいいくらいに毅然とした態度の妹を前に、挙動不審の兄は不承不承首を縦に振るしかできなかった。
「こっちであっているのか?」
「えぇ、そうよぉ~、一晩うろうろして、みつけたのぉ~~~」
アーチカの肩にある子供向けの着せ替え人形が道案内をしてくれる。
「にしてもあんた、魂魄が浄化されたんとちゃうんかったんか?」
「まぁね。たまたまよぉ、たまたま♪ あそこに死んでた兵士のポーチにぃ、この人形が入っててね。多分子供からもらったお守りじゃないのかしらぁ? 凄く気持ちがこもった物だったから、アタシの依り代にピッタリだったのよ」
稼働箇所は首と肩と足の付け根だけ、首は横に振るだけ、肩は縦軸一本しかないので、上下と前後に回す事しかできない。
「可愛くなっちゃたじゃあないの。思いのこもったお守りか……、大事にしないいかんぞ」
エレノアは言葉とは裏腹に、ダンルーの新しい体を乱暴に持ち上げて、スカートの中を覗き込む。
「ちょっと!? 乱暴にしないで、この体だと歩く事も大変なんだから、優しくしてよぉ~」
「あなた、もうキャラもブレブレなんだから、その変な喋り方やめたら?」
ミルにズバッと言い切られ、レクリエーションは終了。
目的地に辿り着くと、確かにそこは異質な空気が蔓延している奇妙な場所だった。
「しかし散策中に見つけた小汚ねぇ人形が、ダンルーだったとはな。驚きだぜ」
「それ酷くない? 小汚いはないでしょ。髪もボサボサだけど、服もツギハギだらけだけど、持ち主の思いが籠もってるのよ。ば、罰が当たるわよ」
涙を流す機能があれば号泣していそうな、ダンルーはおいておいて、問題の洞窟入り口である。
「下に伸びているみたいですよ」
中をのぞき込むイシュリー、入り口から既に階段になっていて中は真っ暗。
先頭には法術で明かりを生み出すエルラムが立ち、列の中程に経つエレノアが精霊を呼び出し、光をもたらす。
最後尾のシズは彼女自身がほんのり光っており、一同の足下は十分に照らし出されている。
「それにしても、本当にこの先も一緒に行くつもりか?」
「もちろんですわ」
「しかしお前も立場を考えて、あまり自分から危険に足を踏み入れるのは控えるべきだろう」
「そっくりそのままお返ししますわアーちゃん」
「アイナ、安全な場所で待っていろって」
列の最後尾附近で、何度目か分からないほどの問答を続けるアーチカとアイナニナ。
「あら、この世界において今、最も安全な場所は皆さんのいらっしゃるここを置いて、他にあるわけがないじゃないですか」
確かにそれは違いないだろうとアーチカも思っている。
「しかしだな。お前はまだ子供だ。それに攻撃秘術に長けているわけでもない。なにかあってからでは……」
「ワタクシを子供扱いしないでくださいな。胸だってワタクシの方が大きいのですのよ」
12歳は歴とした子供だが、子供扱いをされて、アイナニナは戦闘態勢を取り、真っ向から勝負に挑んだ。
「む、胸の話をするな。胸が大きいと剣を振るうのには邪魔なのだ」
「ですが、殿方の気を引くには、やはり大きい方が、それにミルさんは立派な剣士様ではありませんか、その様な言い訳、見苦しいですわよ」
対抗したいアーチカだったが、なんとも分が悪い。どうにか話を元に戻さなくてはならない。
「わ、ワタシの事はいいのだ。……もうここまで来たのだしな。分かった。それではお前はシズとセイラから絶対に離れるのではないぞ。可能ならウイックにしがみついておけばいい」
政治手腕でなら負けはしまいが、単なる口喧嘩ではどうも勝てそうもない。
姉妹そろって、昔から口が達者で本当に参る。
「あっ、少し明るい場所に出ましたよ。広い空間があります」
先頭を行くエルラムと並んで歩いていた、イシュリーが躍り出て辺りを警戒する。
「……とりあえずは何もないですね」
「けどあんまり見通せないわね。けど動いてるのは私達だけじゃあないよ。あっちの方に何かいる。振動を感じる」
空気の振動を肌で感じる事の出来るピューレも後に続き、武器を大鎚にして前方の岩場の影を注視する。
敵を確認することなく法術をお見舞いするエルラム。
水の礫が見えない物陰に高速で飛んでいく。
「ぎゃっ!?」
複数の悲鳴と同時に飛び出してきたのは、大きな牙を携えたウサギ、人の頭の二倍ある体で、一瞬で距離を詰め、巨大な牙と鋭い爪で襲いかかってくる。
「でぇいやぁーーー!」
さほど広くない空間で器用に大槌を振り回し、同時に四匹をバラバラにし、二つに分けた武器は戦斧にし、持ち手同士をくっつけ柄を伸ばす。
「あんな変形パターンあったのか?」
「設定はしてないけど、ピューレが遊んでいるうちに見つけたんだ。ポールアックスってとこだね」
諸刃の長柄戦斧を振り回し、後から後からで来るウサギを次々対峙していく。
「いいな、俺もあれ欲しいかも」
「ウイック、もう吹っ切れたみだいだね」
「だって、ウイックさんはウイックさんですから」
ピューレの戦い振りを見て興奮する、いつもの調子のウイックを見て、ミルもイシュリーも嬉しくなる。
全体の空気もよく、一人の男のモヤモヤだけが膨らんでいく。
「お前、付いてきてよかったのかよ。アンテの理力銃、使えるんだろうな」
「な、嘗めるなよ。俺だって錬金術師だ。アイテムの扱いなんて、なんてことないさ」
隊列の中心、エレノアの隣で、何もないのにずっと銃を構えっぱなしの錬金術師のウイック、船の上で彼の事は、子供の頃の愛称で呼ぶ事に決まった。
「ウッくんは私の側で、私を護ってくれていればいいからね」
マニエルは懐かしさが甦り、この場でただ一人ウッくんに寄り添い、優しく接する。
いやもう一人その様な思いの少女がいたのだが、男と思っていた、夢の中でもずっと男の親友として暮らしてきたアンテを見て一言、「気持ち悪い」と溢したもんだから、あまりのショックから、今もウッくんとは目を合わせる事ができないでいる。
またいつの間にか魔女セレーヌの姿はなくなっているが、14人のパーティーは、こうしてダンジョン攻略を開始した。




