第43話 そんな彼女の秘密の友達。
ドアがバタンと開いた。
一歌だ。
すごい形相だ。
「き、聞いた……?」
俺は頷いた。
一歌はへたり込んだ。
そして泣き出してしまった。
「そっか。わたし、今度こそ嫌われちゃった……」
俺は首を横に振った。
不思議と、嫌悪感は無かった。
自分の彼女が昔、女の子と付き合っていた。
今は終わった関係で、俺に操をたててくれている。
前彼が出てくるより、百万倍マシだ。
ヤキモチがゼロと言ったら嘘になるが、むしろ、どんな感じだったのか少し興味がある。
ちょっと聞いてみよう。
「んで、そういうこともしてたの?」
一歌は曖昧に首を振った。
これはクロだな。
「違うのっ。あのね。わたし、あの一件で、男の人怖くなっちゃって。そしたら、そんな時に優しくされて。女の子なら怖くないかなって……」
一歌は俺の手を握ってきた。
「でもね。最後まではしてないの。あのね。やっぱ無理ーって思って、逃げ出したの」
なるほど。
それで、バイト先で2人はよそよそしいのか。
謎がとけたぞ。
一歌は一生懸命、弁明をしている。
「でも、なかなか諦めてくれなくて。でもね。ちゃんと断ってるんだよ。蒼くんいるし」
それは聞いた。
ってことは、沙也加からされた3人で付き合おうという提案は、あながち現実味のない話でもないのか。
一歌はこっちを見てくる。
「嫌いにならないで……」
やっぱ一歌は可愛い。正直者だし。
最後までしてないのは本当っぽいし。
「大丈夫。終わったことでしょ? 嫌いにならないから」
まぁ、一応は元恋人の出現だ。ヤキモチを焼くべき立場にあったのは、むしろ俺の方だったということか。
「よかった……。それとね。たぶん、さーちゃん、蒼くんのこと、グイグイ口説いてくると思うけど、ちゃんと断って欲しい……」
「当たり前だよ」
俺の言葉を聞くと、一歌は笑顔になった。
甘えた声で言ってくる。
「わたしの気持ち。キスの反対だよ♡」
帰り道、一歌がマンションの入り口まで送ってくれた。ずっと腕にぶら下がっている。
「あのね、わたし。もう学校でも我慢するのやめた。いつもこうやってくっついていたいの。いい?」
「もちろん。でも、何か心境の変化?」
「だって、蒼くんはわたしのだし。いつもアピールしとかないと、どっかの泥棒ネコに取られちゃうし」
一歌はヤキモチを覚えて、さらに甘えん坊になった気がする。もちろん、イヤじゃない。
もっと甘えて欲しいくらいだ。
「ま、でも。学校がはじまるのはまだ先だし。ゆっくり慣らしていこう」
すると、一歌は首を傾げた。
「蒼くん。何言ってるの? わたしたち、来週から補習でしょ?」
は?
普通にバイトなんですけど。




