(七ツ樹七香 作)
※本作は作者ページでも加筆して公開予定です。
わたし、料理のことはあまりよくわからないから、もう想像でやるしかないのよ。
だってわたしのご飯だって、どうやって作られてるか知らないんだもの。
だから、ちょっと知恵を絞ることにしたわ。
この四角い世界でも見つけられそうな、美味しいものをあげようと思うの。
ちゃんと細かくして、あなたが食べやすいようにしてあげる。
やさしいでしょう? 御礼はいいのよ。
いままでそこそこお世話になったと思うから。
まず、あなたのお気に入りのガラスの器があったでしょ?
シャボン玉みたいな色をした、ふちがフリルみたいなあの器。
食事会にはきれいなものが要るわ。あれを使いましょう。
昔ここであったお誕生日会みたいに、ステキな食卓になると思うの。
ほら、あなたが、おかあさんからもらったって、自慢してたヤツ。
いつもあの味のない細長いひもをいっぱいにいれて、ずるずるすすってたヤツよ。
アレ、たまにもらってお義理で食べたけど。
わたしはあの味のないひも、そんなに好きじゃなかったわ。
とってもつめたくて、暑いときにはのどが気持ちいい気がしたけどね。
だから、もっといいものを入れましょう。
話がずれたけど、それに何を盛り付けるのかっていう話をするわ。
わたしが思うところだと、あの空できらきらしてあったかくて気持ちいいやつは素晴らしいものだと思うの。
あかりにもなるし、おふとんにもなるし、夏に庭の木が茂ってる時なんて、ちらちらするこもれびに、すばらしくワクワクだってするんだもの。
”おてんとうさま”ね、知ってるわ。
あなたもよく言ってたじゃない。「いきかえるー」って。
まったくその通りよね。
あったかくて気持ちがよくて、その上おもしろいなんて最高よ。
ずっと失敗し続けてあきらめちゃってたけど、こんどこそあれを捕まえて、こま切れにして、ハチミツをかけて出してあげる。
あのひもみたいに、つめたい水にひたした方がいい?
さっぱりするかもしれないから。おいしいわよ、まちがいないわ。
ハチミツを知っているわけ?
わたしがちょっとお口を悪くした時に、くれたでしょう。”コーナイエン”と言ってたはずよ。
寝てる間に鼻の上に何かベタベタしたものがペトッとついてるんだもの、何をされたのかと思った。
あわてて舐めとったけど、でもね、今も思い返すの。
甘くてとってもステキだったから!
もっと欲しかったのに、どこかにしまったまま知らんぷりしてるから腹が立ってね。
少しだけおうちを散らかしちゃったこともあったわね。
あの日のことは忘れてちょうだい。ちょっとだけ悪かったなと思ってるの。
ねえ、わたしのカリカリも分けてあげるし、あなたが器にたっぷり盛り付けるあの白いご飯というやつにも、ネチネチしたわたしお気に入りの缶詰をかけてもいいのよ。
おサカナ味のクッキーだって、今度貰ったらあなたに全部あげるわ。
あのとろっとした目もくらむ美味しいものは、わたしのものだけど。
もうそれだけあげればいいでしょう?
絶対にうれしくなるはずよ。
わたしとあなたの、ちょっと特別なお食事会。
あとは、机に並べて「いただきます」ってしましょ、そうしましょ。
あなたに寄り添って眠るのが、とっても好きだった。
あの日だって、早く一緒にご飯を食べようって言ったのに。
起きなくって、おかしいなあと思って、おうちの人を呼びに行ったら、あなたはどこかに連れていかれちゃって、戻ってきた時には箱の中だった。
もう寝るのも飽きたでしょう?
あなたがごはん用意しないんなら、わたしが準備してあげるから。
わたし特製のおいしいものを食べたら、飛び跳ねちゃうわよ。
おてんとうさま、すぐに捕まえてくるから。
ねえ、一緒に……。
ご飯を食べましょう?
——ニャーオ。
2019/03/24 作者本人ページでも同作品を公開予定のため、注を追記




