第三キヨミズ・コロニーとの通商関係樹立使節の音声記録より抜粋 (小日向 清次郎 作)
ようこそいらっしゃいました! 私が当コロニーにて代表を務めるオウチでございます。貴コロニーのような大規模コロニーとの間に正式な通商関係が樹立できることは、小規模で他のコロニー群ともやや離れ、外交に苦慮している中ではまさに大ニュースでありまして。住民もみな喜んでおります。
当コロニーは小規模ではございますが、星系連合との交信途絶の期間が長かったため一通りの産業は自給自足で成立します。内、輸出に回せると考えられるのは食料と軽工業品でしょうか。当コロニー産の食品でささやかながら歓迎の用意がございますので、どうぞこちらへ
はい、当コロニー群は本来3つの【キヨミズ・コロニー】から構成されたのですが、およそ350年前、コロニー成立から100年に満たぬ時期に発生した事故で第一・ニは全壊し、当コロニーも甚大な被害を受けました。生き残りが当コロニーに合流し、生活基盤を復活させるまでには多大な時間と労力、犠牲を必要としました。その中で、飢餓に苦しんだ住民の命を繋いだのが今から前菜として運ばせます二つの食品なのです。
来ました。紹介します。当コロニーの命を繋いだ《サトウキビ》と《黒露》でございます。
あの事故で、設備・資料ともに損害が少なかったのがサトウキビのプラント群だったのです。住民たちは茹でるなど簡単に調理し食す、または絞った果汁にわずかながら栽培可能だった柑橘類を加え飲料にするなどしたといいます。本日は、当時に習い茹でサトウキビと、果汁に柑橘類の果肉を混ぜた飲物をご用意しました。
一方こちら《黒露》ですが、資料の喪失が多くコロニーに持ち込まれた目的も本来の名も判りません。しかし当時の事故直後、過酷な環境でも飼育可能で繁殖力が高く、栄養価に優れあらゆるものが餌になるという事情から重宝されたので、食料として定着したのです。
再建期の資料から、200年ほど前の時点で「こくろ」と呼ばれたと分かっています。コロニー公用語である旧ニッポン語系統の文字である漢字を当てるとこれは「黒い甘露」を意味する略語から《黒露》ではないか、というのが研究者の見解です。御覧の通り真っ黒な体の生物でありますし、事故から100年ほどしか経過していない当時は餌の多くがサトウキビの廃棄部分だった結果甘かったと記録されておりますので、名前にも納得がいきます
話が長くなりましたね。メインディッシュも追い追い来ますので。《黒露》にはすり潰し団子にする、炒め物など様々な調理法がございますが、本日は当時主流であったという素揚げを用意させました。この、柑橘類の果汁を絞りかけた塩につけてお召し上がりください。
おや、《黒露》だけあまり食が進まないご様子で? ああ、あなたのコロニーはフォークを使うのでしたね、少々お待ちをすぐに用意させます! えぇあ、違いますか。なるほどこうした「昆虫類」を食す習慣がなく緊張をと。ご心配なくお召し上がりください。衛生管理と味に問題ございません。
コロニー間の長旅でお疲れでしたか。少し食欲が無かったご様子で。はい、ええ、先程の前菜の《黒露》ですか。昔ほどではございませんが、一般的な食品の一つです。品種改良や環境の改善もあり、また餌も今ではサトウキビをしっかり与えられるので当時よりもおいしいのではないでしょうか。素揚げに致しますと身はやや減りますが食感が良くなりますし、元からある甘味に柑橘と塩がよく合います。星系交易や設備の発展で食材の幅も広がり、おいしいと言われるものも多いので食卓に上る機会は減りました。しかしお祝いの料理の内一皿は《黒露》だという家庭は多いです。調理法も増え一般料理は勿論、菓子や酒のつまみにもなりますよ
食後の茶菓子にいかがですか。ニッポン系中規模コロニーとの交流で頂いた菓子を参考に作ったものです。そこは魚介類の養殖が盛んで、ある魚の粉末を生地に練り込み薄く焼いた菓子が絶品でした。我々も提供された製法を元に《黒露》を粉末にし生地に練り込んだ焼菓子を開発いたしました。最も評価の高い28番目の試作品を商品化した【黒露パイ】でございます。
工業区の見学をお楽しみ頂けたようで何よりで。本日はもう一か所ご案内したい場所がございますがお疲れの方は、大丈夫ですかありがとうございます。
こちら、《黒露》飼育部でございます! 無論、食用なので全職員は無菌服着用です。御覧の通り非常に清潔な飼育場で産卵から孵化、幼生、成虫と区分けし万全を期しており、働く人員は皆免許を持った一級の飼育員です。これこそ当コロニー300年の進歩の集大成とも言え、今期の《黒露》の質もまた素晴らしく……あれいかがなさいました、あっ誰か医務官を呼べっ大使殿が倒れられた! 医務室へお運びなさい! また感染症の可能性も考慮しこの一角も滅菌処理を行い《黒露》への害を最小限にっ




