28 秘術士と剣士、本気の闘いを始める噺
「よう、元気そうじゃねぇか、ミル」
フルプレートアーマーの騎士が、マスクを外すとよく知った顔が覗く。
片翼に光の翼、そのような天使は未だかつて実在が確認されてこなかった。
いや過去に一度だけ、魔神との抗争で片翼を失った天使が、後に光翼を手に入れた史実が残っている。
偉大な聖母と称えられ、皇天使を妊りし聖天使が存在した。
「なぜお前が私の幼少期の愛称を知っている?」
「お前の事ならよく知っている。亜天使として生まれ、大海洋界で育った事もな」
混血児は片翼で産まれる。
天使である母と、大海洋界で住まう人種の父の間に生まれたミルもその例外ではない。
「お前がどうやって光翼を得るに至ったかも知っている」
「戯れ言を!? お前は異世界の人種であろう。なんの関わりもないお前が私の何を知る?」
亜天使として生まれた者が光翼を持った。
その事実はオーガイルを揺るがした。
いや、オーガイルの民のほとんどが、その存在も知らない亜天使。
天上界を震撼させたのは光翼を持つ天使が現れたというビッグニュース。
ミルが元、亜天使である事を知る者はごく僅かだ。
「お前自身がお前の事を忘れてしまったという事か? ミルよ」
「訳の分からん事を!」
手に持つのはグレートソードのフランシュカ。
それを振るう事こそがミルである証拠。
「お前は危険分子として、教義に従い排除する」
大剣を振るうには狭すぎる広場で、上段に構えたミルは縦に一閃。
石畳を割きながら迫る一撃は、ウイックの無詠唱秘術で生まれた風護が衝撃を打ち消す。
「ホンキってのは分かるが、場所を選ばずなんてぇのは、天使様の教義で許されるのかよ」
力を増した魔晶石は、無詠唱でも十分な力を示してくれた。
このままウイックが本気のミルの攻撃に応えれば、この街全てを灰にしかねない。
「おい、ミル!」
「私はミナエルだ!」
「どっちでもいい、お前はこの街を巻き込む事を厭わないのか」
「上位者からの命令は絶対だ。その私の行動の結果に、誰も異を唱えはしない」
突き出された大剣から、先の斬撃よりも早い風弾が飛んでくる。
「くっ!?」
受け止める為の秘術を張る間はなかった。
ウイックができたのは“転移の秘術”で回避するのがやっと、標的がいなくなり、男の背にあった建物が音を立てて倒壊した。
「本気でやりやがった!?」
これ以上は見ていられない。こんなのは本来のミルが望む戦いでないのは明らか。
せめて場所だけでも変えられれば……。
ウイックは再び転移する。ミルの真後ろに。
手を伸ばして鎧に触れ、二人は広場から姿を消した。
「ここはどこだ?」
“遠渡の秘術”を使って飛んだのは聖都の外。
「後ろを見ろよ」
「あれはキシリア、どうしてこんな所に?」
街の正門を見下ろせる高台、ここから街を離れるように少し行くと、見渡す限りの草原が拡がっている。
「ここなら気兼ねなく闘えるだろ?」
正気ではないミルに話しかけても無意味であろうと、攻撃により精神的なプレッシャーを与えてやる必要があると判断して、迷わずプロテクターを装着し、速攻でミサイルを発射した。
「また奇っ怪な術を!?」
大剣でミサイルを両断、二つに分かれて後方に飛び爆発。
爆風を受けて勢いよく突進してくるミルに、上空へ回避しながらミサイルをもう一発。
それを今度は身を捻って交わし、両翼を開いて急上昇。
地面に衝突してまたも荒れ狂う爆風に乗り、ウイックの反射神経よりも早い突進力で、フランシュカを両手持ちにぶつかってくる。
「あっ、ぶねぇ~~~」
正に咄嗟の事だった。
避けるのは不可能、必要なのは防護の盾。
しかし今までの秘術では通用するとは限らなかった。
もし記憶を封じられても、烙印の力が働いているのなら、単純な壁は簡単に突破される恐れがある。
そう考えたウイックは進路を逸らす風と、強固な盾となる鉱石を呼び出す“盾鉱風妨の秘術”を生み出した。
しかしそれでも完全防御とはならず、プロテクターの電磁バリアーでようやく受け止めることができた。
「おいミルよ、大丈夫なのか?」
鎧の肩当てが割れた。
飛びかかってくるミルに、プロテクター左腕の秘術銃が自動迎撃したのだが、まさかの被弾覚悟の特攻が為、大ダメージを与える事ができた。
「なに敵の事を気遣ってる!?」
一回転して勢いをつけた剣先が右腕の装甲をへこませる。
「人の心配をする余裕があるのか?」
機械的な強化で、大型の魔獣を片手で持ち上げられるようになるプロテクターごと、ウイックの右腕を切り落としたミルは、不使用ミサイルの暴発に飲み込まれる。
「流石にそいつは避けらんなかったか?」
「お前は……、また瞬間移動という、ヤツか……」
少し離れた場所で、復活した右腕をさすりながら男は、鎧のあちこちが砕けた剣士を眺めている。
「今の爆発でも傷一つ付かないんだな。そのグレートソード」
砕けてバランスの悪くなった鎧を脱ぎ捨てるミルは、濃密な聖光気で手を離しても宙に浮いたままだったフランシュカを取り、秘術士との距離を保つ。
突然感じた謎の気配に応えて、後ろに向かって剣を横に凪ぐ。
「なぜ後ろに!?」
胴を分断され、落下していくウイックを確認し、振り返って宙に浮く同じ顔を見て警戒するあまり、ミルは直後の異変に気付くのに遅れてしまった。
「なんだこれは?」
「なにって、そいつはもともとミシェルフの物じゃあねぇのか?」
身断で生まれたウイックが切られながらも、ミルの胸に押し当てて呪詛具を張り付けた。
「今一度場所替えだ。もっと腹を割って話し合おうぜ」




