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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第三回 妄想お食事会企画(2017.11.25正午〆)
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晩餐会のお遊び (青月クロエ 作)

血の香りや味は、あくまで吸血鬼の嗅覚や味覚によるものといった架空の表現です。

 デザートの皿が片付けられた後、本日の締めに当たる飲み物がハイディの手元にも運ばれてきた。


 丹念に磨かれたワイングラスの中身はテーブルクロスよりも深く濃い紅。

 まるでドクドクと動く心臓の色のよう。

 グラスの細い脚を撮んで軽く持ち上げれば、頭上から降り注ぐ豪奢な照明の光を反射する。

 光を受け光沢を持つグラスの中の赤に見惚れていると、同じ長テーブルに座る面々が静かに立ち上がった。

 慌ててハイディも彼らに倣い、グラスを手に立ち上がる。


「諸君らに告ぐ。グラスの中身がどういった人物の血なのか当てたまえ」


 この場でたった一人だけ、最上座に腰掛けたままの紳士が愉しげに高く掲げたグラスを転がしていた。

 今夜の晩餐会の主催者であり、吸血鬼の長ヴェルナーだ。

 彼が乾杯の合図を送ると、他の吸血鬼達と共にハイディもグラスに口をつけた。


 どろどろと淀みの目立つ液面、焼き菓子を焼いている時のような甘ったるい香り。

 舌先で軽く舐め取れば、角砂糖と蜂蜜を口一杯に詰め込んだみたいな気分に陥った。

 胸が焼けそうだ。

 えづきそうになるのを我慢して、もう一口だけ口に含んで舌先を転がし、じっくりと味わう。


「分かりましたわ!ヴェルナー様」

「ほう??」

 ハイディの席から左斜めら辺に立つ女が片手を上げ、声を張り上げる。

 しまった、先を越された!と悔やむ間もなく女は意気揚々と答えた。

「これは甘い物を好むうら若き乙女の血ですわ!!」

 

(バーカ!)


 自信満々な女の態度に吹き出しそうになるのを必死で堪える。

 しかし、ハイディの努力は虚しく周囲からはクスクスと嘲笑の声が漏れだす。

 女の顔は戸惑いと怒り、羞恥で赤らみ、直立に上げていた手を力無くするすると下ろしていく。

 ヴェルナーは嗤いもしないが間違いを指摘するでもなく、無言でグラスを転がしているのみ。


「長年の不摂生が祟り、幾つかの成人病を併発させた中年男性の血だと思います」


 少女特有の高い声が室内に静寂を齎した。

 同意と懐疑が混ざった視線に臆せず、ハイディは強い眼差しでヴェルナーを見据える。

 相変わらずヴェルナーは黙ってころころとグラスを転がしていたが、突如、片頬を歪めてニヤリと微笑んだ。


「正解だ」


 巻き起こるどよめきが煩い事この上ない。

 眉根を寄せかけるも、ヴェルナーのねっとりとした粘着質な視線を感じて代わりにはにかんでみせる。

  年寄りは謙虚な若者を好むもの。


「まだ小娘だというのになかなかやるじゃないか」

「いえ、私などまだまだです」


(そりゃそうよ。見た目が若いだけのジジババ達の老化しきった舌と、敏感で若い感性溢れる私の舌と一緒にしないで欲しいわね)


 長に褒められて恥じらう素振りで顔を俯かせ、こっそりと舌を出す。

『血のテイスティング』が得意だというのは、それだけ狩ってきた獲物(つまりは人間)の種類が豊富だということ。

 自身の有能さを知らしめる絶好の機会だ。


「若い娘とのお喋りはここまでにしようか。さっきのはまだ序の口と言っていい。これからが本番だ」


 ヴェルナーはグラスを一気に煽り、パチンと指を鳴らす。

 年寄りの癖に気障ったらしいと鼻白んでいると、生気のない青白い肌をしたメイドが空になった各自のグラスを手際よく下げていく。

 全てのグラスをカトラリーの乗せ、室内から出て行くメイドと入れ替わりに、また別のメイドが新たな血が注がれたグラスを運んできた。


「さて、本日二回目のお題と行こうじゃないか」


 先程と同じく、ハイディも他の吸血鬼達も再びグラスを掲げる。


 さぁ、次は誰の、どんな血の味かしら。

 必ず当ててみせるわ。

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