19 この旅ってよくよく入浴シーンがある噺
海底神殿に帰還したウイック達。
真っ直ぐに軍用メディカルルームに行き、アンテの容態の確認を急いだ。
「やぁ、ウイック。心配かけて、僕のためにいっぱい走り回ってくれたようだね」
ほんの少し前に目覚めたというアンテだったが、彼女を前に仲間達は惚けた顔になる。
「ビックリだよね。ここのドクター達が一生懸命に、僕を起こそうとしてくれた結果なんだけどね」
アンテ本人に間違いないが、ウイックとマニエルの目には、彼女よりもその姉、ララクララ=フローランに近く見えてしまう。
「呪詛払いをしようとしてくれてね。いろんな事をしてくれたんだって、その結果僕の体は、数年分成長してしまったそうなんだ」
髪は肩胛骨くらいまで伸びており、身長も伸びた。
まだ成人前の少女は、幼さをまだ少しだけ残しながらも、出るところはより一層に出て、括れも強調され、顔のそばかすも綺麗になくなっている。
「どう、かな?」
声も少し変わったか?
「ああ、正直驚いた」
何より元気そうでホッとした。
だがアンテはまだ、激しい運動は控えた方がいいと診断され、少し様子を見てから後から追いかける。そう言う運びになった。
ウイックは急いでミル達の跡を追う。
つもりであったが、思った以上に疲れが溜まっていた。
特にシズは王女のお願いを聞いて、彼女のお供の兵士や付き人の蘇生を果たすのに、残りの妖力を使い切ってしまった。
エルラムとノアールは、体の調子を完全に崩してしまったダンルーを伴って、シズを連れて霊冥界に戻った。
「姫様と言えば……」
「アーチカ皇女殿下かい?」
亀甲船はほどなく修理を終え、彼女は帰国したという。
「そうか、そんじゃ俺達も明日にはオーガイルに向かう。朝までにエル達が戻らなかったら、マーニーとピューレと三人で先行するよ。もしエルと一緒に来られそうならアンテ、お前も来てくれ」
来るなと言ったところでどうせ来るだろう。
「ただし、足手まといになるようなら、ちゃんと休んでからにしろよ。場所が場所だけに、俺達にも余裕があるとは限らねぇからな」
釘は打っておいて、万全な状態を自分達も取らないといけない。
アンテを置いて、三人は温泉に向かおうとする。
「ちょっとウイック……」
「なんだなんだ? っておお、セイラじゃねぇか」
アンテの看病をお願いしていたセイラは席を外していたが、用事を済ませて戻ってきて、話し合いの邪魔にならないように部屋の片隅で待機していた。
「あんたホンキで、私の事を忘れてたでしょ」
「そ、そんな事ねぇぞ。お前が入ってきたのは知ってたし、ただ誰が入ってきたのかの確認してなかったから、他のスタッフと同じ扱いにしただけで、別に忘れていた訳じゃあねぇさ。
このままオーガイルに向かうとしても、アンテの事はセイラに任せたいから、こっちのメンバーに入れてなかっただけだぜ」
取って付けたようにそう言うと、釈然としないままの人魚は「そう言う事なら」と、顔を引っ込めた。
「温泉くらいはどうだ? 一緒に行くか?」
「えっ、いいの? ……しょ、しょうがないわね。一緒に行ってあげるわよ」
ご機嫌取りに引っ掛かる人魚を共に、温泉施設へ向かうが、この都市には男湯という物がない事を思い出し、一人だけ内風呂を頼もうとするウイックだったが。
「なに今更そんな事を言ってるの?」
マニエルの言葉に、人魚もラティアンも首を縦に振る。
「それもそうだけどよ。大風呂は他の客もいるだろうしよ」
「えぇーっ、いいじゃん。前も大勢で入った事あるじゃない」
こういった時に必ず窘めてくれるリーダー格の少女がいないため、秘術士の男の希望を通すのは無理なようである。
幸いというか、家族風呂が使えたので、他の客の事は気にしなくて済んだ。
「先に入ってるからな」
「はぁ~い」
入浴するのだからもちろんの事、タオルを一人一枚もっている裸の状態。
最後に入ってきたピューレなどは全く隠すことなく、この頃なぜか少し抵抗を覚える男は、目を瞑って口まで湯に沈む。
天然のお湯に浸かると、術で体内に蓄積したマナの不純物が染み出して、消費されたマナを回復しやすくしてくれる。
妹たちの要求するスキンシップを果たしながら、回復をした後は、食堂で腹も満たし、早めの就寝。
目を覚まして軍の施設へ戻り、アンテの元に訪れると、そこにはエルラムとノアール、ダンルーとシズの姿もあった。
「二人とも、もういいのか?」
「はい、私は烙印のおかげと、妖力も十分回復させてきましたので」
「あたしはぁ、そもそも戻る必要もなかったんだけどぉ、動けないうちに連れ戻しちゃうんだものぉ」
すっかり元気を取り戻した二人。
「ダンルーの喋り方、そろそろホンキで腹立ってくるな」
「なによ。個性を全否定って有り得ないんですけど」
気力は十分のようだけど。
「二人は留守番だぞ。天上界に肉体をもたない二人が行ったら、多分浄化されちまうって話だからな」
「えっ?」
「ワタクシ、あなた方にもそう説明しましたよね。それでもいいからと、ここまではお連れしましたが、どうします? 霊冥界に帰りますか?」
魂だけの存在は、聖光気を長い時間浴びていると、それだけで消されかねない。エルラムがそうウイックに言った。
「はい、大人しく糸を紡いで待っていますよ。けどその前に、エルラム様が皆さんと温泉に浸かりに行こうと! 楽しみです」
「なにっ?」
予定は未定ではあるが、可能な限り早く発ちたいと思っていた。
だが後半日、仲間のために使うのもしかたない。
「今度はアンテも一緒に行くか?」
「そうだね。せっかく貸し切りにしてもらったんだし、行かないと勿体ないよね」
「貸し切りぃ!? い、いつの間に」
「今度こそ、アタシにもみんなみたいにスキンシップしてもらうからね」
言葉を少し改めるダンルーに抱きつかれ、深いため息を一つこぼしたウイックだった。




