29 新たな人の形をした者に色々教えてもらう噺
「誰だ!?」
物陰からこちらを観察する影に、ミルとイシュリー、そして声を掛けたウイックが同時に気付く。
「隠れても無駄だぜ」
明らかに動揺して草木を揺らす葉音に、残りの四人も居場所が分かった。
「どうしてここに男の人がいるの?」
隠れても無駄だと知り、一人の少女が姿を現す。
「両手両足に鱗? それに尻尾も……、竜人なのか?」
竜人化したマニエルそっくりの少女は、獣の革を剥いで切って結んだだけの、粗末なワンピース姿、短いスカートから出た足は靴も履いていない。
「羽は生えてないみたい。なんかちょっと竜人とは違う感じするよ」
マニエルは謎の少女の後ろに回り込む。自分との違いを肌で感じる。
「えっ、なに? 言葉が解らない。なんなのこの人達!?」
周りを囲まれて、パニック状態の少女、ウイックは音も立てず真横に立つと、鼓膜に意識を集中させる。
「これで大丈夫、俺の言葉が解るな?」
セイラの時のように手こずることなく、謎の少女は秘術士の言語を理解した。
「ビックリした。なんで急に言葉が解るようになったの?」
「その説明は後にしてくれ、それより海底の洞窟から繋がるここは、一体何なんだ?」
ピンク色の長い髪をした少女の名はピューレ。
驚くほどの美人は、元は魚人だったという。
「魚人は生まれて1年から2年で、メスになる個体が出てくるの」
そいつは知っている。
最初の質問には答えてもらっていないが、分からない事を順番に教えてもらう必要がある。ウイック達は黙ってピューレの言葉に耳を傾けた。
「魚人のメスは決められた場所で卵を産み、そこで死んでしまう」
それも魚人のオスから聞いた。
「と思われていたんですけど……」
しかし話はあらぬ方向へ流れていく。
「卵を産んだメスの大半は、ここへの路を通れるようになるみたいです」
オス達は入る事を許されない神聖な洞窟、メスは卵を産むと死んでしまうと信じられているが、誰一人洞窟から出てこない理由は別にあった。
死ぬのではなく、別世界に移り住んでいただけのようだ。
「じゃあここには、あの恐竜の群れと、お前達のような魚人が住んでいるのか?」
魚人とは言うが、オスとこの少女では、鱗の感じからして違う。
なにより見た目がほとんど、人種と同じなのが気に掛かる。
「魚人のメスは、オスと見た目はそんなに変わりませんよ。やや小柄なのがメス、くらいの差しかありません」
セイラが補足の説明をくれるが、そうなればやはりこの少女の姿が、謎のままとなってしまう。
「どちらかと言えば人魚に近いよな。なんと言っても、艶めかしいボディースタイルはけしからんぜ」
完全に無意識の行動で、つい手を少女に伸ばそうとするのを、ミルの短剣が切り落としたおかげで会話の中断は、驚く少女が落ち着きを取り戻す時間だけで済んだ。
「なにが原因かは分かりません。上陸した魚人の中で、私のように変化する者はごく一握りで、元の姿のままの者は、あの洞窟で恐竜たちに食べられてしまうんです」
あの洞窟の大量の恐竜たちは、餌を求めてうろついていたのだ。
魚人は陸上での活動も可能ではあるが、長い時間は呼吸困難となるため滞在は不可能。
恐竜たちに食べられなくても、ここのような陸地に上がれば、長くは生きられない。
では彼女は?
「この子、詳しい事はちゃんと調べないと分からないけど、魚と言うよりは爬虫類と合致する点が、あちらこちらで見られるね」
硬い鱗は確かに魚の物とは異なるが、見た目で分かり易いのは、尾ひれがなくなり尻尾になっている事と、背中には背びれもなければ、前腕にあったヒレもなくなっている。
首のエラもないので、やはり人魚とも違う。
指には水かきがあるのは同じ、魚人にも爪はあるが、それよりも鋭く硬いかぎ爪になっている。この爪は引っ込める事もできるそうだ。
「くぅー、こんな事なら魚人もじっくり見ておけばよかったよ」
アンテの血圧は上がりっぱなしで、心配になるほど。ここに来てからずっと興奮し続けている。
「ここ数ヶ月、上陸する魚人が全くなかったので、恐竜たちも殺気だっていませんでしたか?」
「なるほどな、問答無用に襲ってきたのは、そう言う事からか」
復活した両手でアンテの胸を掴んで少し落ち着かせ、いや、違う興奮を与えて冷静さを取り戻させて、ウイックはピューレとの話を続ける。
「恐竜は魚人しか食べないのか?」
「まさか、ちゃんと共食いもしてますよ。魚人は言うなれば、たまに食べるご馳走って事だと思います。今まで通りに魚人が食べられていれば、貴方達を襲う事はなかったと思いますよ」
自分が襲われないのは、人の姿をした物は美味しくないと思っているのではと、ピューレは考えている。
小動物なども生息しているが、ここの支配者は恐竜たち。
その恐竜の中でも、ここ最近変化が現れているのだという。
「貴方達はあの洞窟に集まった恐竜たちに勝ったんですよね」
ピューレは所謂地底人の集落へ案内すると言った。
その移動の最中、彼女はウイック達に問題の解決をお願いした。




