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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第四幕   仲間達と世界を股に掛ける男の探遊記
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29 闘いを中断して話し合いの場を設ける噺

 意識が遠のいて気付けばミルは、ウイック達と冒険をしてきた間と同じ恰好になっており、辺りは真っ白な何もない景色に。


「ここは?」


「意識だけの世界さ。ノアールが作ってくれた精神を可視化できる場所だってよ」


「ウイック=ラックワンド、お前もいるのか?」


 無から有へ、色が着いた男はミルの前に立っていた。


「ここに来たのに、まだ元に戻ってないのかよ」


「何の話だ。それよりもきさまか? 私のフランシュカを」


「ここは現実世界じゃねぇ。お前の獲物は本物のお前が大事に持ってるよ」


 ミルの体と自分の体を地表に降ろしてから精神世界に入ってきたウイック、男もまたプロテクターは着けていない。


「ここでは武器なんか必要ねぇ、腹を割って話すための場所だからな」


 本当はミシェルフ相手に、使う事もあるかもと用意していた物を、こんな風に使うとは思っていなかった。


「話だと? なぜそんな事をお前としなくてはならんのだ」


「だって気になるだろう。お前がオーガイルに戻った原因、話の真相ってヤツがよ」


 話が通じないとなれば、会話の中から糸口を探らないとならない。


 ミルは訝しそうだが、反発はせずに話し合いに応じた。


「お前の話は分からん事ばかりだが、嘘を言っているようには感じない。先ずはお前の話を聞いてやろう」


「おお、そうか。じゃあ先ずはお前さんのお袋さんの事だ。無事に会えたのか?」


「会う? 母様にか? バカバカしい、罪人として処分された者に興味を持つなんて物好きなモンだが、無事とはどういう意味でだ?」


 どういう意味かを聞きたいのはこっちだ。


 罪人として処分される恐れがあるのを聞いて、飛んで戻ってきたミルが、その事件に興味を示していないなんておかしい。


 やはりミルは記憶の操作をされているの間違いない。


「処分というのは? まさか殺されたのか?」


「我々の教義は処刑なぞ許してはおらん。翼を折られ人種ひとしゅとして罪を悔いる事を課せられる。もっとも彼女は温情をもらって、記憶を消す事を許されたがな」


 それのどこが温情かと疑問をぶつけたくもなるが、考え方の違いをここで問答しても建設的ではない。


「でどこにいるかは知ってるのか?」


「本当におかしな事ばかり聞くんだな。彼女はウチの使用人として働いている。元家族として一緒にいる事も許された。子供を授かった聖女として大きな恩赦があったのだ」


 こんな反吐が出そうな話を自分がしていただなんて、正気のミルが知ったらどう思うのだろうか。


「どうすれば元に戻せるのか……」


「なんだ? 何が言いたい?」


 ウイックは念話を飛ばした。


 試しにやってみたが、試みは成功し、ノアールと意識が繋がる。


『なんやウイックはん、こっちはまだ取り込み中やで』


『ちょっと聞きたい事があってな、話せるようになったら教えてくれ』


「おい、何を黙っている。もう話とやらはおしまいか?」


 念話についても忘れているミルが、完全に無視をしたことに気を悪くする。


 武器はないとは言え、素手でも暴れられれば、手は付けられないだろう。


「すまんな。そんで次の事を聞きたいのだがよ」


 当たり障りのない様に家族の事、特に祝言を迎えるという兄貴との事を聞いてみる。


「兄、ミシェルフは……」


 どうでもいい話が始まったところで、タイミングよくノアールからの連絡が入る。


『ちょっと聞きたいんだがよ』

『おぉー、なんや?』


『ミルに会った。と言うか襲われている。今は呪詛具を使って話し合いの場を設けたんだがよ』


 ミルの現在の状態を詳しく説明すると、しばらく沈黙していたノアールが返事をくれる。


『こんな短時間にそこまで強い催眠作用を与えるなんてのは、かなり神経にも脳にも負荷を掛けてるんやと思う。はやく解いてやらんと後遺症が出るかもしれん』


 昔を思い出せなくしているという事は、意識の表層に新しい情報を上乗せしている状態だろうと見て、ノアールは彼女にとって、ウイックと共にいた間に一番衝撃を受けた事を、思い出させてやるといいと助言をくれた。


「衝撃か、そうだな。試してみる価値はあるか」


「うん、何だお前、ちゃんと人の話を聞いているのか?」


 随分と実の兄を褒め称えた言葉を、並べ立てていたミルは不機嫌になり、更に賛美を続けようとする。


「ミルよ、これを覚えてねぇか?」


 ウイックは呪詛を解き、元いた世界に戻る。


 今度はウイックが先に目覚め、ミルの覚醒を待った。

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