33 全ては秘術士の為に、ぶつかる少女達の噺
「ワタシを相手にその様な大きな獲物で敵うと思っているのか?」
「大した自信だな。ではその胸を借りるとしよう」
エレノアはサイドステップでミルの左側に出て、体を右回りに捻りながら剣を横に払う。
当然予測していたミルは剣で受け止めて、更に押し返し、体勢を崩したところを下から上へ凪ぐ。
崩れた体制を無理に戻すことなく、エレノアは後ろへ一回転し、左腕に填めたスモールシールドで今度はこちらから押し返す。
「よくもまぁ、そんなにデカイ剣を自在に振れるものだ」
「なんて足裁きをするんだ。動きもトリッキーで読めん」
正に柔と剛の剣豪同士の闘いは、横から手を出すなんて事はできそうもない。
スピード任せの突進に、天使は翼を拡げて天井近くに回避する。
それを追うため、エレノアは精霊召還で、全身に風を纏い宙に浮く。
聖光気は大きく分類すれば精霊力と大差はなく、ここでなら召還に使う精霊力を集めるのは難しい事ではない。
「閉鎖空間なら翼を拡げるより、こっちの方が機動力は上だと思うぞ」
言われるまでもなく、空中戦を得意としていないミルは、地に足が付いている方が、体の自由が利く事は分かっている。
空中で追い打ちを受けると、回避は全く間に合わず、翼で受け止めると羽を畳んだまま自由落下。
追ってくるエレノアを待ち構える。
「真っ直ぐな闘い方をしてきたお前に、ワタシの動きは邪道そのものだろう?」
数回の打ち合いで相手の闘い方を見抜くエレノアは、長い間精霊界の女王直属の近衛隊長を続けて、身につけた業を惜しみなく披露する。
ロングソードで斬りつける回数は瞬時に5回。
その全てが致命傷を与える切っ先で、相手がミルでなければこれでフィニッシュであったろうに、驚きを見せたのはエレノアの方だった。
「まさかワタシの剣が、こうもガタガタになってしまうとはな」
精霊の力も宿る霊刀は、最強高度を誇る鉱石も簡単に切ってしまえるものを。
「その受け流し方は神業だな。ガードはギリギリだったのに、切っ先を追う目は確かなようだ」
大剣の強度は確かに高い、何より神懸かった今の剣捌きを前に、エレノアは自分の未熟を悔やみはしない。これは必然の結果だ。
「まだ予備の剣は残っているが、あのグレートソードをどうにかしないと、結果は同じだろうな」
新たな剣を構えるエレノアは、どう責めるかが決められない。
「どうした? もう終わりか」
勝利を確信したミルの目はだがしかし、次の瞬間曇る事となる。
「気付いたか?」
「おのれ、まさかこうもあっさりと、やられてしまうとはな」
この場所に今立っているのは6人だけ、同じ鎧を着た兵士達は気を失うか、呻きもがいている。中にはもう息をしていない者もいる。
「皆さんお強い方々でした。手加減もできませんのに、ヘタな抵抗をされては、行き過ぎる事もしかたのないこと」
援軍は現れない。恐らくはこの部屋で動けるほどの兵は、天上界にはもういないのだろう。
「お前も知っての通りだ。この者共はそれぞれの分野で究極と言える力を持っている。さぁ、どうする?」
「どうするもなにも決まっている。私一人でも全員を叩き潰すまでだ」
フランシュカを構える手が震えている。
エレノアとの打ち合いは、ミルにもかなりの負担を強いていた。
「もう、決着はついてますよ。ミルさん」
突如として現れる、ハッキリと感じられる背後の気配。
振り返れば縁取りが赤い、全身の貴重を黒とした装束の獣王が立っている。
手には見覚えのある袋が、ミルは慌てて自分の腰に手をやる。
「この術衣には隠密として、必要なスキルが多くあるんですよ」
そのスキルの中にある奪取の能力は、気付かれることなく相手の物を掠め取る事が出来る。
「ウイックさんの魔晶石は返してもらいました」
これで目的は果たせた。
少女達は相談した。先ずはウイックを救出する。
ミルの事が気掛かりなのは違いないが、イシュリーは奪い返した袋の中身を取りだし、それを手にこの広間から出る。
先頭はマニエル。
続くイシュリーの直ぐ後ろをエルラム、ノアールが次いで殿をエレノアが務めた。
「彼女、追いかけてこないわね」
「貴方との打ち合いで、力を使い果たしたのではありませんの?」
「せやな、あれは凄かったモンな。ウチには何をやっとったんか、ほとんど見えんかったわ」
エルラムとノアールは通路に出た事で、自由に動ける聖人や天使がまだいるはずと、そちらを警戒するがそれも大丈夫そう。
天空伝へと続く階段を登るのも邪魔は入らず、スムーズに天空回廊に辿り着く事ができた。
何かの罠かもと考えたが、聖王宮に着いて直ぐにジャンプすることができた。
全員が合流したあの森に戻り、その時には既に魔晶石は肉体の再生を始めていた。
「流石にここまでバラバラにされると、簡単には戻れないんですね。根性が足りませんよウイックさん」
イシュリーは手にした魔晶石が、望んだ形に戻る瞬間を待ちわびて、抱きつく準備を整えた。




