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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第四幕   仲間達と世界を股に掛ける男の探遊記
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15 人形神《ひんながみ》、またも体が……な噺

「ダンルー、大丈夫か!?」


「ダンルーさん?」


 王女はウイックの後ろから覗き込み、人形神ひんながみが急にピクリとも動かなくなった事に首を傾げる。


「あの子は、ダンルー、ダンシングドールっていうんよ。ほんでもって人種ひとしゅやない。おそらく魂に近しい存在のこの子に、悪霊は目を付けたみたいなんよ」


「人ではない? ダンルー=ダンシングドールさんはいったい?」


 ダンルーにフルネームが生まれた瞬間だが、今はそれどころではない。


「おい、大丈夫か?」


「なんなのあんた、どこまでアタシの邪魔をすんのよ」


 流石に心配になって、肩に手をやり揺さぶると、彼女の物とは違う声で返された。


「お前……、何にそんなに怒ってるんだ?」


 肌で感じるのは激しい怒気。


 並々ならぬ怒りの念を感じ、問題解決にはやはり話を聞くしかない。


「アタシはコウくんのために全てを捧げた。アタシとコウくんとの間に割り込んでくるヤツは、死んで後悔するといい」


 過激な事を言う少女は、ダンルーの体を突き破るほどの負のオーラを撒き散らしている。


 これまでに会った二人とはまるで違う、澱んだ空気が漏れ出ている。


「あれは呪いとか、そんなモンとは全くちゃうで、あれは怨霊や! 歴とした妖怪やで、それも悪霊っていう最悪のな」


 取り憑いた相手を呪い、大きな力の源とする怨みの温床。


「ダンルーは大丈夫なのか?」


「大丈夫。……やとは思う。あれでも神格を得る、由緒正しい物怪もののけや」


「なんなら一度バラバラにしてみれば、ヨロシイのではありませんか?」


 本気で心配するウイックとノアールに、冷たく言い放つエルラム。


「いや、それはあまりにも……」


「いいや、それいいかもしれんで」


 彼女の事をあまり良く思っていないエルラムの言葉に眉を顰めるが、ノアールは少し考えてから、提案を受け入れた。


「マジで言ってんのか?」


「ホンキやで。大丈夫、アイツはそんな事でどうにかなるタマやない。いっぺんアイツをボコボコにしたあんたなら、分かるやろウイックはん」


 先ずはあの怨霊を追い払う。


 そして核の可視化を促す。


 後はウイックのいつもの手でマナを流し込み、正気を取り戻させる。


「成功の確率は?」


「五分五分と言いたいところやけど、もっと分が悪いやろな。数値化は難しいってのが本音や」


「いつまでごちゃごちゃやってんだ。アタシはコウくんの元に、コウスケの元に行かなきゃならないんだぁ」


 負のオーラは更に拡がりを見せ、ダンルーは巨大化を始める。


「アイツの言うとおり、ごちゃごちゃしてる場合やあらへんで」


 考えている余裕もない。


「土塊の人形ならば、“雷鳴らいめいの秘術”で動きを止める」


 三倍、いや四倍に膨れ上がる人形神ひんながみ、そこに巨大な雷が落ち、呆気なくバラバラにされてしまう。


「なんだってんだ、あんたはアタシになんの恨みがある?」


「お前を止めるのに恨みが必要か? 俺はお前の苦しみも、どうにかしてやりてぇんだがな」


 ダンルーの体のあちこちから染み出した漆黒の霧は、一つ箇所に固まり形を成す。


「今ですわ。ウイックさん」


 人型を成した怨霊の背後に瞬間移動し、ウイックは少女の形をしたオーラに飛びつき、胸部と臀部にマナを込めた刺激を与えた。


「いやぁ、や、やめろ! アタシの体はコウくんの、コウスケのものなんだからぁ」


 抗えば抗うほどに、ウイックの技は核にまで届き、オーラは完全な少女の姿を取った。


「どう、して?」


「心から泣いてるヤツを放っておけねぇ、苦しみを撒き散らして、なのに晴れる事のない想いを救ってやりてぇ」


 そんなウイックの想いからの提案は、しかし勝算は皆無に等しかった。


 エルラムもノアールも同じ考えだった。この怨霊は強大なマナをもって消滅させるしかないと……。


「或いは程度の成功率でしたのにね」


 エルラムは改めて男の背中の大きさ、懐の深さを見て惚れ直した。


 少女は思いを吐露した。


 彼女は十の歳に命を落とした。


 キャンプという道楽に、闇男、コウスケと言う同年代の幼馴染みと参加し、そこで水遊びをしていて水害にあったのだとか。


「事故、だったわけではない。と言う事か?」


 彼女を溺れさせ、息が止まっても助けようとしなかった。その張本人こそコウスケという男だけだったのだとか。


「つまりその男がお前自身の敵という事か……」


 齢10の歳で命を落とす原因となった男、確かに恨むのには十分だが、怨霊と化すほどの怨みなのだろうか。


「コウくんを恨んだりなんてするもんですか」


 だが少女は成仏することなく、その魂を件の男の中に潜ませ、取り憑いてみせたと聞いては、恨んでないという言葉は、疑う事しかできない。


「コウくんを幸福にできるのはアタシだけだもの、本当なら彼のお嫁さんになるのはアタシだった。でもそれが叶わなくなったのなら」


 少女は闇男に近付く女の子を逆恨みも含めて、極論をもって排除した。


 中学の時にクラスメイトだった、彼に想いを寄せられ、しかしケンもホロロにフッたクラスメイトを死に追いやった。


 高校生の頃に、街で知り合った行きずりの女に弄ばれた時、お金目当てだと気付き引導を渡した。


 だがその事でまた男を追いやり、警察、この世界で言うところの憲兵に捕まりそうになり、自ら命を絶った男の魂を少女は喰らい、気が付けばこちらの世界で、漂っていたのだそうだ。


「想い人が自害してなお、何故お前は怨みを抱き続けてるんだ」


 それこそが、この怨嗟の鎖を解く鍵に繋がっているはずだ。

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