第027話 『剣聖クリスティアナ』④
それにしたってだ。
「ただでさえ俺たちは三角関係だの四角関係だの、果ては五角関係だの好き放題言われているからな。どんな爛れた関係だよって話だよ」
所謂有名人税は、その手の話題提供で支払っているとは思うんだけどな。
「ホントにね」
しかしまあ街談巷説、流言飛語というのはまことに度し難いものである。
もはや肩を竦めることしかできない下世話な話は、こちらから知ろうとしなくてもいくらでも耳に入ってくる状況だ。
不敬罪ってのが生まれる理由が、この立場に身を置いてみて初めて理解できたよ。
それについてはアドルもクリスティアナ殿下も、もはや苦笑するしかないだろう。
まあアドルとクリスティアナ様の交際は公表されており、スフィアが俺を『愛しい人』と呼んで憚らないのは事実だ。
その4人に実は一番美形で、女装をさせれば一番美少女に見えかねないカインも含めて常に5人で一緒にいるのだ、思春期真っ盛りの学生たちがあれやこれやと想像を広げたくなるのは理解できなくもない。
ないのだが、さすがにあまりにも……なんというかもう少し手加減というか……
俺やアドルはともかく、クリスティアナ殿下関連はほんまに不敬やぞ。大体俺は凌辱系やNTRは苦手なんだよ! かわいそうなのは以下略!
ええい、あの腹黒さえ口を慎んでくれてさえいれば、俺だけは蚊帳の外に居られた可能性が高いのに。
……いやあかんか。より一層下種な役を振られるだけか。
俺が適役やもんな、高貴な方々を毒牙にかける凡俗ポジション。
「私はカイン様が不憫で……」
いや、そう仰るクリスティアナ殿下も大概な扱いですよ、噂話の中では。女性陣には男連中のどぎつい噂、というよりももはや妄想は伝わり難いのでしょうけど。
「……しかしなんでカインは俺ら側じゃなくて、そっち側扱いなんでしょうね?」
とはいえ確かにクリスティアナ殿下が憂い顔を浮かべられるとおり、一番不名誉な噂話に晒されているのは魔法狂いの賢者様である事は俺も否定できない。
いくらカインが美少女と言っても通用するほどの美形だとはいえ、クリスティアナ殿下やスフィアとではなく、なぜかアドルや俺とのカップリングを前提で語られることになるのか、正直なところ俺には理解できない。
俺としてはアドルとクリスティアナ殿下は当然として、魔法狂いと腹黒で噂になるのであればまだわかるのだ。黙って立ってさえいれば、本当に様になる2人だからな。
「なんでってクナド、それは……」
「アドル様、それ以上はいけません!」
だが意外なことにアドルにもクリスティアナ様にも、思い当たる節があるらしい。
あれかな? 女性にはなぜか男同士の恋愛を好む方々もおられるという話かな。
まさかこっちにもいるのか? 向こうで言う腐女子とかそういう方々。
マジか。
◇◆◇◆◇
師匠――クナド様は規格外の存在過ぎます。
入学前後こそ勇者であるアドル様に対してどうしてあそこまで偉そうにできるのだろうと秘かに憤ったりもしていましたが、親しくなってお話を聞けばそれも当然だとしか思えなくなりました。
アドル様にとっては正しく師匠であり、クナド様が偉そうというよりも、一方的にアドル様が遜っているというのがより正確でしょう。
アドル様という勇者を生み出してくれたのがクナド様なのだとしたら、近い将来その勇者様によって魔王の恐怖から解放される者は皆、クナド様にも感謝するべきだと私は思います。もちろん私自身も含めて。
いえ、孤児院出身であんなとんでもない能力を身に付けながら、人間社会の敵№1――魔王を超える魔王になることを踏み止まってくれているだけでも、私たちは心から感謝するべきなのでしょう。
それほどまでに、クナド様のおられた孤児院は酷いところでしたから。
クナド様が踏み止まってくださった理由にアドル様とアドル様の妹君であるクレア様の存在が大きくか関わっていることは間違いなく、それゆえにこそ私たちは勇者――アドル様をこの上なく慎重に扱わなければなりません。
世界の平和のためだと嘯いて魔王討伐に勇者様を使い潰すような真似をした場合、クナド様は王家、聖教会、魔導塔――汎人類連盟を躊躇なく敵だと見做すでしょう。つまり私たち勇者パーティーは、勝つのであれば犠牲なく、負ける場合でもクナド様が「仕方なかった」と思える負け方でなければなりません。
でなければクナド様のお力は、間違いなく汎人類連盟に向けられることになります。
そうなれば最悪の場合は人類滅亡、最良でも勇者を遣い潰した支配階級にある者たちは鏖にされるでしょう。以前の私であれば、後者ならば別に構わないと思っていたのでしょうが、今ではもう違いますし。
クナド様の御力。
それは自身の寿命と引き換えに、あらゆる願いを叶えられる神威。
それは俄かには信じられない神の如き能力であり、だからこそ本来であれば厳重に秘匿すべきものです。アルメリア中央王国の第一王女という身分にある私が相手であっても、いやだからこそ長い時間をかけて信頼関係を築けた上で、やっと教えてもいい候補になれるくらいに。
そうでなければ、なんの後ろ盾も持たないクナド様は好き勝手に利用されてしまうと思ってしまうのも当然だと思います。今にして思えば、クナド様の御力を正しく理解できていないが故の、上から目線の愚かな杞憂に過ぎなかった訳ですが。
ただそんな大切な情報をクナド様は私が王立学院に入学した直後、不躾にもお2人の訓練に押し掛けた、その夜のうちに明かしてくださいました。理由は至ってシンプル、私が『剣聖』としてアドル様のパーティーの一員となることが決まっていたからです。
――アドルを支えてくれる人と知り合いになった以上、その相手に隠し事なんかしないよ。
そう仰って笑ったクナド様と、それを聞いて嬉しそうにしていたアドル様のお姿は、物心ついた時から大国の第一王女として、しかしお母様が正妃ではないということを弁えて生きてきた私の目には、とても眩しく見えたものです。
第一王女などとどれだけ持て囃されてはいても、砂上の楼閣よりも脆いのが自分の立場。それでもお母様に守られてきた私は、その私が守るべき者(妹)を得てより慎重になった自覚があります。
だからこそご先祖様――初代勇者様の力を使えるようになった時にはとても嬉しかった。この力がある限り、最低限お母様と妹の立場を護ることができると思ったから。
今代の勇者様が発見されたと聞いても、残念に思うどころか安堵さえ覚えました。
私が勇者として剣聖様、賢者様、聖女様を導くより、それを誰かが担ってくれて、私は『剣聖』としてその誰かを支える方がずっと責任が軽いとわかっていたからです。
『剣聖クリスティアナ』⑤
12/9 7:00台に投稿予定です。
新作の投稿を開始しました。
2月上旬まで毎日投稿予定です。
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