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【朝晩2話毎日更新】 勇者たちの功罪 【ハッピーエンド】  作者: Sin Guilty
第四章

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第036話 『賢者カイン』③

「一応そういう魔法も構築はできるはできるんだよ。ただ構築術式が大規模すぎて、たぶんやったら俺は即死する」


 実際「俺の視界を他人に共有できる魔法」の構築術式を展開してみたが、なんか王都上空一帯を覆い隠すほどの規模になったのでさっさと諦めた。


 ちなみにこれは「俺の視界を他者に共有させる」という条件だったせいでそうなったが、ただ単なる視界共有だけだったらごく単純だった。カインがあっさり再構築したその魔法では、当然俺の能力が俺に見せるものは一切共有できなかったのだ。


 つまり今のカインは、他人の視界を盗むだけなら簡単にできるようになっている。


 当然のことながら構築術式の規模に応じて、必要となる寿命は多くなる。


 能力に目覚めたばかりの幼い頃にいろいろと無理をした俺の経験から言えば、あれは2人分の寿命を持っている俺でもまず間違いなく即死する規模だった。

 ちなみに俺の見立てでは『禁呪』で一発常人換算3ヶ月分、『古代魔法』なら一発常人換算1年分ほどは寿命を持っていかれるだろうと予想している。


 発動前に技や魔法の構築術式が見えるというのは、俺が望むことを実際に実現させるまでどれくらい寿命が持っていかれるかはわからないので、せめてものその代替といったところだろう。


 ――これだけの規模なんや、年単位で持っていかれる覚悟はあるんやろなワレ? ってな感じだ。


「絶対にダメだからな?」


「やらないよ。カインが俺の視界を共有できるようになっても、俺が死んでいたら意味なんかないだろ?」


 らしくもなく心配そうな顔すんな。


 本人が即死するっつってんのに、それでもやりかねないと疑われるってのは、さすがにどうかと思うぞ。もしもそうすりゃすべてが解決するとしても、流石に魔王討伐のために命まで捧げようとは思っちゃいないよ。


「確かにそれはそうだな。だが本当に不甲斐ない限りだ。天才などと持てはやされたところで、クナドの言ってくれていることをきちんと理解できない程度でしかないとはな」


「いやあのな……」


 本気で落ち込んでいるのはわかるけどなカイン。

 お前相手じゃなかったら「嫌味か!」つって胸倉掴んでがくがくさせてるとこやぞ。


 よしんばカインが古代語すら解析する天才言語学者並みの読解・分析能力を有していたと仮定しても、そもそも俺が視覚情報を言語字情報へ落とし込む際に致命的な錯誤エラーを山ほど仕込んでしまっていたらどうにもならんだろうが。


 完全に翻訳できたとしても、原文が間違っていては正解にたどり着けるはずがない。

 つまり俺の時点で詰んでいるのだ、絶対にカインのせいなんかじゃない。


「なあ、カインと俺の意見は一致しているよな?」


「ああ。確かにそれはそうなのだが……」


 居住まいを正して切なげに目を伏せんな、うっかり見惚れただろうが。

 

 禁呪と古代魔法の再構築――賢者カインが手持ち魔法として使えるように復活させることは、魔王討伐における必要最低条件。今では勇者や剣聖、初めから聖女がとんでもない力を有していることを勘案しても、そこは俺もカインも揺らがない。


 それができなければ負けると判断している。


「じゃあもう肚を括らないか? すべての禁呪と古代魔法を再構築できたとしても実戦訓練は絶対に必要だし、夏季休暇前の今がぎりぎりの限界線デッドラインだと俺は思う。違うか?」


「……違わないな」


 悔しそうな表情を浮かべてカインが俺の言葉を首肯する。

 本当は自信家のこいつがこういう表情をするのは本当に珍しい。


 だが禁呪や古代魔法のような強力な魔法であればあるほど、それを適正に運用するためには慣れがいる。アドルの『パス魔法』との連携も含めて、ぶっちゃけ本番でぶっ放していい代物ではないことなど、カインの方がより深く理解しているのだ。


 それにかつてクリスティアナ殿下がそう思っていたのと同じく、自分が綻びとなって勇者パーティーが壊滅することなど、カインにも耐えられないだろう。


 パーティーでは常に、お互いがお互いの命を背負いあう。


 単独ソロよりも各々の能力による相乗効果シナジーによって、より安全に、より効率的に、より強い魔物モンスターを倒せるというのはその通りだと思う。だけどその相乗効果を発揮するために最低限必要な信頼関係を築くのは、そんなに簡単なことではないだろう。

 

 なによりもパーティーが十全に機能することを前提にした強さの魔物と対峙するのだ。

 ちょっとしたミスくらいであれば互いにフォローしあうこともできようが、深刻なやらかしをした場合、自分だけが自業を自得して死ぬだけでは済まない。


 絶対に仲間を道連れにしてしまう。


 俺はそれが怖すぎて、とてもではないがパーティーなど組めそうもない。

 いざとなったら俺一人の力で何とでもできるという前提があっても腰が引けるのだ、世の冒険者たちは凄いと素直に尊敬している。


 アドルたちもパーティーでなければ魔王を倒せないから組むしかないだけで、できることなら自分単独で魔王討伐をできたらと思っているのかもしれない。だがすべての人々から期待されている以上、そんなできもしない甘っちょろいことを口にできるわけもないだろう。


 だからこそ俺は俺にできることであれば、こいつらのためにやろうと思えるのだ。


「誓って俺は嘘を言ってない。禁呪5種、古代魔法5種をすべて発動させても持っていかれるのは多めに見積もっても10年を超えることはない。俺の寿命は本当にまだ100年以上あるから、平和になった世界で冒険者をしながらでも爺さんになるまで生きるのに十分残っている」


 一部は嘘である。


 だが最後の部分だけは誓って嘘ではなく、たとえここである程度の無茶をしても、俺が冒険者として能力を小出ししながら爺さん――この世界での平均寿命である60歳を遥かに超えられるだけの寿命は残っている。


 伊達に食い物にも運動にも睡眠にも気を遣い、極力規則正しい生活を維持しながら、可能な限りストレスを得ないようにお気楽に生きているわけではないのだ。可視化できるようになって思い知ったのだが、寿命って生活習慣しだいでめちゃくちゃ変動するのである。


 なおおそらく事故や病気――戦闘での死亡などには寿命がどれだけ残っていても関係ないだろうと俺は思っている。生活習慣程度で増減するのだ、致命傷でも受ければその瞬間に激減するのだと思う。


 これは別に、なにがあっても寿命が尽きるまでは死なないという能力ではないのだ。


「そんな俺の10年と世界の平和、比べるまでもないだろ?」


 普通の人間の寿命に換算すれば10年相当なのでこれも嘘ではない。


『賢者カイン』③

12/13 18:00台に投稿予定です。


新作の投稿を開始しました。

2月上旬まで毎日投稿予定です。


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