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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第四幕   仲間達と世界を股に掛ける男の探遊記
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2 法術士の住み家で今後を話し合う噺

「俺か、俺の名はウイック、ウイック=ラックワンドだ」


「ウイックって、あんたの敵やんかエル! なに、仲良うやっとんねん!?」

 爪を出し、威嚇ポーズを取る猫娘。


「ああ、ワタクシ、あっさり鞍替えしましたので、今はウイックさんの虜ですの。襲ってきたら、法術の餌食ですの」


「あ、あんたを慕ってるウチに何する気や、って、鞍替え? 聞いとらんで」


 まだ手を出してないのに、エルラムから風の拳でボディーブローをもらったお腹を抑えながら、ノアールは詳しく話を聞く。


「へぇ、海底と地底でそんなことが」


「回収したアイテムは、天狗様に渡しましたの」


 手を差し伸べたまま放置状態のウイックは、存在感を取り戻すために一興を講じる。


「ひゃ、あ、ややや!?」


 素早い猫娘に逃げられないように、秘術を使って背後に回り込み、両手で一気に鷲掴み、指の動きにあわせて形を変える乳房。


 もう慣れっこのメンバーは、ウイックが満足するまでしばらく待つ。


「にゃ、にゃんにゃんにゃあー、こ、こいつなんちゅう事すんねんや」


「気持ちよかったんでしょ? そんなことはいいのですよ。話があります。ノアールさん、家の中に入りますよ」


 玄関先でのレクリエーションを終え、中に入ると。


「ここがエルの工房って訳か」


「工房ではなく縫製場ですの。ワタクシはカガクに関しては、あまり理解が及んでおりませんの」


 今は糸を紡いでいて、術衣は作っていない。


「早く“ぶるまぁ”を作り直したいのですが、一着を作るための糸を紡ぐのに、かなり手間が掛かりますので、実戦で使えるようになるのは、かなり先になると思いますの」


「糸は誰が紡いでるの? やっぱりノアが?」


 マニエルが織機を眺めながら聞く。


「ちゃうちゃう、ウチはただのお留守番。エルの手伝いしてんのは、幽霊のシズって子やから」


 魂のみで存在ができている希少種、肉体もないのだが、ここの道具を使いこなしているエルラムの弟子。


「今はいないのか?」


「おるよ。人見知りが激しいから、出てけぇへんけど」


 い草を編み込んでできたタタミと言う、敷物を置いた小上がり、ちゃぶ台とかいうテーブルに着いた5人にお茶が出される。


「これを出してくれたのが?」


「シズやで」


「んだよ。目に見えねぇのに、人見知りもなにも、ありゃしねぇだろ」


「むっちゃ可愛い女の子なんやけどな」


 本人が意識すれば、可視化するそうなのだが、出てくる気配はない。


「さて、本題に進みましょう。ノアールさん、これを見て頂けますか?」


 エルラムは呪いのアイテム、“深層の眠り”をネコマタ少女に渡す。


「呪詛具? すごく精巧にできとるな。ほんで、これの呪術系統は分かっとるん?」


「ええ、使われているのは妖力、縁故を元に呪われたモノのようです」


 マスクの男、エンゲラ=コーバンスの頭の中を覗いた時に見えた内容を伝え、ノアールは渋い顔をして面を上げる。


「なんて強力な呪いや、こんなん、その怨みの元になった縁故の正体分からへんかったら、手の打ちようもないで」


 怒らせると相手を一晩で呪い殺せる、強力な呪術を扱うノアールが顔を顰めるほどの呪詛。


「手掛かりなんかもないのか? 調べようにもなにか取っ掛かりがなきゃ、どうしようもないぜ」


 精神を蝕み、体を縛り付けるタイプの呪いなら、聖水や竜脈の通る温泉などで癒す事もできるが、眠りの呪いというのは、外部から解いていくことはできず、その原因を取り除くしかないのだが、ほとんどの場合は解呪も叶わず、眠りのまま肉体が朽ちてしまう。


「朽ちた体と共に魂も削られてしまいます。何も残らない死ではなく、消滅してしまいますの」


「けどそう、手掛かりやったらあるで、エルがその男から覗き見てくれたから、こいつで行ってみるしかないな」


 手に持っている呪いのアイテムを指差し、ノアールは可能性を示した。


「本気で行くって言うんなら連れてったる。けどそこは生と死の狭間の世界、何が起こるかは正直分からんねん。せやから覚悟がないんやったらやめといた方がええ」


 覚悟がなければ、そもそもこんな所まで来やしない。


「ピューレ、どうする? ここで留守番するか?」


「つまんないこと言わないでよ。覚悟がどうとか、そんなの分かんないけど、付いていくって決めたからここにいるんだよ」 


 気持ちは一緒、ならば何も考える必要はない。


「不安定な空間やからね。あれ、持ってんやろ?」


 ノアールは異空間ストレージを置いていけという。


 水先案内曰く、中で次元を揺さぶるようなマネはNGということだ。


「それってもしかして、秘術なんかも無暗に使うなってことか?」


「察しがええな。身体強化系の術はええねんけど、放出系の術は御法度や」


 秘術士としては並々ならぬ自信を滾らせているウイックだが、まさかの制限を受けて、辺りを見回すと、マニエルもピューレも、ストレージに頼る必要もなく、まさかのエルラムに至っても。


「エル、なんだよその恰好?」


「なにって、未知の世界で自身を守るための装備ですの、“チャイナドレス”ですの」


 体にフィットしたワンピースは、足の両脇にスリットが入っていて、美脚を覗かせている。


「戦う事があれば、腰のレイピアで戦うんだよな」


「いいえ、どちらかと言えば、格闘戦を想定してのスタイルですの」


 この術衣の効果は、自称、獣王にも負けない体術が使えるようになると言われ、ウイックは本気でそれを奪い取ろうと、エルラムを裸に剥いたが……。


「き、着れない。小さすぎる」


 エルラムの体にフィットするように作られている物を、どんなに足掻いても入るはずもなく。


「ワタクシ、裸族ではございませんのよ」

「……すまねぇ」


 白いパンツ姿の法術士に、黒いパンツ姿になった秘術士は潔く術衣を返した。


「俺が一番足手まといとは……」


 いま使える身体強化系の秘術で、どうにか乗り越えるしかないと腹を括る。


「ほなら行こか」


「お待ちなさいな。確かに急いで解呪しなくてはなりませんが、先にメダリオンを取りに行きますの。その為に着替えたんですの」


 何にも聞いていなかった新たな展開、驚きのあまり全員が無言で固まった瞬間だった。

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