30 問題解決のため、新たな呼び名から考えてみる噺
木材で囲まれた集落の中には、様々な年代の地底人が生活をしているが、この場所に男はいない。ピューレの説明通り、ここにいるのはみんな元魚人、そのメスだった者達と言う事だ。
「魚人ってのは人魚に負けず劣らずの、美人揃いじゃねぇか」
ウイックの注目点はそこではなかったのだが、少女達は揃って気を悪くする。
しかし次の一言で、彼が言わんとする事が理解できた。
「彼女達は随分と力持ちなんだな」
見るからに華奢な体躯なのに、立派な大木を一人で持ち上げるほどの怪力を持っている。
建築様式はかなり粗末なのに、力業ではあるが、丈夫な蔓で大木同士をしっかり組み合わせているので、集落の柵も建物もそれなりに頑丈にできている。
「こんな柵を設ける必要もなかったんですけどね」
彼女がウイック達に解決を依頼したい問題というのは、一部の恐竜達の凶暴化について。
最近までは全く襲われる事のなかった地底人達だったが……。
「それだ! その地底人って呼び方をどうにかしないか? この容姿にその呼び方がそぐわねぇんだな」
いきなり脱線するウイック。
「呼び方? 今、それどうでもよくない?」
と言うミルの突っ込みに。
「いや、それは大事だよね」とアンテ。
「可愛い呼び名がいいよね」とマニエル。
「リザードマンと似た部分もありますが?」エルラムはピューレを観察し。
「元々は魚人なのよね」とセイラ。
「外の世界との関わりがないから、いらないのは分かりますけど、やっぱり名前はある方がいいですよね」
と言うイシュリーの意見ももっとも。
ミルは考えを改めて、みんなの輪の中に入る。
「あ、あのぉ……」
一人取り残されるピューレだが、あまりに真剣そうに進められる話し合いに入り込めず。
「よし! ラティアン、ラティアンでいいよな。ピューレ」
「えっ? ああ、はい、えっ?」
話は聞いていたし、流れも分かっている。
しかし急に「決定な!」と言われても、笑顔で受け入れるなんてできやしない。
「な、なんでその名前なんですか?」
「響きがいいから」
「そんな理由で?」
「後は可愛いじゃねぇか、ラティアン」
「ラティアン……」
名前なんて必要ないし、聞こえ方の響きなんてどうでもいいが、言われて考えると悪くない気もする。
「ちょっとウイック、ちゃんとみんなで案を出し合ったんでしょ。ラティアンはクラクシュナ王国の言葉で、隠れた楽園を意味するラトアナから考えたんでしょ、イシュリーが」
「語源を出してくれたのはミルさんですよ。それを可愛いなって響きで考えただけです、私」
つまり響きがよくて可愛いから。
「合ってるじゃないか」
「……もういい」
呆れるミルはピューレに「どうかな?」と改めて訪ねる。
「皆さんが呼びやすいという事なら問題ないと思います。仲間には後から伝えておきます。……えーっと、話を戻していいですか?」
急に脱線したので心配だったが、ちゃんと話の流れは覚えていてくれた。
ラティアンが恐竜に襲われたのは、割りと最近の事。
最初は魚人を食べられず、人型をした自分達が替わりに狙われているのかと意見も出たが、食用に欲しているのとは違うようにも思えた。
「殺されても食べられない?」
「だから単に恐竜たちは凶暴化したのだろうと、その原因を探っているんです」
先ずは対策のために集落を柵で覆った。ということらしい。
「それで俺達にも恐竜の事を調べて欲しいと?」
「はい、そちらの髪の短い人は、なんだか色々と物知りのようなので、見て頂ければ何か分かるのではないかと」
集落の中、集会場に使っているという井戸のある広場に、丸太を横に置いただけのベンチに腰を降ろして、詳しく話を聞く事となった。
「その凶暴になった恐竜は、大型の物だけなのかい?」
早速気に掛かる事を確認するアンテに。
「もう気付いたんですか? その通りなんですけど」
「いや、ここの柵が丈夫なのは分かるけど、扉もないと言う事は、小さな個体は警戒しなくていいって事だもんね」
全てが凶暴化しているのだとすれば、ここにいるラティアンなんて、あっと言う間に全滅しているはず。
だとすればごく少数の、しかも大きな恐竜だけが、何らかの理由で暴れていると言う事になる。
「では、その巨竜が生息する辺りに行ってみるしかありませんね。実際見てみないと答えは出せませんの」
この辺りは低木が群生しているから、巨竜が入っては来にくいのだが、恐竜が暴れ出すまではなかった、不自然なくらい広い道一本が出現し、遠くまで続いていることを確認しているそうだ。
「あの先に行ってみるしかねぇか」
「そうだね。それとは別に、この周辺でも大型種がいるのか、それも調べたいな」
凶暴化しているのは全ての大型種なのか、或いは道の向こうに何かが起こっているのか、ウイック達は手分けをして調査する事にした。
周辺探索には人手も機動力もいるだろうという事で、マニエルとイシュリーにアンテが当たる事に。
ウイックとミル、エルラムとセイラに案内係のピューレで、怪しい地点の調査を担当する事になった。
一本道はしばらくすると砂漠地帯に繋がり、調べるべきポイントを特定できなくなってしまうが、エルラムが気になる場所があると指差したので、とにかく行ってみる事に。
「しかし砂漠なのに全然暑くねぇな。この地下世界は箱庭みてぇだ。誰かが意図的に作ったみてぇじゃねぇか」
砂漠は広大ではあるが、遠くには高木の密林も見える。
天井の高さが決まっているので、背の高い山などはないが、高台なんかは遠くにうっすら見えている。
エルラムが指差す方角には大きな湖がある。
ウイックはミルに頼んで一緒に空を飛んでもらい、湖の様子を目に焼き付ける。
「そんじゃあ行くぞ。“遠渡の秘術”」
ウイック達は湖の畔に生える、特徴的な木を目印に空間を渡った。




