28 深海は不思議な地下大空洞に繋がっていた噺
「そうですの。術を発動させたい中心をイメージし、後は風船を膨らませるように」
エルラムはご丁寧に、ゴム風船を取り出して膨らませてみせる。
「ウイック、測量終わったよ。プロテクターを装着してくれれば、バイザーに分かり易く投影してあげる」
空洞にダメージを与えたら崩れてしまう。
本来なら各個撃破で切り抜けるしかないのだろうが、あの魚人戦の後では、時間を掛けた戦闘はノーサンキュー。
ウイックは使った事のない空間攻撃術を、ぶっつけ本番でお見舞いしてやろうと考えた。
前もってエルラムのメモを見ていなければ、思いつきもしなかったが、要領さえ得れば意外と簡単にイメージできた。
プロテクターを装着すれば、目の前にこの場所の詳細なデータが浮かび上がり、ウイックの目測で思い浮かべた敵中心との誤差を修正。どのくらいの風船を膨らませればいいのかをシステムが教えてくれる。
「行くぞ、これが“膨爆の秘術”だ」
疎通の護符で回避を促していた、ミルとイシュリー達が戻ってくるのと同時に、巨竜たちの中心でスーパークが起こり、生まれた火球が大きく拡がっていく。
ウイックはより集中力を高めた。
バイザーには術が空洞内に拡がっていく様子が映し出されている。
火球はどんどん膨らんでいき、プロテクターがアラームを鳴らすと、その膨張を今度は抑えに掛かる。
「ウイックさん、そろそろよろしいかと思われますの」
エルラムが状況を読み取り、ウイックは術の行使をストップした。
「すごいです。あの数の敵を一瞬で消し去ってしまいました」
「秘術の大砲とはまた違うのね。何が起こったの?」
前戦で着実に一体ずつ片付けていたイシュリーとミルは、自分達の苦労は何だったのか? と一気に緊張の糸を解き、深い溜め息を吐いた。
「うまくいったな。空間攻撃術か、おもしれぇもん考えるなエルラムよ」
「お役に立てて光栄ですの。とは言え面白くはありませんわね。人が苦労して、未だ完成しない術をいとも簡単に……」
「そいつはアンテのお陰だな。目で見る事でイメージがしやすくなった。どうだ、お前も何か作ってもらえばいいんじゃねぇか?」
「結構です。自力でなんとかしてみせます」
そこには同じ技術者としての意地があるのだろう。
エルラムはそっぽを向くが、今のでヒントを掴んだのか、何かを呟き始めた。
「そんじゃあ先に進むか」
生き残りは全くいない。
無惨な死骸を“風弾の秘術”で、風の塊を使って障害物を弾き飛ばした。
道ができ、一同は空洞をさらに奥へ進む。
襲ってきた恐竜の中に数匹いた大物が、ようやく通れる大きさの通路はさほど長くもなく、直ぐに別の広大に拓けた洞に出る事ができた。
「なんだ、こりゃ!?」
「眩しい!」
ウイック、そしてミル達が見たのは、未だかつて見た事もない絶景だった。
「なんて広さだ。それに天井も高い。岩肌がかろうじて見える程度だな」
先ほどまでの洞は、光る鉱石で真っ暗闇ではなかったが、十分な明るさとはとても言えたものではなかった。
しかしここは、まるで地上にいるように明るい。
よく見ると眩く光る石が、天井の此処彼処にいくつも輝いている。
「すごいね。地下世界ってとこかな。植物まで育つなんて、ちゃんと光合成できているんだね」
興味津々のアンテだが、それは彼女だけではない。
こんな光景を目の当たりにしたら、誰だって興奮するだろう。
「地熱のせいでしょうか、随分と暖かい場所ですの。ここなら確かに恐竜が生き存えていても、不思議ではありませんの?」
出てきた洞は崖の中腹にあり、見下ろせば飛び降りるのは難しそうだが、いつまでもここに居るわけにもいかない。
幸い、ここにいるメンバーはほとんどが、自力で飛んで降りる事が出来る。
歩いて降りられる坂道もあるが、ここの洞窟に何があるのかは知らないが、次々と登ってくる恐竜は、ウイック達を見つけると襲いかかってくるので、やむなく無力化してきたが、わざわざ歩いていって殺生を続ける必要もない。
「わりぃなアンテ、まだ自分でちゃんと操作できねぇからさ」
「いいよ謝らなくても、僕も複雑な遠隔操作はできないけど、ゆっくり降ろすくらいなら、居眠りしながらでもできるからさ」
多少は錬金術についての知識のあるウイックだが、どうにもカガクと言う物に馴染めない。
余裕の表情のアンテに軽い嫉妬も覚えるが、まだまだ助けてもらう必要がある。
「いいですよね。私も自分で空を飛んでみたいです」
「飛ぶのとは少し違うけど、君だって空中を自由に跳び回れるよイシュリー」
無理を承知に希望を述べてみただけだったイシュリーに、思いもしない答えが返される。
「ライアとアイラが何もない空中を蹴って、跳び回れるのは知ってる」
「はい、特に近接戦闘主体のライアには役立つ機能ですよね」
地面を跳びはねるみたいに、空中を蹴って方向を変える事ができる。
その能力を使えば、天高く跳びはねていく事も、高いところからゆっくり跳ねながら降りる事もできるようになる。
「二人の手足の外郭を君が填めれば、同じ事ができるようになるよ」
「本当ですか?」
言われるままに試してみると、結構簡単に飲み込んだイシュリーは一人で降下を始める。
一人飛ぶ事のできないセイラをマニエルが支えてやり、全員が崖の下に降りると、原生林は見た事のない植物が群生しており、アンテは興奮しっぱなし、そこへ一人の人型をした影が忍び寄ってきた。




