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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第四幕   仲間達と世界を股に掛ける男の探遊記
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8 天使の思惑を聞かせてもらう噺

「ここでもね。幼い子が教育を受ける機関というのがあってね」


 天使は羽が生えるまでは、聖人の子供と一緒に学術所に通う。


 その学舎から追い出されるまでは、活発で快活なミルは中々の人気者だった。


「天上界には神にも匹敵するとされる、大天使と呼ばれる存在がいて、その中でも柱と呼ばれる大天使以上の皇天使の冠を頂く方々がいるの」


 オーガイルには大きく分けて三つの勢力があり、皇天使ミカナフ、皇天使ガブナース、皇天使ラファイエラを象徴としている。


 皇天使ミカナフ率いる、天界における最終の決定権を持つ、最も大きな派閥。


 皇天使ガブナース率いる第二の派閥、反体制派。


 両派閥と中立な立ち位置にいる、皇天使ラファイエラ。


 三者がバランスを保っている事で、天上界は治められている。


「ただ派閥と言っても、全ては三天使様のみが発言権を持っている。後はただの取り巻きみたいなものらしいわ」


 海底都市で会ったミハイル=バファエラからは、ウイック達と別行動を取ると決めた時に三度会い、オーガイルについて色々と教えてもらった。


 とにかくここで先ず必要なのは情報。


 少し意地悪をしたがフリーリンの行動を見るに、ミハイルに聞いたとおり、上手く誘導すれば有益な情報を得る事ができるだろう。


「ミルさん?」


「あの子、こちらには目もくれず、ずっと入り口を見てるわね」


 ミルは立ち上がり、フリーリンの元へ。

 一言声を掛けると彼女は満面の笑みを浮かべて、イシュリーの方へ二人で戻ってくる。


「本当にごめんね。私達の世界では、安全の確認は当たり前の事なの」


「いえいえ、なるほどですね。勉強になります」


 酒場ではあるが、日中は定食なども置いている食堂も兼ねている。


 一通りの注文料理が揃い、食事を終わらせてから話を聞く事に。


「先ず確認したい事なんだけど」


 エンゲラの話によればミルの母、エヴァマラーラは罪を問われ、ずっと幽閉をされているのに、今になって更なる弾劾をし、全国民の前で罪を問われるというのだ。


「そのような事実はありませんよ」


 食後に届いたお茶を啜りながら、思ってもない話の流れに、二人の手が止まる。


「エヴァマラーラ様はミナエル様を手放す事で禊ぎを終え、出産経験を三度もされている聖女として、皇天使ミカナフ様の元で、教皇様を務めておいでです」


 天使はなかなか子を授かる事はない。


 授かったとしても生めるのはほぼ一人、それを亜天使を含めはするが三人もとなれば、聖女と祀られるのも当然の事と言える。


「天使は長命ではあるけど、子孫繁栄には問題を抱えているから、聖人の中から稀にだけど、天使に昇華する儀式を行って仲間を増やすの」


 昇華天使は純粋な天使ほど長命ではないが、人種ひとしゅに比べて遙かな延命を果たし、繁栄の礎となる。


「どうしてそうまでして仲間を増やそうとするのに、亜天使は排除しようとするのです?」


 イシュリーは素朴な疑問を浮かべる。


「それは揺るぎない教義によるものです」


 天使が他人を無償で受け入れるのは、物心つく前からの教育の賜である。


 聖人の子は天啓を受けることで、天使は羽が生える時に自然と教義に目覚め、従順な信徒となる。


「亜天使はね。片翼が為に教義を完全に受け入れることがないの。特に私は片翼だと分かった途端に大海洋界に送られたから、今じゃあ教義のきの字も覚えてないわ」


 聖人でも稀にミハイル=バファエラのように、天啓を受けづらい者もいるが、統制のとれた社会を保つ事ができているのも、徹底して教義を守っったからだと信じられている。


「じゃあなんでエンゲラは間違った情報を?」

「それはミシェルフ様の指示によるものです」


 この数年間エヴァマラーラの要請により、様々な聖人が大海洋界に来て、ミルの事を探していたのだとか、そして精霊界で聖光気を検知し、海底都市で確認できたという。


「おかしいじゃない。海底都市を襲った魚人、準備は半年前から進めていたんでしょ?」


「あれはミナエル様の行動が、たまたまミシェルフ様の実験場に重なっただけなんです」


 それは長年の念願を実現するための試み。


「魚人の負担を考えて、月周期八回と期限を切っての大実験は、あまり成果をあげなかったとのことですが、そこで貴方様のオーラを確認できたのは大きな収穫でした」


 オスばかりという繁栄の道を絶たれた状態で、オーガイルで開発された装置を使い、道を拓けるかの実験は失敗。


 魚人は強い思いで発動される装置を起動することなく、人魚を襲う道を選んでしまったのだ。


「そんな実験なら自分達ですればいいでしょ? 多くの人魚も魚人も犠牲を強いられたのよ」


「精神に作用する装置は、感情の強い天使に用いるリスクを検証する必要があったのです」


 戦争の事を知ったのは終戦後、実験は半ばで終了する事にしたそうだが、精神の絆で繋がるウイック達のメダリオンの力を知ったミシェルフは、エンゲラに追加の指令を与えたのが、あの事件の発端である。


「エヴァマラーラ様が、ミナエル様との再会を渇望されています。私は貴方様を天界にお連れするよう仰せつかっております」


 天使として育った者としては珍しい、自らの思考力を持つミシェルフの案で、どのようにメッセージを残せば、ミルが自分からやって来るかをシミュレーションして実行した。


「それに乗って、まんまとここまで来ちゃったってわけね」


 手段は許せないが、目的のためなら、なんでもやるという考え方は理解できる。


「それじゃあ、私の仲間にかけた呪い、私がこうしてここに来た以上は解呪してくれるんでしょうね」


「それは不可能です。強すぎる貴方達を止めるために使った呪詛です。生半可なものではありません。ですが大天使様、いえ皇天使様であれば、解決は簡単な事だと思われます」


 恐らくウイック達がアンテを救ってくれると、そう信じてはいるが、もしも自分が呪詛を解呪できるのなら、その可能性が万が一にでもあるのなら、試す価値はある。


「けどいいの? 亜天使を天界に連れて行って?」


「ミナエル様は光翼を手に入れたとお聞きしております。ならば問題はございません」


「人であるこの子は?」


「申し訳ございませんが、私が命を受けているのは、ミナエル様についてのみであります」


 天界には聖人も出入りが許されている。人種ひとしゅが入るのになんの違いもないはず、両者を分けるものがあるとすれば。


「天啓があるかないかよね。イシュリー、マスクを付けてみてくれる?」

「はい」


 言われるままにマスクを取り出し顔に填める。


「これなら聖人として、天空回廊も通れるんじゃあないの?」


 一度天界と連絡を取り確認すると言われ、この日は近くの宿屋に泊まる事にしているミル達は、酒場から出て行った。

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