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目覚めたら記憶喪失でした  作者: じゅり
― 舞台の裏側で ―
40/43

40.二宮悠貴の憂鬱

【書籍発売記念SS:2】


15~16話で悠貴が見張りを頼んだ紺谷敬司から、晴子の様子を聞いているシーンとなります。

「今日のお昼、優華の様子、どうだった?」

「んー」


 生徒会が終わった後、僕は幼なじみの敬司の元へ行って優華、中身が晴子さんの様子を尋ねた。

 敬司は頭をがしがしと掻き上げる。


「優華さんって、あんな感じの子だったっけ? 何か少し雰囲気が変わったような」

「……どういう事かな」


 晴子さん、一体何をやったのか。だけど表面だけは笑みを浮かべて、心の内を上手く消してみせる。


「女の子が男に絡まれていたんだよ。それで、優華さんが中に入っていた」

「……優華が仲裁?」

「んー、いや、仲裁って言うかさー」


 少し口ごもりながら敬司は言う。


「優華さんの方が男を挑発したんだよな。結果、男に胸倉掴まれたんだ」

「はっ!?」


 今度は驚きを隠しきれず、感情が顔に出た。


「あ、いやいや、怪我とかそういうのは大丈夫だって。俺も咄嗟にまずいと思って出て行こうとしたら、彼女、その男をあっさり倒したから。しかし今時のご令嬢って護衛術も花嫁修業として習うものなのか?」

「さあ……どうだろうね」


 ここは苦笑いするしかない。晴子さん、できればあんまり派手に暴れ回らないでもらいたいな。


「ああ、それとさ。なぜか学園内のファーストフード店前で、膝をついて天に祈りを捧げていたぞ。そんなに腹減ってたのかな」

「はあっ!?」


 敬司がぎょっとした顔でこちらを見ているけど、それより晴子さんだ。晴子さん、一体何をしてくれちゃっているのかな!?

 ……ああ、何だか頭が痛い。しかし黙って晴子さんを尾行しているわけだから彼女に注意するわけにもいかず、なお頭が痛い。

 僕は一つため息を吐いた。


「それで、その後は?」

「悪い。女の子に捕まって、それ以降は分からない」

「……そう」


 敬司も自分の生活があるし、できる範囲でお願いしているだけだから仕方がないか。


「だけどお前さ、前から言おうと思っていたんだけど、これってストーカー行為じゃね?」

「酷いなぁ。言葉に気をつけてくれる? 僕は優華を見守っているだけだよ?」

「まあ、お前が留学中の時なら分からなくもなかったけど、何でまた今になって?」


 それは優華の精神が優華じゃなくなったからだけど。しかし敬司とは言えども、そこまで話すわけにはいかない。とりあえず適当な理由をつけてみる。


「何か悩んでいるみたいだから心配で」

「ふーん。そんなに彼女の一挙一動が気になるなら、部屋に盗聴器でも仕掛けてみれば? 彼女の様子が少しでも探れるんじゃないか? 何なら用意してやるけど」

「僕のことを一体何だと思っているわけ? そんな変態行為、するはずないから」


 肩をすくめてみせると、敬司はため息を吐く。


「十分しているって。お前みたいなのが、一歩道を間違えるとヤンデレって奴になるんだろうな」

「失礼だね。僕は優華を愛しているだけだよ」

「その愛が重すぎるって言ってんだよ……」

「僕のことはともかく、敬司こそ、自分の心配をしたら?」

「何が?」


 何の事だかさっぱりだと眉をひそめる敬司。

 婚約者がいる身で毎日違った女性を侍らせているというのに、全く自覚が無いとは罪深い男だ。


「毎日毎日、女性を取っ替え引っ替え、その内女性に足をすくわれるんじゃない」

「ああ、その事。まさか。上手くやっているよ」


 とてもそんな風には思えないけどね。


「どうせ俺の人生、レールが引かれているからな。学生時代ぐらい好き勝手してもいいだろ?」


 婚約者を蔑ろにしてまでする行為ではないとは思う。けれどこれまでなら、そうだねと軽く流していただろう。ただ、あのいかにも直情的な晴子さんが聞いたら激怒しそうなセリフだと考えると、今は容易く頷くこともできない。そしてそんな自分が少しおかしく感じる。


「はぁ。それにしてもこんな事、バレたらタダでは済まないだろうな」


 晴子さんにバレた時の事を考えると思わず苦笑いしてしまう。きっと拳骨の一つでも飛んでくるだろう。


「へ? 大丈夫だって。彼女も公認だから。俺の事を理解してくれているから何にも言わないで、ただ微笑んでいるよ。懐が大きいんだ」

「え? ああ、違う。こっちの話。まあ、でも確かに君の婚約者は気の毒だとは思うけどね」


 ため息を吐いていると、敬司が目を丸くした。


「何かお前まで、ちょっと変わってない? 優華さん以外、他人の事なんてまるで興味がなかったくせに」

「え? 何それ。冗談でも止めてくれる?」

「だってお前にしては珍しく、さっきから百面相してんじゃん」

「……そんなことないよ?」


 にっこり笑みを浮かべて見せた。


「その胡散臭い笑顔を俺に向けるのは止めてくれ……」

「失礼だね。君は勝手に婚約者に殴られでもしておくといいよ」


 その言葉がブーメランとなって自分に戻って来る事になるのはもう間もなくだった……。


(終)

『目覚めたら記憶喪失でした』改め

『目覚めたら悪役令嬢でした!? ~平凡だけど見せてやります大人力~』

完結編、2巻発売記念の小話です。

※アリアンローズ様公式サイトの書影は近日公開です。

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