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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第五幕   若くして新たな伝説を残す男の探遊記
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9 人が作りし知恵袋が叡知を示した噺

獣王氷暴殺じゅうおうひょうばくさつ


 実体のない敵に対して有効な、相手を氷漬けにしてから打撃を大ダメージで与える技は、この敵にも有効だった。


 凍った体は振動を生めず、獣王拳は氷ごと敵を粉砕した。


 結構苦戦したが、ようやく有効打を与える事ができ、二人はトドメを叩き込もうとする。


「なっ!? なによこいつ」


 驚愕のミルが見たのは、一気に精神力を持っていかれるような光景。


「回復するにしても、いくらなんでも早過ぎるでしょ」


「これはちょっと、もう少しキチンと回復しておくべきでしたね、私たちも」


 階層主は、今切り落とした右手を再生し、吐血したとは思えないほどの咆吼を上げて、渾身の一撃を二人に振る舞った。


「ちょっと! 攻撃力が増してんじゃないの?」


 虎鉄で受けるには危険と感じたミルは、牛の一撃を躱して、刀を下段から切り上げる。


「刀っていいわよね。いくら強度を増しても切り刻んであげるわよ」


 牛の体は確かに硬さを増している。


 だが卓越した剣技をもって振るう刃は、鋼鉄さえも紙切れのように切り裂いてしまう。


 振動をモノともせず、一刀で腹部を割いて臓物をぶちまけさせる。


「これでどう? 今度こそ終わりでしょ」


 その願いは空しく、出たモノは元の場所へ、割けたモノは切れ目そのものが消えてなくなる。


「キリがない。ウイック、あんたの大砲で焼き殺せない?」


 AIの解析中で動かないウイックに、ミルは一撃の必殺を要求する。


「どうだアイコ、やれそうか?」


『解析は間もなく完了です。ですが現状でも敵の行動パターンの分析は完了しています』


「……言ってる事はさっぱりだが、アイツに俺の“秘弾ひだんの秘術”は当てられそうか?」


 アンテなら分かり易く説明してくれたかもしれないが、今はそんな問答もしてられない。


 端的に自分がどうすればいいかを聞くとAIは。


『手順をご説明します』


 それは奇抜というか、そんな事が可能なのかすら、ウイックでは想像もできない一手だった。


「マジでやれんのか?」


『YES、その為にはミレファール様とイシュリー様にも、ご協力をお願いします』


「そうか……」


 戦闘中の二人にゆっくりと説明をしている暇はない。


 戦闘は継続してもらったまま、念話でAIのプランを二人に伝える。


「頼めるか?」


『お安いご用よ。けど本当にそんな事できるの?』


「ああ、今はこいつの言う事を信用する。デカイのを当ててやるよ」


『分かりました。いつでも始めてください』


 ウイックはAIに指示をし、煙幕弾を一発、狼煙代わりに撃ち出した。


 ミサイルの噴射にはマナを利用する。


 牛は飛んできた円筒の固まりに食らいつき、そいつは爆発すると、黒い煙を周囲に拡散する。


「ミル!」


 虎鉄を手に煙幕の中に突っ込むミルは、ウイックの念話に誘導されるままに足を運ぶと、暗闇の中で四回斬りつけて離脱。


 そこへ今度はイシュリーが飛び込んで、獣の体を氷漬けにする。


「ウイックさん、今です」


 役割を果たしたイシュリーも待避し、ウイックは身断で作った分身に瞬間移動をさせて、獣にへばりつかせた。


 煙幕が晴れるとそこには馬の姿が、暗闇の中ミルに切り落とされた四肢も再生し、イシュリーの氷からも解放されている。


「OKだ。二人とも離れてくれ」


 準備は整った。


 ウイックは瞬時に頂点まで高めた秘弾を撃ち放つ。


 馬はなぜか変異することなく、また避けることなくエネルギーの本流に呑み込まれてしまう。


「やった。おお、すげぇ、本当にあいつらつがいだったってことか?」


 獣を解析していたAIは結論として、牛と馬は元々は二体の魔物で、融合する事で能力の共有化がされたものだと説明してくれた。


 牛と馬は雄と雌。


 正に雌雄同体となり、阿吽の呼吸で攻防を一体化させていた。


 ウイックがAIの指示で分身に遂行させたのは、一つの術を獣にかけること。


 分身は馬に胸を貫かれて消えてしまったが、ちゃんと仕事はこなした。


「まさかこんな事が起きるとはなぁ」


 牛と馬は“性換せいかんの秘術”によって、性別が逆転し、牛になろうとすると馬に、馬になろうとすると牛になってしまう効果を浴びる。


 混乱したまま秘術の光に呑み込まれていった。


「これでどうだ」


 光が収まるとその中心には、一つの固まりが、完全に蒸発させるつもりだったが、どうやら核の破壊までには至らなかったようだ。


「あいつ自身、術式に耐性があったのか、特殊術式は防げなかったみてぇだが、直接攻撃系の術に持ち堪えやがった」


 恐らく残ったのは、獣の胸の辺りだったのだろう。


 四肢も頭部もふっとび、胴体は真っ黒焦げ、これでまだ生きているなんて誰が思えるだろう。


「だったらもう一度」


『マスター、後はお任せください。完全に解析が完了しました』


 ここまでの働きを見て、ウイックはAIの言葉に首を縦に振る。


「よし、やってみてくれ。それがダメなら、後は何発でも秘弾を食らわせてやるからな」


 攻撃の主導権をAIに託した途端、階層主は跡形もなく吹き飛んで消えた。


『残弾ゼロ、これより弾倉の製造、再装填を開始します』


 AIはミサイルを効率よく使って、獣が再生できないレベルまで爆炎の中に閉じ込めた。


 胴体の防御膜を破るのも時間の問題、核を破壊され、魔物は再生能力を失う。


 そこに残ったのは二枚のメダリオンだけだった。

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