37 世界の急変、準備が急がれる噺
帰還した海底都市は慌ただしかった。
急ぎ海底都市の代表カンパーニの元へ向かうと、そこにはアンテ達の姿もあった。
「なんかあったのか?」
「ウイック、それにミルも無事に帰ってこられたんだね」
「貴方も元気そうでなによりよアンテ」
手を取り合い、再会を喜ぶ二人、質問をしたウイックは放ったらかし。
「ごめんごめん、あのね。トンでもない事態が起こってね。世界中が大慌てなんだよ」
状況確認のために各国が情報を共有し、調査員を手配しているのだとか。
「僕も無人偵察機を飛ばして、世界中を見て回ってるんだけど、トンでもないの一言じゃあ片付けられないんだ」
話が長引きそうなので場所を移し、食事を取りながらアンテの説明を受ける事にする。
「先ずは驚いて欲しい。世界地図に新たに島が追加されたことに」
取り出したのは、みんなで見られるように用意した巨大なモニター。
中央大陸の内海洋、ウルアイザ帝国とクラクシュナ王国の調度中間地点に、新たな島が出現した。
その島の中央には、とてつもなく大きな樹がそびえ立っている。
「でかい樹?」
「うん、神聖樹」
五つの世界を繋げる、創世の神が一番最初に育てた大樹。
「待てよ。てことは極北大陸にある神聖樹が、場所を移したのか?」
神話の時代から極北の氷漬けの大陸、その中央に立っている神聖樹。
「それは変わらずに立っているよ。それとは別に現れたんだよ」
「それって本当に神聖樹なのかよ」
見せてもらった映像にある大樹は、よく知るそれに比べてあまりに大きいように思える。
「新島の大樹は他の各世界の樹とも繋がっている。間違いなく同じものだと言っていいよ」
確かに大きなニュースではあるが、各国がそんなに急いで情報を得ようとするほどの事なのか?
「一番の問題はね、各世界の獣が流れ込んできていて、暴走しているそうなんだよ」
魔獣に霊獣、妖怪などが確認されているが、どれもが見境なく暴れているそうだ。
「神竜に似た未確認のデカブツもいるとかでさ。今は情報が必要なんだよ」
新島の中で溢れかえり、大海洋界の世界各地でも魔物門が一斉に発生し、そこからも荒ぶる獣が大量に出現しているそうな。
事態の収拾にカンパーニを始め、各国の要人はこれから世界会議を予定しているのだとか。
「僕達にも依頼はきているけど、アーチカ皇女殿下やカンパーニさんは、十分休息を取ってからでいいって言ってくれている。準備を整えたら直ぐに地上へ向かえるように、ヴァンナ海賊団のアジトの写真は用意してあるよ」
セイラとピューレ、ダンルーとシズもウイックのチームとして共に行動できるように、海底都市に留まっている。
「大変を通り越して、世界の危機真っ只中って感じだな」
だからこそ十分な準備と、休息が必要と言ってくれている。
お言葉に甘えてではないが、足手まといにならないように、今日一日はゆっくりとさせてもらう事とした。
「そういや、シズとダンルーはどこにいるんだ?」
セイラとピューレは食事の間に合流してくれたが、二人の姿はまだ見ていない。
「ああ、そうそうエル」
「なんですの?」
「シズがね。予定以上に仕立てた生地で、君のレシピで術衣を作ったから見て欲しいって。人魚軍の詰め所の一室で仕上げをしているんだったよ」
「ワタクシの? ああ、あれの事ですね」
人の摂るような食事の必要のない二人、出撃のための準備を今も続けてくれているそうだ。
食後、シズ達のところへ行く途中、セイラとピューレは新しい装備を見せてくれた。
「これは人魚の秘宝なの。補助秘術主体の私がサポーターとして役立つ事ができると思うわ」
手にした水晶球が何をする道具なのかは、この時には分からなかったが、大昔から大事に保管されてきた宝に期待はかなり高い。
「私のは武器ですよ。アンテさんが作ってくれました」
ストレージから取り出したのは大きな鎌。
「力任せに振り回せばいいってモンじゃないだろうに、使いこなせるのか?」
「ピューレは凄いよ。これを作る前に色んな武器を試してみてね」
器用な彼女は様々な武器を、一般兵士よりも上手に使いこなしてみせた。
「だからこれはただの武器じゃないんだよ。ピューレの戦闘に合わせて、形を変えられるようにしたんだ」
大釜、戦斧に大鎚、長剣に双剣、長刀と弓銃の七変化が可能。
「おもしれぇな。それにピューレもすげぇ」
シズは巫女の能力が向上していて、道具類は必要なく、ダンルーからは防具以外の装備に関しては、断固拒否されたとか。
「バトルは自分の拳一つで楽しむモンよ。だってさ」
シズ達が待つ部屋に到着し、中に入るとジャパニの巫女服姿の幽霊は、エルに近寄ると一枚の下着を手渡した。
「これ、成功したのですの?」
「はい、レシピ通りに作るだけでしたから、これなら皆様にもお使い頂けるかと」
「本当に作っちゃったんですのね。これあまり可愛くなくて、ワタクシは作る気にもなれませんでしたが、作ってしまった物は活用しないと勿体ないですの」
実のところエルラムは独学で、どんな衣装にも術式を紡いだ仕立てをする技術を確立している。
今まで誤魔化してきたが、法術士の術衣はその実、彼女の趣味で使っているに過ぎなかった。
「際どいデザインね。でもこれなら使ってもいいかも」
ミルは布面積が狭く、切れ込みの鋭いショーツを一枚手に取り、正直な感想を述べる。
これで腕力と防御力が向上するというのだから、使う価値はあるだろう。
装備の準備は整った。
「……ウイックちょっと、話があるの」
ミルが突然に耳打ちをしてきた。




