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【朝晩2話毎日更新】 勇者たちの功罪 【ハッピーエンド】  作者: Sin Guilty
第三章

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第033話 『剣聖クリスティアナ』⑩

 こんなもので斬りかかられては、それこそ小型魔物から大型魔物まで、たとえドラゴンであっても一刀両断されるしかないだろう。魔物に限らす城だの砦だの城塞都市だの、人が築き上げたものでも、その一切合切が断ち割られる。


 それこそ攻防に隙のない、もう剣聖1人でいいんじゃないかな? 


 状態である。


「もう一つは『鏡剣』――これもものすごく魔力を消費するみたいですけど、単体ではなにも起こらないですね?」


 だが大剣のほうも大盾と同じく、二つ目の固定能力は発動するだけではだめらしい。『照準固定』と同じように発動すれば膨大な魔力を消費するにもかかわらず、『月穿光剣』とは違い刀身の周囲が陽炎のように揺らぐだけで何も起きないのだ。


「それと『敵意固定』を並行発動、『敵意固定』の発動点を大剣に指定してください。アドルは『轟雷』の発動を頼む」


 だがクナドはこちらにもあてがあるらしく、具体的な指示を即座に飛ばしている。


「承知しました!」


 クリスティアナが言われたとおりにすると紅光が刀身の陽炎と混ざり合い、紅色をした幻の刀身の如く変化した。だがそれだけで、特に何が起こるわけでもない。


「クナド、本気?」


 クナドの指示に即応したクリスティアナとは対照的に、アドルは躊躇していた。


 それも無理はない、『轟雷』は現時点のアドルが使える勇者専用魔法の最上位であり、無数の雷撃が広範囲に降り注ぐという、禁呪や古代魔法もかくやという広域殲滅用魔法なのである。


 許可なく発動すれば教師陣はすっ飛んでくるだろうし、クリスティアナであれば雷撃の一つ一つは余裕で耐えられるとは言え、本来は鍛錬で味方を巻き込む位置で撃っていい魔法ではないのだ。


「本気。範囲指定は屋外修練場全域。クリスティアナ殿下、大丈夫ですよね?」


「普通の『轟雷』の単発一桁なら『剛体』で耐えられます。さっき発動しました『自律障壁展開』もまだ残っているので耐久度を試すのにもちょうどいいと思います。さすがに『かさね』だとちょっと無理だと思います」


 だがクナドは平然としたものだし、クリスティアナは緊張しながらも耐える自信はあるようだ。確かに実験にもちょうどよく、発動後は術者も含めて無作為に降り注ぐ雷撃に合わせて、アドルとクナドに半分ずつ展開させてくれている。


 自分は『剣聖』の防御技で凌げる自信があるのだろう。


「クリスティアナ殿下に撃ちませんって、いくらなんでも『累』なんて」


 そんなクリスティアナでも無理と判断していた『累』とは、『轟雷』発動後に『針弾』を放ち、それを当てた場所に『轟雷』のすべてを集中させる複合魔法である。

 広域殲滅魔法である『轟雷』を一点集中させるその破壊力は桁違いであり、今のアドルの切り札といっても過言ではない。


 間違ってもそんなものをクリスティアナに向けるつもりはないとアドルがぶすくれている。クナドが言えばやりかねない、とクリスティアナに思われていることに遺憾の意を表明しているのだ。


「いやアドル、俺の想定通りだったら、現状最大の勇者魔法もこの装備をした剣聖には通用しなくなってるぞ」


 だがその『累』でも通用しないだろうとクナドは笑う。

 

「嘘でしょ⁉」


「まあ撃ってみろって、ただし普通の『轟雷』な。おそらく勝手に『累』みたいになるはずだけど」


 初めて撃った時に屋外鍛錬場の地面を相当深く抉った『累』の威力を知っているだけに俄かには信じられないアドルだが、どうやらクナドはこの後の展開を予測できているらしい。


 こういう時のクナドはまずその予想を外さない。だからこそすでに単純な戦闘能力では凌駕できたと確信できる今でも、本気でクナドにはかなわないと思うのだ。


 なのでもう考えるのをやめて、アドルは『轟雷』を発動させた。


 当然屋外鍛錬場全域をその範囲とした以上、相当運が悪くても人間一人に二桁以上が落ちることはまずない。


 あっという間に上空に分厚い雷雲が現れ、内包した膨大なエネルギーを無数の雷撃と成して地上へ無作為に炸裂させる。だがそれらは先刻の魔導弾と同じように、あっという間にひとつ残らずクリスティアナの右手に掲げられた大剣に吸い込まれた。


 完全に無効化されたのだ。


 だがそれだけにとどまらない。

 吸収された雷撃によって巨大な刀身が形成されてゆくのだ。


 『月穿光剣』は純粋な魔力による刀身形成。

 『鏡剣』は『照準固定』との連携で吸収した攻撃そのものを刀身と成す。


「クリスティアナ殿下、空に向かってぶっ放してください!」


 振り下ろせば王立学院を両断しそうなほどに巨大化した刀身を掲げたまま呆然としてしまっているクリスティアナに、クナドが大声で叫ぶ。

 そうしないと雷撃そのものの巨大刀身から発される音に紛れて声が届かないのだ。


 クナドの声にハッとしたクリスティアナは一瞬腰を落とし、そのまま真上に向かって突きを放った。それに伴い雷撃の形成された刀身がまだ消え残る低い位置にある雷雲を貫き、そのまま上空にある曇天をも貫いた。


