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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第四幕   仲間達と世界を股に掛ける男の探遊記
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31 逃げ出すのがやっとで何もできなかった噺

「な、なんでだ?」


 胴体を切り裂き、大剣とは思えないほどに素早い剣筋で、男の胸元を残して、全身を切り刻まれてしまう。


「ウイック!?」


 マニエルが絶叫する。


 ミルが手に掴んだのは魔晶石。


 回復しようとする前に、強い聖光気で封じる。


「ちょっとミル! あんた!?」


「言っているだろう。ワタシは聖天使へと昇華するミナエルだ」


 マニエルは高まった感情が発狂する寸前で指輪が壊れ、一気にマナが膨れ上がり竜人は完全な竜化を果たし、辺りの天使達を尻尾と羽で薙ぎ払った。


「まずいな。助かったと言うべきか、あれは完全に理性を失っているのではないのか?」


 エレノアは混乱に乗じて天使の拘束を解いて草原に降り立つと、生い茂る藪の中に身を潜める。


 完全に平常心を忘れた巨竜は、ドラゴンブレスもまき散らし、視界にミルが入ると咆吼をぶつける。


「無駄だ」


 濃密な聖光気と、光翼の一振りで完全に相殺してみせる。


 フランシュカの一凪で人の10倍以上になった竜は、血しぶきを上げて落下していく。


 追撃をし、トドメをさそうとする天使達をミルは制した。


「そんなのはいいから力を貸せ、私の聖光気だけでは、これ以上は魔晶石を抑えられん」


 人型に戻り落下するマニエルは、地面に到達する前に、高速で飛んできたエルラムがキャッチし、法術で空間を渡る。


「大丈夫ですか、マニエルさん?」

「……エルさん?」


 エルラムは“ホーリーキュア”でマニエルの体を癒してやるが、意識は朦朧としたまま、だがしかし、しっかりと覚えている事もある。


「ウイックが、ウイックが!?」


「落ち着いてください。と言ってもワタクシも動揺が隠せませんが、とにかく今は合流して状況を整理します」


 エルラムがジャンプしたのは、草原から見えていた森の中。


「どや、二人の救出はできたんか?」


 マニエルを迎えに行く前に置いてきた呪術師と獣王とも合流、まだ一人で立っていられないマニエルをイシュリーが支える。


「エレノアさんは姿を確認できませんでした。あの場にはいなかったのは間違いありません」


 聖皇都から出て直ぐに天使の群れを見つけ、隠れるためにこの森に飛んだエルラム達は、二人が捕まっている姿と、その一人が竜に変身したのを目撃した。


 直ぐにそれがマニエルだと気付いたので、急いでエルラムが飛び込んでいったのだ。


「マニエルさん、もう平気ですか? 早速お伺いしたのですが、いったいあそこで何が?」


 怪我は治っているが、惚けたままのマニエルは、それでも今自分が何をすべきかを見失うことなく、怒りを抑えて状況を報告する。


「そんな、ウイックさんが!?」

 イシュリーのショックは大きい。


 ミルに襲いかかられた時は一緒にいたが、ウイックの指示で姿を消したままだった。


 その後、一人取り残されたのもしかたがない事だったが、後悔と自責の念は止められない。


「みなさん、それぞれにタラレバにはまってしまっていますの。過ぎた事より、これからどうするかが大事ですの」


 多くの天使が集まっているのを見ていながら、待避を優先した事を悔やんでいるエルラムは、気持ちを切り替えるように訴える。


「そうだな。全員がベストな選択をすることはありえんが、ここまで皆がミスチョイスを感じる展開もそうはないだろう」


「いつの間に……、そもそもが貴方がワタクシ達と一緒に、宿屋を飛び出していれば、こうはならなかったのでは?」


 どこから話に混じっていたのかは知らないが、自力で合流を果たしたエレノアに、エルラムは釘を刺し、話を元に戻す。


「ふふふっ、みんなそう悲観せんでもええで」


 少しの間、押し黙っていたノアールが顔を上げた。


「ようやくリンクしたわ」


 突然のピースサインに皆が憤りを覚える。


「ふざけてる時ではありませんよ。ノアールさん」

「ふざけてへん、ふざけてへん、これ見てみ」


 そう言って取り出したのは水晶玉。


 中を覗けば、そこにはミルの顔が映し出されている。


「なんなのですの? これがいったいどうしたと言うのです?」


「ここに映っとるんわ、ウイックはんの魔晶石に映っとる光景や」


 ノアールが繋がったと言っているのは、今ウイックの本体となっている魔晶石の思念。


「つまりは、どういう事なんですか?」


 何となく凄く良い展開であると感じさせるノアールの表情に、イシュリーは説明を急かす。


「ウチの呼びかけに応えとるいうことは、ウイックはんの自意識はちゃんと働いとる言うこっちゃ」


「こんな物があるなら、なぜ直ぐに仰って頂かなかったのですか?」


「みんなが落ち着くのに、時間が必要やと思ったからや」


 慌て荒れ果てた心理状態で突っ込まれる事を恐れ、タイミングを計っていたノアールは、リンクが繋がり、皆がいくらか冷静さを取り戻しすのを待っていた。


「ウイックはんの周りには、ミルはんと他の天使が四人、先ずは再生能力を封じられとる魔晶石やな。聖光気をどうにかして、奪還や」

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