13 逃げ出した魂が変化した獣と死闘を繰り広げる噺
「広域結界か、大したモンだな」
少女を襲う影が一つ、魔物の姿をしているが、気配がおかしい。
「霊糸はアイツの中に繋がってるな」
元の魔物が何だったのかが分からないくらいに変化をしているが、それがどれだけ危険な存在なのかは一目で分かる。
「こいつデススペルを撒き散らしてやがる。あの騎士団が全滅していたのはこれのせいか」
その声を聞いた者に死を告げる魔法、そんな物があると昔に聞いた事がある。
少女はそれに対抗して魔力結界と、物理障壁を張って防御している。
四足獣の姿をした魔物の頭に、ミサイルを一発ぶち込む。
「なかなか使えるようになってるよな俺、おっと」
口の中で爆発が起き、デススペルを放てなくなった魔物は右前足を振り、その先端の爪が抜けて、ウイックを襲う飛び道具となる。
軽く回避をし確認すると、魔物は飛ばした爪を即座に再生をしてしまう。
「厄介者だな。なんだこいつ? 見た事ねぇぞ、こんな魔物」
似たものとしてフェンリルを思い浮かべるが。
「デススペルと言い、爪だかなんだかを高速で飛ばしてきたり、そもそも元の生きモンがオオカミなのかも分かんねぇし」
少女の前に降り立ち、五発のミサイルを撃ち込むが、今度は高圧の電撃で着弾前に爆発させてしまう。
「ゴーレム……さん?」
「お嬢さん、話は後だ。その結界と障壁はちゃんと維持していてくれ」
エルラムが言っていた。魂が小動物などに憑依すると妖怪変化となると。
「もし強い怨み辛みを抱えた魂が、大きな獣に憑いたら……」
これ以上は専門家に聞かないと分からない事だが、獣を倒さないとならない事は間違いない。
元の獣に恨みはないが、ここは一気に殲滅させてもらう。
秘術士として霊冥界では制限の厳しい局面を強いられた。
「憂さ晴らしさせてもらうぜ」
手始めに“氷弾の秘術”を飛ばすと、予想通りに電撃で散らされるが、同時に霧が立ち、視界が奪われる。
“風刃の秘術”で獣の手足を切り刻もうとするが、目で見るのではなく肌で察して見事に避けきると、いつの間にか再生している口で、牙で食らいついてくる。
「へっ、待ってたぜ」
待ち構えていたのは石槍、空を飛ぶ能力は持ち合わせていない獣は、そのまま突き刺しに……はならず、右に振った頭から放つ咆吼で進路を変更、ウイックの技から見事に回避してみせる。
「器用なマネを!」
瞬時にロックオンをすると、獣の着地点に“炎獄の秘術”を発動。
周囲から狭まる炎からは逃れる事はできず、獣は全身を焼かれる。
かなり大きめの電撃で逃れようとするが、ウイックの秘術は人智を越える強大な理力を込められていて、ちょっとやそっとではビクともしない。
しばらくして解かれた術の中心にいた獣は、完全に焼き尽くされており、魂はとっくに抜け出していた。
「まだ逃げるか」
追い駆けっこが続けられるのかと思いきや、直ぐ側にいた小猿に取り憑いた。
「妖怪になる瞬間ってやつか」
体のサイズは二倍、いや三倍以上にまで肥大化し、サーベルタイガー以上に牙が伸び、雄叫びも先ほどの四足獣よりも強い。
「この状態でもデススペルは使えるって事か」
さきほどからウイックには全く通用していないのに、懲りずに威嚇を続ける。
口で火球を生み出し、撃ち放ってくる。
「恐ろしい一撃だな」
飛びかかってきて振り下ろされた右拳は炎をまとい、その威力もすさまじく。
「地面が陥没しやがった。プロテクターが警報鳴らすレベルかよ」
だからといって相手の土俵で戦うわけではない。
ウイックは少し高度を取って、真下に雷鳴を落とす。
「さっきまで電撃を使ってたヤツが、悲鳴を上げてやがる」
取り憑いた相手に合わせて属性も変化するようだ。
となると今は火属性という事になるのか。
“氷塊の秘術”で氷漬けにすると、中から巨大な炎で溶かそうとする猿を、空かさず光剣で一刀両断。
大猿は絶命し小猿に戻る。
魂も抜け出してきたが、最初に比べてかなり色が薄くなっている。
ウイックは何枚か貰っていた霊符を一気に使い、また逃げ出そうとする魂の動きを封じた。
「俺ができるのはここまでだな。後はエルかノアが来てくれるのを待つしかねぇや」
これで決着ではないが、今できる事はやりきった。
プロテクターを解除するウイックの元に、一人の少女が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
心配が必要なのはそっちだろう。
ウイックが振り返ると、駆け寄ってきた勢いを殺さずに、少女は思いきって抱きついてきた。
「お、おい!」
「ああ、申し訳ございません。失礼を致しました」
顔を朱に染めてすぐに離れた少女は、スカートの裾を摘んで挨拶をしてくれる。
「ワタクシはクラクシュナ王国、王位継承権第五位、第二王女のアイナニナ=ナハル=クラクシュナと申します」
「やはりそうか……」
すんでの所で胸に向く手を止めてよかった。
王族の家名が付いたブレスレットを左の二の腕にしているから、もしかしたらと自重して正解だった。
近くで倒れる騎士達、その骸は王女の護衛だったのだろう。
結界を張る彼女の側にも幾人かの女性が倒れていた。
聞けば側仕えの次女達なのだそうだ。
「生き残りはあんただけか?」
王女は無言で首を縦に振った。




