9 人が作りし知恵袋が叡知を示した噺
「獣王氷暴殺」
実体のない敵に対して有効な、相手を氷漬けにしてから打撃を大ダメージで与える技は、この敵にも有効だった。
凍った体は振動を生めず、獣王拳は氷ごと敵を粉砕した。
結構苦戦したが、ようやく有効打を与える事ができ、二人はトドメを叩き込もうとする。
「なっ!? なによこいつ」
驚愕のミルが見たのは、一気に精神力を持っていかれるような光景。
「回復するにしても、いくらなんでも早過ぎるでしょ」
「これはちょっと、もう少しキチンと回復しておくべきでしたね、私たちも」
階層主は、今切り落とした右手を再生し、吐血したとは思えないほどの咆吼を上げて、渾身の一撃を二人に振る舞った。
「ちょっと! 攻撃力が増してんじゃないの?」
虎鉄で受けるには危険と感じたミルは、牛の一撃を躱して、刀を下段から切り上げる。
「刀っていいわよね。いくら強度を増しても切り刻んであげるわよ」
牛の体は確かに硬さを増している。
だが卓越した剣技をもって振るう刃は、鋼鉄さえも紙切れのように切り裂いてしまう。
振動をモノともせず、一刀で腹部を割いて臓物をぶちまけさせる。
「これでどう? 今度こそ終わりでしょ」
その願いは空しく、出たモノは元の場所へ、割けたモノは切れ目そのものが消えてなくなる。
「キリがない。ウイック、あんたの大砲で焼き殺せない?」
AIの解析中で動かないウイックに、ミルは一撃の必殺を要求する。
「どうだアイコ、やれそうか?」
『解析は間もなく完了です。ですが現状でも敵の行動パターンの分析は完了しています』
「……言ってる事はさっぱりだが、アイツに俺の“秘弾の秘術”は当てられそうか?」
アンテなら分かり易く説明してくれたかもしれないが、今はそんな問答もしてられない。
端的に自分がどうすればいいかを聞くとAIは。
『手順をご説明します』
それは奇抜というか、そんな事が可能なのかすら、ウイックでは想像もできない一手だった。
「マジでやれんのか?」
『YES、その為にはミレファール様とイシュリー様にも、ご協力をお願いします』
「そうか……」
戦闘中の二人にゆっくりと説明をしている暇はない。
戦闘は継続してもらったまま、念話でAIのプランを二人に伝える。
「頼めるか?」
『お安いご用よ。けど本当にそんな事できるの?』
「ああ、今はこいつの言う事を信用する。デカイのを当ててやるよ」
『分かりました。いつでも始めてください』
ウイックはAIに指示をし、煙幕弾を一発、狼煙代わりに撃ち出した。
ミサイルの噴射にはマナを利用する。
牛は飛んできた円筒の固まりに食らいつき、そいつは爆発すると、黒い煙を周囲に拡散する。
「ミル!」
虎鉄を手に煙幕の中に突っ込むミルは、ウイックの念話に誘導されるままに足を運ぶと、暗闇の中で四回斬りつけて離脱。
そこへ今度はイシュリーが飛び込んで、獣の体を氷漬けにする。
「ウイックさん、今です」
役割を果たしたイシュリーも待避し、ウイックは身断で作った分身に瞬間移動をさせて、獣にへばりつかせた。
煙幕が晴れるとそこには馬の姿が、暗闇の中ミルに切り落とされた四肢も再生し、イシュリーの氷からも解放されている。
「OKだ。二人とも離れてくれ」
準備は整った。
ウイックは瞬時に頂点まで高めた秘弾を撃ち放つ。
馬はなぜか変異することなく、また避けることなくエネルギーの本流に呑み込まれてしまう。
「やった。おお、すげぇ、本当にあいつら番だったってことか?」
獣を解析していたAIは結論として、牛と馬は元々は二体の魔物で、融合する事で能力の共有化がされたものだと説明してくれた。
牛と馬は雄と雌。
正に雌雄同体となり、阿吽の呼吸で攻防を一体化させていた。
ウイックがAIの指示で分身に遂行させたのは、一つの術を獣にかけること。
分身は馬に胸を貫かれて消えてしまったが、ちゃんと仕事はこなした。
「まさかこんな事が起きるとはなぁ」
牛と馬は“性換の秘術”によって、性別が逆転し、牛になろうとすると馬に、馬になろうとすると牛になってしまう効果を浴びる。
混乱したまま秘術の光に呑み込まれていった。
「これでどうだ」
光が収まるとその中心には、一つの固まりが、完全に蒸発させるつもりだったが、どうやら核の破壊までには至らなかったようだ。
「あいつ自身、術式に耐性があったのか、特殊術式は防げなかったみてぇだが、直接攻撃系の術に持ち堪えやがった」
恐らく残ったのは、獣の胸の辺りだったのだろう。
四肢も頭部もふっとび、胴体は真っ黒焦げ、これでまだ生きているなんて誰が思えるだろう。
「だったらもう一度」
『マスター、後はお任せください。完全に解析が完了しました』
ここまでの働きを見て、ウイックはAIの言葉に首を縦に振る。
「よし、やってみてくれ。それがダメなら、後は何発でも秘弾を食らわせてやるからな」
攻撃の主導権をAIに託した途端、階層主は跡形もなく吹き飛んで消えた。
『残弾ゼロ、これより弾倉の製造、再装填を開始します』
AIはミサイルを効率よく使って、獣が再生できないレベルまで爆炎の中に閉じ込めた。
胴体の防御膜を破るのも時間の問題、核を破壊され、魔物は再生能力を失う。
そこに残ったのは二枚のメダリオンだけだった。




