35 反撃開始、奈落の底に落とされる大天使の噺
「わ、わわ、ワタシのぉ、は、羽がぁあああ!?」
鮮血を浴びるウエディングドレスを脱ぎ去るミル。
床に落ちた兄の、赤く染まる純白の羽を拾い上げてストレージに入れる。
「ああ、あああああ……」
ミシェルフは体の痛みに耐えられる胆力を、全く持ち合わせていない。
ウイックの術で足を氷漬けにされている兵士達は近寄れない。
だが拘束のされていない神殿の巫女は大天使に走りより、手当の術を使う。
「ミ、ミナエル……」
「謝りはするわ。ごめんなさい。けどどんな手を使っても目的は果たす。貴方はやりすぎたのよ」
鮮血のドレスの下には、いつもの冒険服。
ミシェルフを切った短剣をしまって、手にはフランシュカを持ち、ウイックの傍らに寄り添う。
「これであんたからの邪魔がなくなる事を望むぜ」
後は即座にウイックの術で退散、そうしておけば良かった。
「ミルさんアブナイ!」
ウイックが司教の服を脱いでいる、その時だ。
「うぅ、ぐっ!?」
「ミル!」
イシュリーの警告で身を捻ったが間に合わず、ミルは翼を切り落とされる。
それでも怯まず大剣を振るうが、その相手を確認して寸での所で止めてしまう。
「クランヴェル!?」
手にはミシェルフの物とは別のサーベル。
「少しお話をしましょう。“フーラベルフェル”」
聖光気が高まるのを感じ、クランヴェルの言葉に従い、大気が水晶化する。
「天使も術を使うんだな」
着替えを終えたウイックがミルと肩を並べる。
「大丈夫か? 今すぐ直して……」
最後まで告げる前にウイックは水晶に飲み込まれる。
「ウイック!?」
「心配要りませんよ。そのバケモノはその程度で死んだりはしないでしょ?」
「クランヴェル、あなた」
「悔しいですか? それは私もですよ。よくもお兄様を……」
兄をやられた意趣返しというわけか?
「それは残念ね」
根元で切り落とされた翼だったが、ミルがマナを送り込むと即座に再生する。
「おお、便利じゃねぇか」
「あんたほどじゃないけどね。この程度で聖天使を害する事はできないわよ」
水晶を割り、出てきたウイックがミルの白い翼をマジマジと眺める。
「あら、本当に残念」
「あなた、表情と言動が真逆よ」
薄ら気味悪い笑みを浮かべる妹には、流石に引いてしまう。
「いい顔で笑うじゃない。嫌いじゃないわよ、お風呂で私達と喜んでた笑顔も、今のその表情も」
「その余裕、腹立つわね」
いきなりの先制攻撃、問答無用とばかりにサーベルを振り回し、その全てを大剣で凌いだ。
「いい動きしてんじゃねぇか、兄貴にあんたの実力の十分の一でも、仕込んでやればよかったんじゃあねぇか」
「あんたも少しは鍛錬したら? 筋はいいはずよ」
「大剣豪様のお墨付きか? 悪くねぇな」
敵意剥き出しの妹は、根元からへし折られた自分のサーベルを地面に投げ捨てる。
「一つお聞きしてもよろしいですか? お姉様」
「なにかしら?」
「お姉様はオーガイルには残らないのですよね」
「えぇ、そうね」
「先ほどお兄様から奪った翼はどうするおつもりですか?」
腕を組み、適当な水晶に腰を降ろして足も組む妹。
「もしかしてお母様に移植を?」
「そうよ。この秘術士にはそれだけの力があるから」
「へぇ、その変態が?」
ミルはこんな状況でもイタズラをしてくる男の目を短剣で潰す。
含み笑いの妹は、大きな溜め息を溢す。
「できればやめて欲しいんですけど、……でもまぁ、いいか。もうお母様があの方のご寵愛を賜る事はないでしょうし」
「あの方?」
復活したウイックが尋ねるが、クランヴェルは首を横に振る。
「なんでもありません。お兄様を始末してくれて、ありがとう。心からお礼するわ」
「もしかして貴方も教義から離れた思想をもっているの?」
ミシェルフの振る舞いもそうだが、クランヴェルの態度は明らかに天界のあり方に反している。
「お姉様もそうでしょ? これはお母様の、いえ……、お父様から受け継いだ遺伝子によるものでしょうね」
面倒くさそうに、クランヴェルは己の目的を吐露し始めた。




