23 少ない情報から最良の行動を選ぶ為の噺
ウイック達はエレノアの部下として、聖王宮まで付いてきた。
名目は挙式を待ち望む新郎新婦を祝福する事。
ラムーシュの王のための土産話にと、お願いしたら快く許可を出してもらえた。
「一応は私は精霊界の代表代理だからな、その付き人のお前達にも、指輪は必要ないという事だ」
案内役はフリーリン、彼女は普段は聖皇都キシリアに家を持って生活しているが、ミルの実家には自由に出入りを許可されている。
待ち合わせまでは少し時間がある。
一足先に聖王宮にまで来た一行は、建物前で頭を抱える。
「なぁエレン、ここって教会だよな」
「ああ、大海洋界で言う大聖堂というやつだな」
この様な場所に牢屋があるとは考えづらいが、もしもここで監禁されているのだとしたら、確かに盲点になるのだろう。
「いやいや、慌てるな。言っただろう、獄中にあるとしたら天空殿だと、ここはまだ天界ではないのだぞ」
「そ、そうか……」
この下層ならイシュリーの反応を確認できるのだ。慌ててはいけない。
もちろんそれも、発信装置が取り上げられていなければの話だが。
「ウイック、後ろ!?」
マニエルが突然木の上から振ってきた、二つの影に気付いて注意する。
「ああ、分かってるさ。こんな所でいきなり襲ってくるなんて、いったいどこのどいつだ」
頭の陥没が回復したところで振り返るウイックは、激痛をくれた相手を確認して激しく動揺してしまう。
「ラ……、アイラじゃあねぇか」
「ライアで合ってるよ」
マニエルにはちゃんと見分けが付いているというか、金と銀の違いがあるのに間違える方がどうかしているウイックは、インファイターゴーレムの一撃に疑問符が消せない。
「な、なんで俺、死んでもおかしくない攻撃を受けなきゃならねぇんだ?」
「きっとイシュリーの不満を、代わりに実力で伝えてるんだよ」
それだけでは片付けられない痛みだが、今はそれどころではない。
「この子達、スタンドアローンで行動しているみたいですの」
「ど、どういう意味だエル? す、すたん、ど?」
「単独行動ですの。イシュリーさんは身動きが取れないという仮説は、おそらく間違いありませんの」
イシュリーが行動不可能になった時の緊急システムにより、二体は事態の解決のために自立行動をしている。
アンテから見せてもらった設計書で、仕組みは理解している。
「そうだ。二人がいるんならさ」
マニエルが妙案を思いつき、全員が納得し、準備を終えて間もなくフリーリンがやって来た。
皆は聖王宮の中へ入れてもらい、直ぐに天空回廊まで案内してもらった。
「これは?」
「えぇ、マナを使った転移術式ですの。上層階という表現をなさっていますが、どこに飛ばされているのか実際には分かりませんの」
マナの地脈の濃いポイントで、絶えず聖光気が放出されているそこを天空回廊と呼び、飛ばされる先が更に純度の高いエナジーに満ちた空間であることから、上位種族が住まうに相応しい土地だとされているようだ。
「妖力も魔力も精霊力も人の体に害はもたらさないが、聖光気は強すぎると弱い体には毒だからな。天空回廊と呼ぶ転移術式で選別しているって訳か」
今いるメンツなら、なんの問題もないだろう。
エレノアが先頭に立ち特殊な転移門の中に入る。
全員が転移を完了し、到着した天空殿は、この世界の政治を司る役場といった役割の建物だった。
「なるほど、ここなら特殊な施設があってもおかしくないな」
フリーリンが席を外し、ウイック達は作戦会議を始める。
「ああ、そうだ。それにここの建物は濃度の高い聖光気から、体を守る隔壁にもなっているからな。その機構を利用して隔離もできる部屋を作っている。本来は保護施設なのだそうだぞ」
階層分けされた天界は上層ほどに聖光気が高くなる。
その為に天界では子供が生まれると低層に、場合によっては聖皇都まで降りて子育てをする。
「つまりここに?」
「間違いなかろう。獣王はきっとこの建物にあると言う、隔離施設にいるだろう」
エレノアに出会えて、ここまではトントン拍子で事を運べた。
「先ずはイシュリーの無事を確認してからだな」
だがここからは、また見極めが重要になってくる。
ミルが不信感を抱く兄、ミシェルフとの婚姻の噂が盛り上がるなんて考えられないが、イシュリーが人質にされて、大人しくしているのかもしれない。
「とにかくマーニーの策に沿って、慎重に行動を起こすとするか」
ウイック達は聖王宮の個室で、ミル達の到着を待つ事になる。
ただし面会可能なのはエレノアのみ。
ウイック達四人はその間、天界の教義についての講話を受ける事になっている。
信用をされていないのではない。
天使は他者との交わりを最低限にする事も、教義の中に含まれているのだ。
「こちらの準備も整っていますの」
「ウチの方も呪符の準備はできとるで」
エルラムは着替えてノアールから呪符を受け取り、ウイックがイシュリーの二体のゴーレムをストレージから出した。
フリーリンが呼びに来た時が行動開始だ。




