10 呪いの元凶と特殊な状況に悩まされる噺
「俺の事を弄ぶヤツは許さない。その女もあいつらみたいに……」
その体からは真っ黒なオーラが漏れ出ている。
怯える少女の姿はもう側にはなく、教室もなくなり、縦も横も分からない黒い空間が拡がった。
「間違いあらへん、こいつが呪いの元凶や」
呪い除けにノアからもらっていた霊符が反応する。
「なんかひん曲がった感情やで、呪いその物は大したことないけど、特殊すぎて読み取れんかったんやな。これは逆恨みの類や」
呪詛に犯される事がなかったのは霊符のおかげ、だがその呪いはメンバーの体に重くのし掛かってくる。
とにかくこれを何とかすれば解呪も可能になるはず。
「けどな、どうも様子がおかしいんや。どうも特殊なんはこの空間のようやな」
いつの間にか拘束も解いており、闇男は新たなナイフを取りだし、それで空を切ると、別空間と繋がり、黒い陽炎を浮かべる闇の塊が何十体と姿を現し、敵意を向けてくる。
「ウイック、あんたにこれ預けるわ」
ノアールが呪詛具を渡す。
「そいつをあの男の体に押し付けてやり、それでどうにかできるはずやから」
その対敵は闇の塊の奥にいて、簡単には届かない。
「あいつのことはお願いねウイック、周りのやつらは私達がなんとかするから」
せぇらぁ服を脱ぎ捨てると、マニエルはここに入ってくる前の姿に戻る。
完全竜人化の状態で敵に殴りかかる。
「攻撃、通用するよ」
全員が戦闘態勢をとり、殴りかかる。
これならマナを発揮しなくても、何とかなるかもしれない。
時間と共に数を減らしていく塊、間もなく男に続く道が拓けるかと思ったら、後ろに飛びながら、またナイフを振るって新たな闇を生み出す。
「殴っている感触がないせいか、少しキツイですわね」
それなりに力を込めて打たないと倒せない。が、当てた感触がないので疲労も溜まる。
「こういう時、聖光気を操れるミルさんがいらっしゃらないのが、惜しまれますの」
術が使えればなんの苦労もない相手に、少しずつ体力を削られていく。
「でもなんでぇ~こんな苦労をするのぉ?」
「なんでもなんも、呪術空間みたいな不安定な場所じゃあ、ヘタな事できんやろ」
ダンルーは踊るように髪を振り回しているので、この中で一番無理なく動けているが、そろそろ飽き始めており、そろそろ終わらせたくなっている。
「不安定ぃ? あのナイフを出してきた時点でぇ、安定しちゃってるじゃなぁ~い。この子達ぃ、上手に踊ってくれないから、つまんなぁ~~~い」
異変に気付いていた人形神が教えてくれる。
試しにエルラムがエアロポケットを開くが、確かに空間が歪む感覚はない。
「なんだ、秘術使っていいのかよ」
そうと分かれば、呪いの重みに耐える必要もない。
「これで詰みだ」
ウイックは“転移の秘術”を使い、闇男の後ろ側に瞬間移動をし、アイテムを目一杯に押し当てた。
強力な呪詛具は、闇男の怨嗟を吸い込み、黒い空間ごと飲み込んで、気付くと六人はエルラムの工房に立っていた。
「……いったいどうなったんだ?」
「呪詛の封印に成功したんよ。これでこのアイテムは人を呪うことができんくなってん」
複雑であったり、特殊である呪いを解くには、本来なら長い年月をかけなけらばならないが、その大元を捜しあてて、封じればお祓いは完了する。
「あとはこれを元に解呪法を見つければ、呪われた人を救う事もできるようなるで」
それとこの呪いを使って、新たな呪詛を組み上げられると、ノアールは怪しい笑みを浮かべる。
「それ、持ってこられたの?」
ピューレはせぇらぁ服姿のまま、まさかの異空間アイテムのゲット。
マニエルが羨ましそうに眺めている。
「ワタクシとした事が、まさかそんな事が可能だとは……」
ピューレはみんなと合わせて上着を脱ぎ、スカートを詰めていたから、エルラムが望む一揃えとはなっていない。
「いいですわ。ワタクシがきっと再現してみせますの。シズさん、申し訳ございませんが、ぶるまぁの後の仕立て生地もお願いしますの」
「は、はい……」
いきなり戻ってきて、ヤイのヤイのとやり取りがされる中、シズはお茶とお茶菓子を用意した。
「俺、呪いの大元をどうにかすれば、それで終わりと思ってたぜ」
「ウチもこんなケースは初めてや。呪いを生んだんはあの変な男やけど、その犠牲者の無念が絡んで、あの特殊な呪いになってしもとるなんて、ホンマにビックリやわ」
ノアールは黒の空間での戦闘に参加もせず、鑑定を続けた結果、呪いの封印だけでは解呪に繋がらない事が分かった。
「それで?」
「それでって、なんやねん?」
「いや、この後どうすればいいか、分かってんじゃねぇの?」
呪いなんて物に係わった事のない男が、専門家に頼りっきりなのはどうか許して欲しい。
「それはしゃあないけど、ウチかて全部が全部、分かってるわけやあらへんのよ」
わりと順調に、協力者にも恵まれてここまで来られた。
それだけでもラッキーだったと感謝しなくてはならない。
「けどそれじゃあダメなんだ。結果を出さなきゃ意味がねぇんだ。頼むノア」
沈黙してしまう猫娘を前に、歯痒さだけが募る。
「あ、あのぉ」
竜人化を解いて服を着てきたマニエル。
チャイナドレスをいつものゴスロリに着替えてきたエルラム。
全員が着席し、手の空いたシズが話に入ってきた。




