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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第四幕   仲間達と世界を股に掛ける男の探遊記
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20 いよいよ天上界、何からどうするに困り果てる噺

 ウイックと共にオーガイル入りしたのは三人。


 妹のマニエルと、霊冥界エーゲのエルラムとノアール。


 アンテが魔門界に出発する前に、全員に渡してあるアイテムによって、イシュリーの足跡を追って世界を渡った。


 降り立ったのは聖王都。


 天界と聖人が住まう都市とを繋ぐ天空回廊のある、天上界の中枢である。


「さてと、どうやって中に入るか? ミル達は上の階層に向かったのは間違いねぇんだな」


「えぇ、そうですの。何故かミレファールさんの足取りは追えないのですが、イシュリーさんが上の階へ向かわれたのは間違いありませんの」


 追跡機をアンテから預かったエルラムは、数日前に天空回廊を通った痕跡までを検知した。


 その後の足跡は追えないが、間違いなく天界に二人はまだいるはずだ。


「情報収集が必要だ。なにせオーガイルの事は、大海洋界ではほとんど文献もねぇ。こちとら知識もなく、全くの手探りでやんなきゃなんねぇんだ」


「こんな時にシズが居てくれたら、色々便利やねんけどな」


 実態を手に入れたシズだが、本人の意志で幽体化も可能とあって、確かにこういった場面では、有効な情報を集めてくれそうではあるが、何分ここではその存在も危ぶまれるから、連れてもこれない。


「いないモンは嘆いてもしょうがねぇだろ。とにかくは街の中に入る事が先決だな」


 人の往来はかなりあり、入り口には門番も立っている。


「そんなことで悩まなくとも、術を使えばよろしいのでは?」

 幸いここは高台。


 見えている場所、記憶に鮮明な場所などには、空間を渡ることのできる術を持っているウイックが、何に悩んでいるのかエルラムには分からない。


「大海洋界では当たり前なんだが、不用意に術を使うと、その場所が憲兵所なんかに関知される仕組みがあるからな。大都市なんかは」


 拠点防衛としてランドヴェルノが扱っている防災装置を誤魔化すのは至難の業。


「あれを作ったの、どなたかご存じですの?」

「またそのパターンかよ。つーことは、アンテに打開策を?」

「はい」


 ここにどんな警報装置があるのかも分かっていないのに、万全であるかのように自信を覗かせるエルラムに乗って、ウイックは“遠渡えんとの秘術”を使う。


 人通りがない事を遠見で確認していたので、無人の路地に降り立ち、侵入を知るものはいない。


「警報の類いは聞こえなかったな。

さてこれからだな。どうしたもんか……」


「天上界にも、大衆食堂とか飲み屋みたいのもあるんとちゃう?」


「大衆浴場なんかもあるんなら、行く価値あると思うよ」


 ノアールとマニエルが提案し、街中を一回りしてから二手に別れた。


 兄妹は酒場に、亜人は浴場に向かう。


「どうだった?」


 しばらくして合流した食堂で情報交換。


「ミレファールさんの話題で持ちきりですね」


 薪を使った沸かし湯による浴場ではなく、溢れる聖光気で適温に達したお湯を満たした湯殿は、一般の人種ひとしゅだけでなく、天使や聖人も入りに来る。


 街に入って直ぐに、昼間っから酒によって女あさりをしていた三人組から頂戴した貨幣を使って、二人は中に入り、昼の仕事を終えて汗を流しに来たご婦人から、聞こえ漏れた話を披露する。


「俺達が聞いたのも、その話がメインだったぜ」


 酒場に入ると、カードを使った賭博を楽しむ男達のテーブルに近付き、ゲームに参加したマニエルが少ない元手を数十倍に膨れ上がらせる間に、あっという間に注目を集める少女のカード裁きを眺める荒くれ共から、ウイックは情報を収集した。


「亜天使と蔑まれて追放されたミルが、正式に聖天使なんぞと呼ばれる立場になっしまったとはな」


 片翼の天使を天上界に置く事はできないと言っておきながら、その持たぬ片翼を聖光気で光翼として身につけた者を、大天使より格上の聖天使として祀るなど、そのような話はミルからも聞かされていなかった。


 いや、知らなかったのだろう。


「片翼の子供は教義に目覚めないからって捨てといて、聖なる力に目覚めたら、その全てを無条件で認めるとか、どんだけ傲慢な連中なんだ? 天使ってのは」


 とは言え、ミルがそれだけ話題に上る状況にいてくれるおかげで、いま彼女がどこにいるかは簡単に判明した。


「肝心のお袋さんの事は、ちょっと今ひとつ情報が定まらないのが気になるが」


 母、エヴァマラーラが弾劾されると聞いて、大慌てで飛んできたミルが、再会を果たしたのかさえ分からないが、どうやらここの連中には聖母として崇められる大天使が弾劾を受けるなんてことは有り得ないし、考えられないと言うのが意見の一致だった。


「こっちの情報はミルをおびき寄せる為の、でっち上げとみるべきなのかもな」


 後は会って本人から聞くしかなさそうなのだが、どこにどうやって問い合わせればいいのか、その辺りがまだなにも分かっていない。


 そこにイシュリーも一緒にいるものと思いたいが、流石に聖天使としてオーガイルに帰還した、その同行者の事まで知る者を見つけるのは難しいだろう。


「役人らしいヤツなら街中で見掛けたな。そいつに事情を話して、正式に照会してもらうか?」


「ちょっと待ちやウイックはん。もう一つ気になる情報があるんや」


 ノアールはどこの世界でも、ご婦人方が好きそうな話題、トップクラスの噂話を聞かせる。


「ミルが結婚? しかも実の兄貴と!?」


 警戒を深め、場合によっては討ち取る覚悟までして別行動に入ったミルが、どんな話の流れでそのような事になったのか?


「まずいな。これは正面切って話を聞きに行くわけにゃあ、いかなくなったぜ」


「どうなさいます? この街で今以上の情報を手にするには、時間をかける必要がでてきましたの」


 ここで起こっている事の欠片も知らないウイック達が、情報を更に深掘りして行くには伝手がなさ過ぎる。


「やはりお前か」


 頭を悩ますウイックに、突然声がかけられる。


 聞き覚えがあるような女性の声に顔を上げると。


「おいおい、なんでこんな所にいるんだよ?」


 見覚えのある、少し懐かしい相手に遭遇した。

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