 そこから四方八方に『轟雷』が持つ破壊力をぶちまけ、王都上空を覆っていた厚い雲すべてを吹き飛ばし、一瞬で曇天から冬の快晴に変えてしまった。


 撃ち放った本人であるクリスティアナも、特性上天から地を穿つしかない『轟雷』を空に向かって撃ち返された形のアドルも呆然とするしかない。


「まさに攻防一体だな。技名通り鏡返しできる技や魔法の検証を進めることが急務になる。となればカインがいてくれると助かるんだが……」


 予想通りとはいえそのあまりにも派手な一連の展開に、クナドも苦笑いを浮かべるしかない。とはいえ矛盾の故事成語をそのまま形にしたようなクリスティアナの新装備は、国宝――神遺物級武装の名に恥じないとんでもなさである。


 クナドとしては双方の能力を丸裸にするために、全属性、あらゆる魔法を使える賢者カインがこの場にいてくれたらと思うことも当然だろう。


 ――だけどあいつ、新学期まで帰ってこないって言っていたよな……


 クナドはその理由もわかっている。


 夏休みにいろいろあってクナドがヒントを与えた『短距離転移』魔法の研究にカインは二学期を通して夢中になっており、一級品が揃っているとはいえ魔法使いたちの総本山である『魔導塔』には遠く及ばないことに不満を積もらせていたのだ。


 ――再現に成功でもしない限り、帰ってくるわけないよなあ……


 クナドがそう嘆息した瞬間、いきなり晴天になった王立学院上空、ついさっきまでアドルが召喚した雷雲が存在しており、クリスティアナがそれを消し飛ばした位置に、球形立体魔法陣が展開された。


 はじめは小さかったそれは幾重にも重なりながら巨大化していく。


 さすがに口を挙げて見上げるしかできないクナドが「お前ら?」という視線を向けると、アドルもクリスティアナも無言でぶんぶんと首を横に振っている。


 つまり――


「できた! できたぞクナド!」


 かなりの大きさになった多重球形立体魔法陣が澄んだ音と共に砕け散ると同時に、その中心に忽然と賢者カインが現れてそう叫んだ。


 当たり前のように希少魔法――使い手が1人もいない期間があることも珍しくない『浮遊』魔法を発動させ、他人の固有魔力波形を可視化して掌握できるがゆえに最初の実験目標地点をクナドのいるところにしたカインが、空から興奮状態で降りてきている。


「カイン?」


「カイン様?」


 アドルとクリスティアナはついさっき自分たちがやったとんでもない実証実験など頭から飛んでしまい、神代の魔法、禁呪の一種と言われている『転移』を成功させたらしいカインの無邪気な姿を、愕然として見上げることしかできない。


 短距離とはいえ魔導塔と王立学院を一瞬で移動できるとなれば、魔法戦闘の常識がひっくり返ってしまうのでそれも無理はない。


「なあ勇者様。今のところ勇者パーティー候補全員が勇者様を凌駕しているのをどう思う?」


「……僕はもう魔力供給役でいいかなって」


 今度こそ本気で呆れているクナドとアドルは、そういってシニカルな笑みを浮かべあって肩を竦めた。


 まだ一年生にも拘らず、すでに勇者パーティーは戦略級の戦力を得つつある。

 その根幹にあるのはアドルの無限の魔力と絆魔法であることは間違いない。


 ただ内心でクナドは、改めて魔王という存在に戦慄を覚えていた。

 あるいは先代勇者の救世譚、魔王討伐の物語は誇張などされていないのではないかと思ったのだ。


 先代勇者が途中で聖剣に持ち替えた大剣と大盾ですら、ここまでとんでもない力を有しているのだ。

 それを超える『聖剣』に比肩する勇者パーティーの最終装備に身を固め、何年にも及ぶ実戦の積み重ねを経た勇者パーティーが死力を尽くしてどうにか討てたのが魔王なのだ。


 今この瞬間、嘘偽りなくとんでもないと思える戦力ですらまだ遠く及ばないという事実は、クナドの肚の底を冷たくさせるのに十分過ぎた。


 今代でも魔王を討伐するためには、今のままでは足りない。


 アドルが振るう『勇者の聖剣』の力を13すべて開放することはもちろん、賢者カインが求めてやまない現代では失われてしまったすべての禁呪と古代魔法。


 かつて初代勇者の仲間であった賢者が駆使していたそれらを復活させる。

 今そのうちの一つに成功した賢者にできる限りの協力をしてでも、である。


 ――これはまだ2年もあるとか、のんびりしている場合じゃないな……


 クナドは『転移』の再構築に成功して興奮冷めやらぬカインを研究棟へ引きずっていき、この日、自分ができる協力はすべてするとカインに告げたのである。


 結果、この後2年のうちに先代勇者の次代にさえ逸失魔法とされていたすべての禁呪、古代魔法が再構築されるという偉業がなされることになる。


 賢者カインの天才性とすべての魔法構築術式を可視化する『魔眼』、それとクナドの力が組み合わさることによって。


『賢者カイン』①

12/12 8:00台に投稿予定です。


新作の投稿を開始しました。

2月上旬まで毎日投稿予定です。


よろしくお願いいたします。


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