33 錬金術師の奥の手と怪物の真っ向勝負の噺
凶暴化しても、野生の本能という物を失っていない獣は、大きく堅い動く物を前に、距離を置いて無言で威嚇行動をしている。
このタイミングを見逃さず、アンテとウイックは巨竜に詰め寄り、搭載する半分のミサイルをぶち込む。
『よし、効果アリか!』
大きく口を開いて竜は荒れ狂い、多くの鱗粉を撒き散らすが、循環空調の効いたウイック達には意味もなく、二人は更に接近しようとするが。
『ウイック、飛んで!?』
アンテは叫ぶより早くコントロールを奪い、プロテクターはブーストを掛けて上昇させる。
眼下を一筋の赤い光が過ぎ去る。
『なんだよあれ、ドラゴンブレスか?』
『いいや、今のあれからはマナは関知されなかった。純粋なマグマによる炎だよ』
一直線に遠くまで伸びていったのに、それは火炎の放射によるものだと言われ、混乱してしまう。
『有り得ない事だけど、そう言う生き物なんだよ。そうだね恐竜やドラゴンとも違う。正に怪獣だよ』
炎の温度を測って、マグマの成分なども検知し、アンテは自信を持って突っ込んだ。
『おい!?』
『大丈夫、まかせて!』
自慢のワークボットなら、マグマに落ちてもしばらくは行動可能なこの機体なら、この見た事もない生物にだって怯むことはない。
ホバーダッシュの高軌道で急接近する球体に、怪獣は再び火炎放射を吐く。
「やっぱりこれくらいなら大丈夫だ。ウイック! 残りのミサイルをこいつに喰らわせて」
アンテの要求に応え、ウイックは残弾を怪獣の頭部目掛けてぶち込む。
『あれだけの物量を使っても、あの角は折れないんだ。よーし、それなら』
ワークボットの背中にはど真ん中に、アンテのバックパックに似たサイドアーム接続口が付いている。
もちろんそこにはストレージ内に収納した、専用のアタッチメントが取り付けられる。
『このドリルアームなら』
取り付けられたアームには螺旋の槍、勢いを殺すことなく怪獣に突き刺した。
『なんて堅さなの!? まさか通らないなんて』
ワークボットの更に三倍の大きさの化け物は平気な顔をして、右腕を振り上げて、球体目掛けて拳を打ち落とす。
『嘘でしょ? ただの一発でアームがへし折られるなんて』
ドリルアームはひん曲がり、接続口近くで真っ二つに折られてしまった。
それはつまりこの怪物の力は、ワークボットの装甲なんて、簡単に破壊できてしまう驚異を示しているのだ。
角だけでもどうにかしたかったが、少し距離を取る必要がある。
バックステップで怪獣の手の間合いから逃れるアンテだったが。
『アンテ!?』
怪獣はその場でぐるりと回転し、勢いまかせに振り回した尻尾がワークボットを捉え、吹っ飛ばされてしまう。
『へ、平気だよ。右腕を持ってかれちゃったけど、本体にはダメージないから』
『そんなわけあるか! お前、怪我してるだろ?』
ハッチの中はレッドアラートがなりっぱなし、危険を表す赤いランプが回転し、警報が鳴りやまない。
『マーニー、アンテをセイラの所に!』
辺りにいる怪獣以外の恐竜たちは、そのほとんどが動けなくなっている。
ミルとイシュリー、それにマニエルが頑張ってくれたおかげで、大ダメージを喰らってしまったアンテの救出を第一にすることができる。
『どうする? 打つ手がねぇじゃねぇか』
烙印の乙女達との絆を深め、魔晶石の力を一段階高めた結果を量る試練にしては、あまりにも強力すぎる敵。
ピューレの願いを聞いてやるつもりだったが、ここは撤退を決断する場面ではないのか?
「ウイックさん、よろしいですか?」
『エルラムか?』
アンテの誘導はなくても、少し慣れてきたプロテクターの操作。
黒翼を広げて宙に舞っている法術士の元へ、自力の操作で飛んでいく。
「アンテロッテさんも無事なようですね」
マニエルが疎通の護符で安心を報せてくれる。
だがしかし、あの大きなゴーレムを持ってしても歯が立たない相手に、焦りばかりが汗となって流れ出るウイックの手を取り、一つの法案を示してくれる。
「恐らくは間違いないと思うのですが、一度試してみる気はありますか?」
こんな場面で何を思ってか、エルラムはウイックの右手を自分の胸元に押し当てる。
『なんのつもりだ?』
「あ、いえこれは少し落ち着いて頂こうと、いいですか聞いてください」
エルラムの見立では、あの怪獣は火属性の中でも最上級のエレメントであると言う事。
「つまりあれは恐竜でもドラゴンでもございません。恐らくは……」
その存在の正体を見抜き、危険度の高さの謎を解いてみせる。
それならそれで、まだ打つ手はある。
エルラムは先だって渡したメモの、ウイックの秘術の更なる可能性を試してみるかを確認する。
『いうまでもねぇ、あいつは許さねぇ。アンテの分もぶちかましてやる』
ウイックは理力を最大限にまで高める準備に入った。




