16 少女の想いを秘術士は見捨てる事もできた噺
「なに言ってんのよ。人間、死んだらもう二度と一緒にいられなくなちゃうのよ」
「一緒に……、人間って? ああ人種のことか」
一つの魂となって、永遠に結ばれる。それが少女の願いだった。
「なのに、喰らったはずの彼は、私の中のどこにもいなかった。化け物にまでなったのに」
この子が喰らったのは闇男の抱えた贖罪のみ、二人の少女の無念が繰り返され、苛まれる思いだけが残った。
「あの二人の記憶の中でだけ、コウくんに会えた。苦しくても彼に会えるならと悪夢を繰り返させた。それだけが存在する意味だった。それを邪魔したんだ。もうあいつ等の記憶は使えない。アタシを救うってんなら、今すぐコウくんに会わせて、コウくんと過ごせる世界を与えてみせろ」
夢の中でもいい、望むモノを手に入れたい。
誰もが胸に抱いている、ささやかな権利を取り戻したい。ただそれだけ……。
「どうにかならないか?」
「簡単なことやで、魂を浄化していい夢が見られる、永久の地へ送り届けてやればいい。
そやけど怨霊になってしもうた魂魄を、強すぎる呪いを解くほどの浄化の力は、中々使えるモンがおらん。
多分シズでも無理やろうな」
方法はある。
ただ実行が可能かと言われると、ノアールは後ろを向いて溜め息を溢した。
意識を取り戻したものの調子が悪く、へたり込んでいるマニエルを気遣うシズに視線が向く。
「シズにそんな能力があるのか?」
「あるで、この子は死ぬ前はかなり高位の巫女さんやったんやからな。国の政にも係わるほどの能力者やったんや」
その彼女にいま足りないのはやはりマナの力。
妖力を高める事さえできれば、難易度の高い浄化も成し遂げられるかもしれない。と言うのがノアールの見解だ。
「手っ取り早いのはウイックはんの秘術で、ウチらを底上げした力が使えたらええんやけどな」
人見知りのシズがずっと男の側にいる。
既に心は通い合わせているのだ。
これでメダリオンさえあれば問題は解決する。
「メダリオンが必要なのですか?」
ここしばらくの連続ゲットで、メダリオンを求めるウイックに呼応して、メダリオンも魔晶石を求めているのではないか、そんな事をミルが言っていた事がある。
アイナニナ王女が取り出して見せてくれたそれは……。
「本物ですの。こうなるとミレファールさんの仮説も認めざるを得なくなりますね」
「これを神殿に納めるために、ワタクシは父王の名代として参りました。最近各地で、この宝物に係わる事件が相次いでいるとかで、神々を祀る神殿にて、保管頂く運びとなったのです」
なんにしてもこれで駒は揃った。
王女はウイックが魔晶石を持っている事、メダリオンを求めている事を知り、快く宝物を譲り渡してくれた。
「あ、あのぉ……」
「はい、なんでしょう?」
「あれはいったい何をしていらっしゃるのでしょうか?」
初めて見る秘術行使の儀式、王女はこの年で男女の営みを教育として受けているので、その行為自体は理解できる。
だがそれをこの局面で行う理由が分からない。
「あの行為をもって、メダリオンの力はワタクシ達、烙印を持つ乙女にもたらされるのですの。故にあれは痴漢行為ではなく必要な儀式でありますの」
王女の疑問に答えながら、エルラムは自らの体のむず痒さを無理矢理抑えつけた。
シズは恍惚の表情で、力が体に流れ込んでくるのを感じる。
ここは霊冥界ではない為、シズが実体化するには相当の集中力と妖力が必要であり、今は“操体の秘術”を行使するために、ウイックがマナを供給していたが、烙印を刻んだ事で、シズは自らの力で実体化が普通に行えるようになった。
「すごいです。こんなに力が湧いて出てくるなんて」
「どうだ、あの怨嗟を浄化できる力も出せそうか?」
既に大人しく、暴れる事のない怨霊、今なら除霊も浄霊も、高位神官のアイナニナ王女なら実行可能だろう。
だがウイックの望みは、少女に穏やかな冥福を与える事。
「やってみます。自信は……ありますよ」
シズは怨念を断ち切りたい少女の前に立ち、妖の身でありながら、聖なる御業を成し遂げる力を示し、恨み辛みも吹き払い浄化は完了した。
「“ホーリー・ディフィケート”です。エルラム様からご教授を受け、霊冥界では無用の産物でありましたが、私は降霊術を一通り仕込まれてますから」
出会いの頃はオドオドしていた人見知り幽霊少女は、堂々とした態度で秘術士の前に戻ってくる。
「すごいな。俺もその手の術を勉強するか。この件が済んだらまた、秘宝ハンターとして活動したいし、なんか役に立ちそうだしな」
「それなら必要な時は、私がお役に立ちますよ」
「おいおい、お前さんはエルんとこの職人だろ? 俺の冒険にはつき合ってはもらえんだろ?」
「それは……そうですね。少し残念です」
これで解呪に必要な条件は満たされた。
少女は最後に「ありがとう」と残して、成仏していった。
呪詛具からはなんの反応も感じない。
しばらくすればアンテも目を覚ますだろうと、ノアールが断言してくれる。
急いで海底神殿に戻り、アンテの無事を確認したら、早くミル達を追いかけないといけない。
「あ、あのウイック様、お急ぎなのはお察しいたしますが、お願いが、是非ともお聞き頂きたい事がございます」
アイナニナ王女は最後のお願いを申し立てた。




