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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第三幕   大海原にて天と地を臨む男の探遊記
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23 獣王の本音と法術士の企み、少年は心を揺さぶる噺

 なぜあの場所から離れたのかは、自分でも分かっていない。


 だけどそうできたという事は、シナリオから外れてはいないと言う事で、後を追ってきたイシュリーの涙に、心を痛めるのも仕組まれた状況なのだろう。


「どうして?」


「ごめん、俺はまだ」


「いやです。やっと私を選んでくれたと思ったのに、他の誰かではない私を貴方は!」


 ブーケを投げ捨て、イシュリーはウイックの胸に飛び込んでくる。


 これまでの流れを考えて、これがイシュリーの本音なのは間違いないが、普段の彼女がする事のない行動に、いつも飄々としているウイックも、シナリオではなく動揺が隠せずにいた。


 暫く抱きついたまま無言で過ごした後、静かに離れたイシュリー


「すみません。そうですよね、今すぐ答えてと言っても、それは無理ですよね」


 俯いたままだったイシュリーは顔を上げ、いつも周りをいやしてくれている笑顔を取り戻す。


「ですが、そうですね。これからは私もマーニーさんやアンテさんのように、周りに遠慮することなく、自分をアピールしていきますね」


「な、に、を?」


 ヒーリングスマイルは一転して小悪魔的な微笑に変わり、徐に口吻をしてくる。


「最近特にスキンシップが足りてません。今は子作りまでは求めません。ですが私の事を放っておいたら、ミルさんのように強行に走りますよ」


 ミルはオイタを諫める為、イシュリーからはイタズラを怠ると折檻される。


 いくら特殊体質を持っているとは言え、これはかなり精神的圧力が厳しくなりそうだ。


「だってウイックさんはメダリオンの為に、これからも先々で出会う女の子に、手を出し続けなくてはならないでしょ? それでも私の事を忘れない為には……ですね」


 イシュリーは後ろに回り込んで、ウイックの背中にへばりつく。


「ウイックさんは私に望む事はありませんか?」


 この空間で求められているのは少女達の願い。


 逆に聞かれて戸惑いはさらに深まるが、質問に対しては答えるのがルール。


「例えばだ、たとえばの話な、獣王の守人を止めて欲しいと言ったらどうだ?」


「それが貴方の望みならいいですよ」

「そ、即断!?」


 少女に感じていた印象が、ここでまた一気に上書きされる。


 どこまでがここの作用の後押しで、この大胆行動に結びついているかは分からないが、全ては彼女の本音。


「もちろんです。ウイックさんと獣王の座を比べるなら、悩む必要はありません」


 ただこの好感の高さは、ウイックの気分をどこまでも引き上げる。


「だからと言って、私にとっては獣王の責務も、ビーストマスターとしての誇りも大事なものです。それに貴方はそんな事、本気で私に求めたりしませんから」


 また心がざわつく、それはイシュリーにだけではない。


 アンテからもセイラからも、マニエルからも感じたものだった。


 どんな言葉を返せば、獣王の少女の心に響くのか、悩むウイックの目の前には、むくれっ面の黒ずくめの法術士が立っていた。


「また妙な事に巻き込まれましたの。責任を取ってくださいなウイックさん」


 いつものゴシックロリータドレスの少女は、酷く機嫌を損ねている。


「いったい今度はどんな流れだ? 辺りは真っ白なブランク空間だが、お前とは何をすればいいんだ?」


「そんなオママゴトに興味はございませんの。ですがそうですね。いい機会ですので、お話をいたしましょう」


 ここのルールを無視して、エルラムはベンチを出現させて、腰掛けると隣に座るように誘ってくる。


「大体、貴方はなぜこんな茶番につき合っているのですの? この程度の幻覚作用なんて、どうとでもできましょうに」


 次々と道具を生み出し、薫り高い紅茶を啜りながら、呆れ顔をウイックに向ける。


「いや、メダリオンに関わる事だからな。変な気配があったら吹き払うつもりだったが、なにかこう、魔晶石に今までと違う心地いい理力の流れが生まれてるし」


 様子見をしている内にここまで来た。


「物好きな事で」


 真っ白な空間に飽きたのか、エルラムは辺りを草木の香りがそよぐ、見晴らしのいい高原に変えた。


「そう言うお前はなんで来たんだ? その口振りだと、自分一人でさっさと抜け出せたんだろ?」


 エルラムの言うとおり、ウイックがここから抜け出すのは他愛もない。それは少女も同じ事。


 最初は様子を見てと思っていたが、一番手がセレーヌだったので、大きな害はないと判断できた。


 だからここにいる。では彼女は?


「ワタクシもそうですの。ここまでの経緯、全部見させてもらいました。とても興味深いものでしたの」


 エルラムはストレージからメダリオンを取り出した。


「差し上げますの」


「どういう事だ? 罠、なのか?」


「はぁ? 陳腐な発想ですね。ここでそんな事をして何の意味がありますの?」


 魔女セレーヌが言っていた。


 言葉は伏せられていたが、ウイックにはちゃんと理解できていた。ここは夢の中、心の迷宮。


 現実世界ではないので、ここでアイテムの授受はできない。


「後ほど、本物をお渡しいたしますの」


 話を進める為のアイテムをウイックに手渡し、エルラムは話を続ける。


「一つ、お願いがありますの」

「お願い?」


「ワタクシをお仲間に加えてくださいな」

「はぁ?」

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