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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第四幕   仲間達と世界を股に掛ける男の探遊記
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18 心安らぐ妹と、心ざわつく兄に再会する噺

 クランヴェルは道中をずっと、あれやこれやと質問攻めにしてきて、ミルはその一つ一つに丁寧に返してった。


「ゴブリンの巣?」


「旅人の往来の少ない集落の近くには、冒険者も少なくてね。住人が知らないうちに作ってたりするのね」


 冒険者あるあるは天使には刺激的で、時折歩くのも忘れて立ちつくす妹に、注意をするでなしに立ち話を繰り返した結果、さほど長くない距離の移動に半時ほどの時間を要した。


「ここですよ、姉様」


 到着したのはこの官職に就く者が住まう階層でも、一番奥にある大邸宅。


 皇天使たちが住まう、大天空殿はこの直ぐ上の階層。


「やはり母様の存在と、兄様の働きを考えれば当然の事でしょう。私も負けてはいられません」


 天使ミシェルフの役職は技術開発室室長。


 開発依頼をするのは皇天使ミカナフ、内容は一番が懐妊の確率向上。


 エヴァマラーラの息子として、子孫繁栄法の発見を期待されている。


「やっと戻ってきたね、クランヴェル。それと君がミナエルだね。面影があるよ」


玄関ホールで迎えてくれたのは兄ミシェルフ。


 開いているかどうかも分からないほど細く、垂れ気味の目は、口角を上げるだけで一見優しそうな笑顔が出来上がるが、ミルには不自然に見える表情に、自然と身を固くして構えてしまう。


「まだ疑いは晴れていないようだね」


 フリーリンから報告を受けているのだろう。昨日の会話を思い出す。


「それは今はいいわ。話の筋としてはちゃんとしてたから、疑ってもしょうがない。けど信じるに値する説明でもなかった事は、伝えておきます」


 視線を外す事はないが、敵意を向けているわけではない。


「しょうがないね。ほら、母さんが待っている。部屋へ案内させよう、荷物を置いて着替えたら、応接室に来て欲しい」


 屋敷では多くの使用人がお世話をしてくれる。


 荷物を降ろし、今しばらく時間をもらって入浴をする。


「温泉地でもないのに、これだけのお湯を沸かすなんて贅沢よね」


 大きな浴室にミルとイシュリー、クランヴェルも一緒に汗を流す。


「天使の方は羽を隠したりはできないモンなんですか?」


「そんな事、考えたこともありませんでした。姉様はなぜそんな事ができるようになったのですか?」


「必要だからよ。オーガイルでも亜天使はそうだし、大海洋界では天使そのものが目立つから、ない事にしなきゃならなかったのよ。意識すれば割りと簡単にできるようになるわよ」


 理屈は簡単、異空間に収納しているので、邪魔にならず誰の目にもとまらない。


 ミルは8歳からずっとそうして生きてきた。


「出し入れにはマナが必要だけど、しまいっぱなしだったから、全然負担なかったからね」


 軽く流すだけのはずが、またここでもお喋りは途切れることなく、呼びに来られるまで十分な時間が経過、いつの間にか昼食時になっている。


 用意された着替えのドレスに袖を通し、場所は食堂に変更され、テーブルには既にランチにしては豪勢を通り越した料理の数々が並んでいた。


 主賓席にはミシェルフの姿。

 ワインを傾け、先に箸を進めている。


「随分とゆっくりだったんだね。女の子はそうか、色々と時間がかかるもんだものな」


 少女達が席に着くのを待ち、兄はグラスを掲げ挨拶をする。


「すまないね。母上は少し前に用ができてね。今晩は宴にするので、それまではノンビリと過ごしてもらおうか」


 エヴァマラーラがいないのなら調度いい。


 ミルは今回の件について、改めて詳しく話を聞く事にした。


「そうだね、確かに魚人達には申し訳ないことをしたと反省しているよ。だが数を減らさないようにフォローもしたつもりなんだけどね」


「そうやって意味なく一気に数を増やしたりするから、人魚にも被害を出させることになったのよ」


「本当に助かったよ。君達が終息させてくれたと報告を受けて、どうやってお礼をすればと悩んでいたんだよ」


 問題はその誘いの方法である。


 ミシェルフが自分の名前を出せば、ミルは絶対に来ない。


 その判断は或いは正しかったのかもしれない。


「だからって、仲間に危害を加えた事を許す事はできないわ」


「どう弁解をしても申し開きはできないね。エンゲラの話を聞かなければハッキリはしないが、その件に関しては、僕が命令したわけでない事は信じて欲しい」


「あんな呪いのアイテムを渡しておいて?」


「呪いのアイテム? ああ、別件で回収を命じたあれか」


 それをエンゲラは独断で使用したというのだ。


「君達をどうにか招待して欲しい。海底で遭遇したと報告を受けた時に、その一言だけを伝えて、後は全部を彼に任せたんだけどね」


 聖人は仕える者の命令には従順ではあるが、その使命を果たすために手段を選ばなくなる事がある。


「教義に反していなければ、なんでもやりかねない。報告通り、君の仲間に呪いをかけてしまったのだとしても、ここまで連れてきてくれれば、ここなら解けない呪いはないからね。呪詛を使うのに、何の躊躇もなかったのだろう」


 どう言っても上手く言い逃れてくるだろう。その予想はあった。


 ミルにはこれ以上の追求はできそうにない。


「さぁ、君もそんなに警戒しないで、入浴中も着けたままだったそうだね? できたらマスクを外して顔を見せてくれないか?」


 ミシェルフは話題の矛先をイシュリーに移して、馴れ馴れしく話しかける。


「いえ、失礼かとは思いますが、私にはこの天界の輝きは眩しすぎます。ご容赦ください」


 マスクを着けていても、食べ物はすり抜けて食べる事ができる。


「そうか、極々私的な会だからね。いいよ、しかたがない」


 些かの蟠りは残しつつも、出されたご馳走を無駄にすることもなく、主賓は余所に少女たちは楽しい会食を終え、しばらく荷物を置いてある部屋で休ませてもらう事にした。


 夕暮れ時には母エヴァマラーラも戻ってきて、親子は久し振りの再会を果たした。

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