2 神聖樹の中は魔物の巣窟になっている噺
エルラムのレーダーが示すとおり、確かに神聖樹の中には大空洞があり、幹がうねっていて上に登っていく事ができる。
「けど、飛んでいくって訳にはいかねぇな」
誰かが手を加えてできたかのように、人が一人通るのがやっとくらいの通路は、面倒でもゆっくり歩いて登るしかない。
「あんまりゆっくりって訳にもいかねぇしな。ミル、イシュリー、走るぞ」
ウイックはプロテクターのホバーダッシュでうねりを登り始め、ライアとアイラの外殻を填めて、イシュリーも同じように後に続く。
「ちょっ、私そんな進み方できないわよ」
ミルは置いていかれないように懸命に全力で走るが、ただ走っていても追いつけそうもない。
「しょうがねぇな」
戻ってきたウイックはミルを抱きかかえ、先を急ぐ。
「ミルさんばっかりずるいです。ウイックさん、後で私も抱いてくださいね」
「イシュリー貴方、それ意味違ってない?」
ミルはウイックの首に回している手に力を込め、顔を近付ける。
「ミルさんもそっちの意味でくっつくなら、一人で走ってください」
少し前までウイックのイタズラを決して許さなかったミルが、スキンシップを受け入れているのを見て、イシュリーは頬を膨らませる。
「けどそうね。ウイック、今はそんな場合じゃあないんだし、器用に指を動かすのやめてくれない?」
「お、おお……」
殴られるのも斬られるのも御免だが、つい動かしていた手を止めるのに、ミルから言葉で諫められるとは思っていなかった。
暫くして少し広い場所に出る三人。
「こんな所にも魔物門か。簡単に片が付くとは思っていなかったが、結構な獣の数だな。二人とも戦闘が目的じゃあねぇ。先に行くルートを見つけたら進むのが最優先な」
ミルを下ろし、範囲攻撃術“膨爆の秘術”を発動する。
範囲指定は黙視による感覚で、しばらく爆炎を巻き起こし続け、目に見える害意ある獣たちは、そのほとんどを殲滅される。
「なんか奥からウジャウジャ出てくるんだけど」
目の前の魔物門は潰したが、顔を出す獣の数から言って、この先にも魔物門はあると見て間違いない。
「こいつら本当に魔門界から来てんじゃあないのかよ」
「ウイックさん、あれ」
炎耐性が高く、膨爆で倒せなかった獣を始末し終えて、戻ってくるイシュリーが指差す。
「亜神竜にそっくりじゃあねぇか。それにあっちは人工天使? だよな」
妖怪や魔獣などが多い中、亜神竜の姿にも驚いたが、まさか人工天使まで出てこられては、魔物門の向こうの世界が気になるところだが、確かめるためであっても、不用意に飛び込んだりはできない。
「まさかあの男がまた?」
「可能性はゼロじゃあねぇが、あの時のあれで全部使ったはずだぜ。あの手のヤローは出し惜しみはしねぇ。そう言ったモンだからな」
あれから時間も経っていないのに、これだけの数を揃えたってのも考えられない。
なによりあれだけ懲らしめられて、直ぐに復活もあり得ない。
「今は余計な事を考えている時じゃあねぇ、一気に倒して上に向かうぞ」
威勢良く気合いを入れるのは簡単だが、狭い空間にこうもウジャウジャ出てこられては、一歩進むのにも一苦労。
「そうだ。ミルよ、天上界でもやったみたいに、こいつら一気に浄化できねぇのか?」
それこそ無数の死霊を無に還したあの奇跡を、いまここで再現できれば、浄化された空気が悪しき者を暫く寄せ付けなくもなるはず。
「そんな都合良くいかないわよ。ここの聖光気の濃度で、あんな高度な奇跡を起こせるわけないでしょ。それにいくらか片付けられたとしても、私、その後はまともに動けなくなるわよ、きっと」
「なんだよ。使えねぇ必殺技だな」
「気を悪くするわよ」
軽口を叩きながらも、着実に一匹ずつ片付けていくが、やはり拉致があかない。
ここが神聖樹の中でなければ、殲滅級の術で一挙に駆逐していけるものを。
「ウイックは私達の後ろで、自分の身を護る事だけ考えていて」
ミルは剣聖ミハイル=バファエラが鍛えた、新しいバスタードソードを両手に踊る。それに合わせてイシュリーはライアと舞う。
各個撃破となれば、この二人は最強コンビ。
次から次へと、一撃必殺で倒していき、順調に奥へと進んでいく。
ウイックとアイラも後方からの支援をしながら、置いていかれないように懸命に付いていった。
少し広がりを見せた場所で、大きな魔物門を見つけて破壊したことで、獣の群れが現れなくなるが、その向こうには既に巨大な影が待っていた。
「こいつがここの階層主か」
一つ目の巨人が二体、赤いのと青いのがイシュリーに近付き、殴りかかってくる。
軽く交わすイシュリーに、赤い巨人は手に持つ巨大な棍棒を振り下ろす。
棒には無数の突起、その一つ一つが外れて高速で飛んでくる。
「きゃああああ!」
「イシュリー!?」
咄嗟に庇うライアとアイラはバラバラに、被弾したイシュリーも壁まで飛ばされる。
ウイックは敵に背中を向けて、全力でイシュリーの元へ走る。
隙だらけの背中に赤いヤツは同じ攻撃を仕掛けようとするが、グレートソードに持ち替えたミルが斬りかかり、突起攻撃をさせずに済んだが、今の打ち込みによる手応えを感じる事もできなかった。
「青いヤツは防御担当ってやつ?」
物理攻撃も術による衝撃も、魔力でできた障壁で受け止められ、それと同時に赤い巨人の棍棒が襲いかかってくる。
「ミルぅ!?」
大きな粉塵が舞い上がり、空洞内に爆音が響き渡る。




