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【朝晩2話毎日更新】 勇者たちの功罪 【ハッピーエンド】  作者: Sin Guilty
第四章

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第034話 『賢者カイン』①

 また少し時を進める。


 アルメリア暦1991年、夏待月(初夏)7の日。


 剣聖王女クリスティアナが神遺物級武装アーティファクト・ウェポンを王城の宝物庫から引っ張り出し、賢者カインがクナドに与えられたヒントから禁呪のひとつ、『短距離転移テレポート』魔法の再構築に成功した日からおよそ一年半が経過している。


 クナドたちは最上級生(3年生)となり、王立学院生活での最後の夏を控えた昼下がり。

 夏季長期休暇を迎える直前。


 第一学期の定期考査(期末テスト)はすでに終わっているので2年生以下はみな浮ついているのだが、3年生だけは例外である。王立学院に入学できる優秀な能力を持っているとはいえ、いや持っているからこそ、卒業後の進路をそろそろ固めなければならない時期に差し掛かっているからだ。


 こればかりは冒険者育成学部であってもなにも変わらない。


 学部生のほとんどが、卒業と同時に冒険者としてデビューすることは確定している。

 だが成績優秀な者は既存のパーティーや一党クランから勧誘されたり、逆に自分から売り込んだりもしているのだ。


 中間層は中間層で出来るだけ優秀な同級生同士、あるいは気の合う仲間同士でパーティー登録を先行して行う時期でもある。ほとんどに含まれない極少数の冒険者として生きていくのが難しいと判断した者は、この時期から貴族の私設軍や大商会の用心棒稼業などを模索し始める。


 それは商学部や外交部、工学部、その他学問に特化した他の学部学科であってもみな似たようなものである。例外として卒業後の忙しさは他を凌駕するものの、就職先を探す必要だけはない貴族学部のみがのんびりしている。


 なお別に貴族学部は貴族特権を練って固めたような学部という訳ではなく、ただ単純に貴族として覚えなければならないことに特化した学部というだけで、通常は公候伯子男(五爵)で言えば最高位でも子爵家の子女しか通っていない。伯爵以上の貴族は財力にあかせて優秀な家庭教師をつけることが一般的であり、王立学院を卒業させることにさほどこだわってはいないのだ。


 だが例外的に現在の一年生から三年生までは、年齢の合致しているほとんどの貴族の子女が入学している。まあ王立学院で第一王女と学友になれる可能性があった以上、通わせないという選択肢はあり得なかったのだろう。その上勇者、賢者、聖女も通っているのだ、この世代のみ貴族学部が通常に倍する人数となっていても別に不思議ではない。


 また王族であるクリスティアナがまさかの冒険者育成学部な上に誰にでも分け隔てなく学友として振舞うため、貴族学部が他を見下すような事態にはならなかった。


 まあまともな頭がついている貴族であれば、孤児院出身の勇者が近いうちに自分たちの王となることなど十分理解している。将来主君となる者からわざわざ不興を買うために、通いたくもない王立学院に入学したわけではないことくらいは弁えているだけなのだ。


 そんな中、卒業と同時に魔王討伐の旅に出ることが確定している勇者パーティーの面々が、暇を持て余しているかといえばそんなことはなかった。


 勇者アドルは剣聖王女クリティアナとともに実戦訓練に明け暮れている。


 もはやクナドではついていけなくなった2人の実戦訓練は、今や冒険者ギルドが2人専用の高難易度の魔物支配領域テリトリー迷宮ダンジョンを用意するほどまでになっている。

 訓練とはいいながらやっていることは実戦そのものであり、結果としてアルメリア中央王国内で禁忌とされていた魔物支配領域や迷宮のほとんどはすでに解放され、疑似的な平和が訪れているほどなのだ。


 2人にとってはあくまでも訓練とはいえ、実際に魔物モンスターを敵として背中を預けあう中で急速に恋人同士らしくなっていくのを、クナドは日々生暖かい目で見守っている。

 

 この時期の聖女スフィアはらしくもなくいろいろと一生懸命なのだが、それは魔王討伐を最終目的とする勇者パーティーとしてのものとは全く関係ないので、ここでは置く。


 では賢者カインは何をしているかといえば、今日も今日とて禁呪と古代魔法を再構築するべく、王立学院の魔導研究棟に籠っている。それにはアドルとクリスティアナはもう放っておいても勝手に成長すると判断しているクナドも協力していた。


 賢者と呼ばれるだけあって、カインは日常の授業や定期考査など満点以外とったことはない。実技は適当に魔法をぶっ放せば教師陣すら足元にも及ばないので、実質免除で最高評価となっている。


 ただクナドから一年生の春に「王立学院に入学したからには学生らしく過ごそうぜ」と誘われて以降、授業も行事も一度もさぼらずに真面目に出席することを続けている。


 そのため魔導研究棟に籠れるのは、放課後と休日だけとなっている。

 だけとはいうもののかなりの時間は確保できており、特に週末の休日などは2人して徹夜することも珍しくないほどだ。


 だがカインほどの天才がクナドの助けを受けながら一年以上をかけても、『短距離転移テレポート』以外は禁呪、古代魔法ともにまだ一つも再構築に成功していない。


 つまり傍から見ていてもわかりやすく、これ以上ないくらいに煮詰まっているのだ。

 

 カイン本人はもとより、クナドも魔王討伐にはすべての魔法――つまりは禁呪も古代魔法も絶対に必要だと判断している。


 先代勇者の救世譚を紐解くまでもなく、広域殲滅系と一点極大破壊魔法、あるいはその双方を使い分けられる五大属性および、光と闇の二極属性がなければおそらく魔王には勝てない。


 それどころか地上の魔物支配領域や迷宮であればともかく『魔大陸』――空に浮かぶ、地上とは比べ物にならない高濃度の外在魔力が満ちている魔王の本拠地――では、勇者と剣聖、聖女が揃っていてさえ力で押し切られる可能性も否定できない。


 つまりは最大の攻撃役である賢者が機能できなければ、魔物の数と圧倒的な外在魔力量によって擦り潰されてしまいかねないのだ。


 よって禁呪と古代魔法の再構築は必須。

 だがそのために残された時間は、すでに一年を切っている。


 王立学院の卒業と同時に、勇者パーティーは魔王討伐に旅立つことが決まっているからだ。アルメリア中央王国は例外とはいえ、世界は魔大陸からの侵攻にもう耐えきれなくなりつつある。どうにか卒業まで持たせることが限界だろう。


 つまり、カインとクナドはとある決断しなければならないところまで追いつめられているのだ。


 勇者パーティーが魔王に勝てなければ、遠からず汎人類連盟は崩壊し、人の世界が滅ぶことからは逃れられなくなる。


 となればクナドは躊躇ためらったりはしない。

 だがカインはそれをさせたくないからこそ、天才と持てはやされる自分の能力を一年半にもわたって全力でぶん回してきたのだ。


 だが決断しなければならない瞬間は、慈悲なくやってくる。


『賢者カイン』②

12/12 16:00台に投稿予定です。


新作の投稿を開始しました。

2月上旬まで毎日投稿予定です。


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