11 尻拭いは大変ですよ。という噺
さすがは帝国軍の最強と呼ばれた部隊だけ合って、無能な指揮官の下にあって、よく前戦を維持していると言えよう。
しかしそれは首の皮一枚、ギリギリのところでの攻防。
セドリックの邪魔が入らないように、南海岸にまで移動してから上陸し、急ぎ幕営を築いている間に、飛ばした無人偵察機からの映像が届いた。
「敵の数は思ったほどでもないが、なんだあのデカイ三匹は」
モニターをアンテと並んで眺めていたアーチカが、冷や汗を流す。
「なんかいたのか?」
「ウイック、伝承に出てくるバケモノだよ。そしてそいつ等が護ってるのは信じられないサイズの魔物門さ」
アンテが場所を空けてくれて、モニターを覗き込むウイックは目を見開いた。
「金竜と銀竜、それに暗黒竜か。三神竜が理性を失って暴れてるってのか?」
「いや、これは僕の推測でしかないんだけど、今まで出てきている獣たちはみんな、なんらかな方法で作られた複製じゃあないかな?」
その大半は魔物と妖怪の混成軍だが、魔物に関しては大群も不思議とは思わないが、妖怪や異常状態の精霊に、ましてや一部で研究をされていただけの亜神竜や人工天使が、次から次に攻めてくるのは自然には起こりえない。
「あの魔物門そっくりの法陣も、もしかしたら別物かもしれない。遠くからじゃあ読めないけど」
本物の生物でなくとも、能力は本物と同じ。
大群を前に人種の奮闘は実を結ばず、その理由は明白と言えた。
「総指揮官はどこにいるんだ? それらしいヤツは見えねぇぞ」
「兄様ならお前達が合った幕舎だろうな」
「なに?」
それは戦場から最後方の本陣、そこから更に海岸に新しく立てさせた幕舎。
「なにかあればいの一番で、停留している船で逃げ出すつもりなのだろう」
「そんなので兵士は付いていけてんのかよ」
総大将自ら士気を下げていては、勝ち戦も落としてしまう。
「だから皇帝はワタシを前戦指揮官に命じたのだ。ただ兄様は軍事長官という立場上、援軍を任されて派遣された以上引くに引けんが、あの人はそもそもそんな気概のある武人ではない」
前戦には自分の影武者、本人はいつでも撤退できる位置で、なんの指示も出さずに踏ん反り返っている。
「だから兄様はワタシが戦場に顔を出すのを嫌うのだ。第二皇子と名告っていても、本物の皇女に頭を下げん分けにはいかんからな」
しかしウイック達が帰還し、準備も整った今、手をこまねいている理由はない。
「ワタシはあの人の立場なぞ関係ないからな。突っ込むぞ」
アーチカは親衛隊に支援組の護衛を命じた。
烙印の乙女がどれだけの力があるのかを示したアーチカに、付いていこうと言う隊員は誰もいなく、アイナが前戦に向かう事を止める者もいない。
目標は巨大魔物門。
その為には三匹のドラゴンを、先ずどうにかしないとならない。
「それだけじゃあないだろう。報告にあった亜神竜だとか、巨竜だとかも山ほどいるのだぞ」
兵士達が奮闘したのは間違いない。
想定よりも少なくなっている雑魚モンスター達を、マニエルのドラゴンブレスとエルラムの極大法術、“ブラスト・レイ”で進行方向の敵を一掃する。
「なんだエル、その術? 俺の秘弾ほどじゃあねぇけど、光束よりよっぽど強ぇじゃねぇか」
「むぅ! 貴方の“秘弾の秘術”を真似たんですの。ワタクシの妖力では今のが精一杯ですけど」
先鋒で獣の群れに飛び込むのはアンテとエレノア、ミサイルに理力銃と妖精達が、多くの魔物や妖怪を吹き飛ばしてしまう。
シズの祈りが幽霊やレイスを縛り、ノアールの呪術が自我なき獣の体を自壊させる。
四人の波状攻撃をかいくぐって、突っ込んでくる敵をノアールとピューレ、アーチカとダンルーが各個撃破する。
空中戦力としてミルとマニエルがあたり、ウイックとアイナの前にはイシュリーとエレノアが立ち、その後ろに立つセイラが防御結界を張り、殿にアーチカの親衛隊が並んで後方警戒をしている。
「なぁ、俺も一緒に戦うぜ」
「ダメです。ウイックさんには大きな仕事が待ってるんですから」
イシュリーは二体のゴーレムも出して、隙を見せぬように視界をリンクさせる。
「そのマスクの中に映るんだろ? 頭痛くなんねぇのか?」
「もう慣れました」
「慣れたって、アンテに弄ってもらったのって昨日なんだろ? すげぇな」
アーチカ達が参入して数刻、雑魚モンスターはその数を半数にまで減らす。
「残りは2万ほどだよ」
ワークボットを取り出したアンテは空中戦に加わり、戦場の全体を無人偵察機も使って把握すると同時に、この場にいる兵士に拡声器を使って待避を促す。
少女達の快進撃を目の当たりにして、騎士も兵士も傭兵も、全ての人種が離脱する。
「みんなも注意してね。ちょっと大きいの撃ち込むよ」
ストレージから大型弾頭弾を取り出したアンテは、最も多く獣が密集している地点に向けて発射する。
着弾と共に拡がる爆風。
まるでキノコのような黒煙が上がるが、衝撃は弾頭から発せられる結界により止められて、こちらまでは届かない。
たったの一発で半数が消え去った獣たちは、見えている範囲にどれだけの兵団、師団がいようと、全てを無視して一斉に少女達目掛けて襲いかかってきた。
「本当に行動が分かり易くて助かるよ」
集まる獣を前にアンテは大きな長筒を持ち出し、後ろから竜化したマニエルがドラゴンブレスを全力全開で放射し、筒で増幅された咆哮で、残りのほとんどを消し飛ばした。
「やったねマーニー! どう? ウイックの秘術並みの威力でしょ」
こんな事もあろうかと、用意しておいた甲斐があった。
「小物は他の兵士に任せればいい、お前達はその手伝いをしてやれ、私の名前を出しても構わん。煩わしい奴らを頼んだぞ」
親衛隊員達が隊列から離れ、大物退治へ。
残るは数匹の大型種と三匹のドラゴン。




