32 大乱闘魔晶石争奪戦の噺
思念を追ってノアールの誘導の元、長距離を渡る法術“ディストゲート”で移動したエルラム、マニエル、イシュリーは一瞬で、ミルの側にいた四人の天使を沈黙させる。
「ここは?」
この場所にエルラムは見覚えがある。
なんとも濃度の高い聖光気を感じる。
「分かりましたの。聖光記を使って魔性石の回復能力を封じているのですね」
魔晶石はイシュリーが寝かされていたベッドのすぐ傍ら、スツールに座るミルが持っている。
「ウイック=ラックワンドの仲間は優秀な者が多いようだな」
立ち上がるミルは短剣を右手に、魔晶石は左手に持ったまま。
街中で建物を破壊するのも厭わなかった、しかしここは天空殿。
場所が場所だけに大剣を振るうわけにはいかない。
ミルは警戒しつつ即座に部屋を出て、代わりに多くの警備員が入ってくる。
「こんな狭い場所でチンタラしてたら、魔晶石を取り返せんで」
ノアールは眠りを誘う呪いを使い、天使も聖人も、警備の全員を無力化し、四人は廊下に躍り出る。
「あっちや」
水晶玉と魔晶石の繋がりは切れていない。
ノアールが道を示し、三人が露払いを続け、この地下空間を走り抜けると広い場所にたどり着く。
「全くもってしつこい連中だな」
「当たり前でしょ! あんたにウイックを独り占めにさせないんだからね」
「マーニーさん、その言い方は少し違うと思いますよ」
「ええやん、ウチももっとウイックはんに可愛がって欲しいし、胸ばかりやなく、あちこち撫でて欲しいし、ペロペロしたいし」
「いいですね、熱い抱擁と愛撫、最後まで行き着くのもアリですの」
それぞれが好き放題言っている間に、武装した兵士達が周りを囲む。
「こんなところで暴れてもええんか? ここ、重要施設の地下なんやろ?」
「構わないわよ。ここならいくら破壊されても、直ぐに元に戻せるもの」
どうやら少女達が来るのを見越しての、罠が仕掛けられていたようだ。
「どういう事や? こんなだだっ広いだけの所で何ができんねん」
「ここが実は地下施設ではないと仰っているのよ。そうですわよねミレファールさん」
薄々は勘付いていた。地上から一階層下がっただけで、これほどに聖光気が高まるなんて考えられない。
「ここは天空伝ではなく天空宮だ。もっとも尊ばれる神聖なる宮殿だ。壊せるものなら壊してみろ。例え壊せたとて直ぐに元に戻のだからな」
天空殿の地下へ下りると思われていた階段は、歪められた空間によって、最上階層の天空宮へと繋がれていた。
そしてここにいる兵士という事は。
「我らが最強の使い手が相手となろう」
最初の部屋や通路にいた警備員は、本来この場にいられるほどに、高位の聖光気を扱える者達ではなかった。
「通りで手応えなかったと思った」
マニエルは龍人の力を、まだ一つも使っていない。
「その点、お前達は全く平気な顔をしている。恐ろしい事実だ」
見たところ兵士の数は23人、内の5人は天使。
ミルを加えて敵は24。
魔晶石を護っているのは手に大剣を持つ聖天使。状況は極めて厳しい。
「ではあの聖天使の相手はワタシがしよう」
「遅いですわよ、エレノアさん」
「お前達がワタシの準備を待たずに飛んだのだろう」
追いかけてこられるように、ノアールがエレノアの法術を込めた護符を置いていってくれたので、このタイミングになってしまったが合流はできた。
「お前が私の相手を?」
「なに、退屈はさせんよ」
ウイックの神速よりも早い踏み込みで、一人の天使の前に躍り出ると、エレノアは手にしたロングソードで鎧ごと切り捨ててしまう。
崩れ落ちる兵士は息をしていない。
「キサマ! よくも天使を軽々しく!?」
「こちらも本気という事だ。なんならラクーシュとの関係を絶たれても構わないくらいの覚悟のな」
更なる踏み込みで瞬時にミルの元へ辿り着き、エルラムは手加減することなく剣を振るった。
手にした大剣で受けきり、魔晶石を腰に付けた袋の中に、両手でグリップを掴み直す。
「やはり魔晶石は異空間ストレージには入れられないようですね」
エレノアに続いて戦闘を開始するイシュリー達、なぜ重要アイテムをいつまでも出したままにしているのかを推測する。
「それは好都合ですの、それでは頼みますよイシュリーさん」
兵士達の相手はエルラム達四人の仕事、イシュリーにはそれとは別に重要な任務がある。
「それもこれもエレノアさん次第ですけどね」
エルラムから譲り受けた忍者装束、メンバーで一番上手く使えるだろうイシュリーがそのまま身に纏い、相手を翻弄していく。
「マーニーはん、大丈夫か?」
「うーん、まだちょっと感覚が掴めないや。けど相手も強いし、何とかするから」
竜化を果たしたマニエルは、その力を人型のまま使えないかと試行錯誤しながら戦っている。
フォローをしているノアールが気に掛けるが、まだ今ひとつピンときていないようだ。
「ほな次はあの天使を相手にしましょか?」
「ちょっとノア、無茶言わないで!」
時間は掛かりそうだが余裕はある。
勝敗を分ける鍵は、ミルとエレノアが持っている事は間違いない。




