27 溜まった鬱憤を一気に晴らす噺
「エレノア=カシム様、お聞きしたい事があります」
「なんだろうか?」
「あなたのお供にウイック=ラックワンドという方はおいでですか?」
黒服達は扉と窓を抑え、逃亡を警戒する。
「いや、そのような名前の者は居らんが?」
「……あなたがそうですね」
フリーリンはエレノアに声を掛けながら、エレノアの事は端から見ていない。
「バカにされたモンだな。私は特使としてここにいるのだが」
「申し訳ございません。ですがこういう根回しを上から命ぜられていますので、ご容赦ください」
ウイックは手近にあった椅子に腰掛けた。
「話なら手短に頼む」
「イシュリーさんはどちらですか?」
「なんだ? ミルと一緒にいるんじゃあないのか?」
「ご存じないと?」
腕組みし足を組み、踏ん反り返るウイックは横柄に受け答えをし、フリーリンは表情を変えることなく質問を続ける。
「イシュリーがどうしたって?」
「はい、天界の聖光気に当てられてお疲れの様子だったので、個室を用意してお休み頂いていたのですが、何者かが侵入して連れ出した様でして」
それを嘘とは知らないフリーリンにどう返したところで、恐らくはもうウイックの言葉を本当として受け取りはしないだろう。
「知らないものは知らないのだが……」
「では我々とおいで頂けますか? 審判の間であれば、正しい答えを導き出す事もできましょう」
黙って隠れていてくれるイシュリーの手前、軽はずみな事はしたくはなかったのだが、ここで拘束されるわけにはいかない。
「こうなりゃ、暴れるとするか!」
ウイックは窓に向かって突っ込み、大柄な黒服を秘術で剛拳にした右手で押し倒して外に飛び出す。
後を追ってノアールとエルラムが飛び出してくるのを確認し、横に並ぶ。
「エレンはどうした?」
「さぁ、マニエルさんと一緒に、中で黒服の方達を端から順に伸しているのは見ましたが、ワタクシ達も直ぐに外に出ましたので、まっ、心配はないのでは?」
「だな、それじゃあ大暴れすっか、人目に付きそうな所で追っ手を待って、できるだけ派手に相手をしてやってくれ。くれぐれもやり過ぎないようにな」
一番手加減という言葉をしらないウイックに言われて、二人は苦笑を浮かべながら左右に散った。
「イシュリーいるか?」
「はい、直ぐ側に」
「それじゃあ、そのまま俺の近くで隠れていてくれ、街の中央にあるでっかい広場で、でっかい花火を打ち上げてやる」
ウイックはなるべく目立つように大通りに出て、黒服を見つける度にちょっかいを出し、嫌がらせの術を使い続けた。
水の鞭で足下を払ったり、風の刃でパンツのベルトを切って脱がしたり、追ってくる相手の足下の地面を陥没させたりを繰り返した。
「地面に穴掘るのはやめよう、その都度止まって穴埋めるのは面倒くさいな」
広場にたどり着く頃には周囲は黒服だらけ、完全に包囲されてしまう。
「あれだけ悪さしてきた所為か、誰も近寄ってこねぇな」
「あんなのかわいいものですよ。ウイックさん優しすぎです。もっと徹底的にやらないと」
「イシュリー、お前は俺にイタズラとかは遠慮してくれな」
見えていないのに悪魔の微笑みが思い浮かんで、冷や汗が流れ落ちる。
ウイックは自分を中心に波紋が拡がるように旋風を起こし、包囲の一番外にも空気の壁を作り、逃げ場を奪った中に火を放り込んだ。
「範囲指定した火柱だ。そうだな……“旋風熱波の秘術”としようか」
イメージしながら順番に術を発生させたので、厳密には変形の“風護の秘術”と”炎矢の秘術”の合わせ技。
しかし今のでイメージは固まった。今度は一つの術として行使できるだろう。
「やり過ぎねぇように加減はしたが、オーガイルの警備兵ってのは頑丈にできてんだな」
一瞬たじろんだが、直ぐに隊列を整えて、包囲網を縮めようとしてくる。
「二十人ちょっとってところか」
倒れている数が5~6人程度しかいない事に驚き、360度に氷弾を放って、同時に雷鳴を落とす。
「これでようやく半分か、ちょっとムカつくな」
倒れていく数と援軍の数が変わらない。
同じような戦いを海底でも経験しているが、今の相手がその時と違うのは、とにかく一人一人の防御力と耐久力が桁違いである事。なにより……。
「殲滅級の術が使えれば楽勝なんだけどな」
流石に街を破壊するわけにはいかない。
悩んでいても始まらないのだ。
「おお、向こうでも始めたか」
秘術士に引けを取らない法術士の少女と、人を翻弄するには最適の運動能力ではね回る猫娘が騒動を起こしている。
「さぁ、俺ももう少し派手にいくか」
「いや、お前はもうここまでだ」
黒服の後ろから、フルプレートアーマーに身を包んだ女性が一人現れた。




