34 大胆にも堂々と大衆に混じってみた噺
警戒の色は濃くて中止もありえると思われた結婚式、しかし予定通りに祭典は執り行われることとなり、ミルも間もなく聖天使昇華の儀式が完了する。
大天使ミシェルフと聖天使ミナエルの婚礼の儀は、聖皇都キシリアの街を回るパレードの後に聖王宮で執り行われる。
聖王宮に住まう聖人の王は、この都市の大司教も兼ねており、最も皇天使に忠実な信徒として敬われる存在。
婚礼の儀でも新郎新婦を祝福する大役を担っており、今も天に祈りを捧げている。
『大丈夫ですか? ウイックさん』
式の開始を待ち侘びていると、認識阻害を使って侵入しているイシュリーが、念話でウイックに話しかけてくる。
『心配かけるな。けど大丈夫だ。俺の回復力はこいつさえちゃんと働いていれば問題ないからな』
完全に本調子を取り戻してはいるが、まさか強い聖光気が、魔晶石の力を抑える効果を持っているとは考えもしなかった。
もちろんそれは魔晶石が完全に無防備になった状態の時だけ、油断なく立ち振る舞えば、今度こそミルを取り戻すことができるだろう。
『エル達はうまくやったか?』
聖王宮に潜り込んだウイックとイシュリ。
念のために聖堂近くに身を潜め、退路を確保するエレノア。
エルラムとノアールの二人は完全に別行動を取っている。
『目標を確保しましたの、今からエレノアさんの元へ行き、その後ワタクシ達も大聖堂へ向かいますの』
ここまでくれば後は出たとこ勝負。
十分な準備なんて何一つできてはいないが、策は講じた。切り札だって持っている。
『ウイック、新郎新婦を乗せた馬車が、もうじきそっちに到着するよ』
エルラムにメイクをしてもらい、完璧といえる変装をしたマニエルは、これも別行動で沿道の一般民衆の中にいる。
綺麗に着飾ったミルは、どことなく光翼の輝きが増しているようにも見える。
『凄いね。眩しいのに直視できるよ。なんて安らぐ光り方をするんだろう』
大きな馬車の上で立って、沿道の民衆に手を振る大天使よりも、座って笑顔を振りまく聖天使の方が際だっている。
『ウエディングドレスきれい。ねぇウイック、私達も負けないくらいに盛大な式を挙げようね』
『マーニーさん、今はそれどころじゃあないですよ。これだから脳みそ鍛えてない人は』
聖王宮の大聖堂内にいるイシュリーは、内部の兵士や天使の配置を確認しながら、祭壇側に移動する。
当たりの誰も獣王の姿は見えていない。息を潜めて聖天使の到着を待つ。
暫くして大聖堂正面口が大きく開かれて、主役が入場する。
祭壇には大司教の姿、金色に輝く結婚指輪も用意され、先ずは賛美歌、祈りの言葉、祈祷までを順調に済ませ、お互いの誓いの言葉を聞いたところで、ミシェルフは剣を抜いた。
「茶番はここまでだ。何のつもりかは知らんが、いつまでもつまらん芝居を続けるつもりだ?」
剣が向けられたのは式次を進める大司教だった。
「隠しもせずに垂れ流す理力、なんのつもりだ? ウイック=ラックワンド」
「ほぉ、案外無能と言うわけでもなさそうだな」
ウイックが外した変装用のマスク、用意したのはこれもエルラム。
見た目では判断できない変装が可能となる万能マスク、宴会用に持ち歩いている物を一枚使わせてもらった。
「良くできてんだろ? どこからどう見ても爺さんだ」
「本当に気持ち悪いくらいにな。だがその程度で騙されると思っていたのなら、その浅知恵に後悔しながら罰を受けるがいい」
周囲を取り囲む兵士達、頭上には天使達も次の命令を待っている。
大聖堂の内外には多くの民衆が固唾を呑んで、発生した騒動の行方を見守っている。
「確かに逃げ場はなさそうだな。こんな状況じゃあ、ミルを奪う事もできなさそうだ」
潔く天を仰ぐウイックに、構えた剣を男の首筋に向ける大天使。
「よくもまぁ、あれだけ体を壊されて、ここまで元通りになれたものだ、このバケモノめ」
魔晶石の再生能力に驚かされ、それでもその力を無力化できる方法を掴むミシェルフは強気の姿勢を崩さない。
「ここまで来た褒美だ。ワタシ自ら引導を渡してやろう」
サーベルを魔晶石のある胸に向けて突き出す。
「……な、なぜだ!?」
「そんな立派な装飾して、新品みたいな綺麗な剣持ってるから、もしかしたらと思ったがよ。お前鍛錬もしてねぇだろ」
綺麗に研いであるから、肌に当たれば切る事もできるだろうが、この男の力量では魔晶石には傷一つつける事もできない。
「大衆の面前で大した恥曝しだな」
「だ、だまれ! おいお前、こいつをさっさと討ち取れ!!」
ミシェルフはウイックの後ろにいる、目のあった兵士に命令する。
命令を受けた兵士が剣を上段に構えるが、一瞬で足下を氷漬けにされて踏み込む事ができない。
「お前がいきり立っている間に、こっちも準備できたかんな。指揮官がしょぼいと楽でいいわ」
「おのれ、ミナエル何をしている。は、早くこいつを切り刻め!」
花嫁はその衣装には似合わない、大きな剣を取りだし、目にもとまらぬ一閃で相手の背中を切りつけた。
「なぁ、なにがぁ!?」
大天使は己の身に起こった事が、直ぐには理解できなかった。




