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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第三回 妄想お食事会企画(2017.11.25正午〆)
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美味なるもの (外宮あくと 作)

※カクヨム及び作者本人ページでも同作品を公開しています。

「のう、兄者ぁ……それは美味いのかぁ?」

「何ぞぉ、美味いに決まっとろうが」


 弟に尋ねられた兄はニヒヒと笑って、指にねっとりと絡みついた粘液状のものをでろりと舐め上げる。にちゃにちゃと指を動かすと、細い糸が伸びて指の間を繋いだ。それを弟に見せつけるようにしてから、薄ら笑いを浮かべてわざとらしく舌をチロチロ出して舐めまわし、一本づつ丹念に指をしゃぶっていくのだ。

 弟は眉をしかめた。


「美味そうに見えん。と言うか、兄者の喰い方が汚らしい」

「生意気な事を言いよる。そんなに言うなら、お前も少し喰うてみんか」

「……今日はまだいい」

「なんじゃ、この喰わず嫌いめ」


 兄はカカカと笑って、食事の器にまた手を突っ込んだ。グルグルとかき回し、その感触を確かめ舌なめずりをする。

 ゆっくりと指を動かしながらかきまぜるうちに、次第に目がトロリとして潤み始めた。小鼻を広げ頬を上気させ、はぁはぁと熱い息さえ漏らし始める。

 もう我慢できぬと、手首を曲げごっそりと掬い取る。どろりと零れ落ちてゆくのをもう片方の手で受けながら、口を近づけじゅるじゅると大きな音を立ててすすった。顔をどろどろにしながら、夢中ですすり指を舐め、また器に手を差し入れ中身を掬い上げてはずずずっと勢いよくすする。


「ああ、極上じゃぁ……今夜は一段と美味い……お前に味見させてやるのも惜しいくらい美味いぞ……」


 粘液で顔をてからせながら、兄はチラリと弟を見てニヒっと笑う。唇をべろりと舐めまわす舌が異様に赤くて、弟はドキリと身を竦めた。囁きと共に香ってきた兄の息がほのかに甘いのは、本当に今夜の餌が最高のものだという証なのだろう。

 ぺちゃぺちゃじゅるると盛大に音を立ててすすり、興奮気味に器の中身を探り、目を輝かせる。

 兄の手の中にぷにぷにとした、こぶし大の塊があった。


「ああ、これよぉこれ……これを喰わにゃぁ」


 兄の目にはもう弟のことなど映らず、間抜けに蕩けきった顔で、爪をかければ弾けそうな柔らかな塊に口づけをする。恍惚として頬ずりし、そして歯を立てた。

 ぶしゅりと皮が破れて、ゲル状の中身が溢れでてきた。兄は零さぬように顔を上げ、喉を鳴らして飲み込んでいく。

 辺りに、むんとする甘い香りが充満していた。

 弟はくらりと眩暈を感じた。匂いを嗅いだ途端、弟は身体の中心に火が灯ったような気がして、尻の辺りがジリジリとしてくるのだった。目は兄と器に釘付けになり、喉がゴクリと鳴る。

 そして、恐る恐る手を伸ばした。兄の足もとに飛び散った、プルプルとしたものを指ですくって、わなわなと震える口に運んだ。


「あ……あ、あ、あ、あ、ああ……」


 脳髄が痺れた。甘い陶酔に総毛立ち、腰が抜けてしまいそうだった。

 兄はいつもこんな素晴らしいものを喰っていたのかと、お門違いにも嫉妬してしまう程、それは甘美で更なる食欲を刺激してくる。たった一舐めでそれは、弟をすっかり魅了してしまった。思わずもっと喰いたいと、ずりずりと器に這い寄ってしまう。

 それを兄が蹴飛ばして、ケラケラと笑った。


「やっと喰ったか。言うた通りじゃろ? 美味かろう? じゃが、コイツはわしのもんじゃから、お前はよそをあたれ。なぁに、ちょっと探せばすぐ見つかるさ」


 けち臭いのうと、弟は口を尖らせた。

 しかし兄の言う通り、少し探せば餌はいくらでも見つかりそうだと思った。匂いはもう覚えた。別の方角から同じような甘い香りが漂ってきていることに、既に気が付いていたのだ。


「そんでも、のう……兄者。本当に喰ってもええんじゃろうか」

「当たり前じゃぁ。わしらは、これを喰う為に生まれてきたんじゃから」

「コヤツ、何や苦しそうじゃ……」

「あほう。じゃから、わしが喰うてやっとるに」


 肩をすくめてから、兄は器を愛おしそうに撫でた。大切に大切に守るように抱きしめる。


「ずうっと側に憑いておるんじゃ。いつも側にいて、喰うてやるんじゃ。コイツはわしのもんじゃからなぁ。……わしの愛しい愛しい女子おなごなんじゃ」


 兄は器に、女の頭に、また手を差し込んだ。すうっと手は指先から女の額に吸い込まれてゆく。そして肌には何の跡も残さずに、ドロドロを掬い取って手は頭の中から出てくるのだ。

 不気味な粘体が取り出され、兄が喰らう度に、うなされていた女の顔が和らいでいった。


「コイツを苦しめる悪夢は、わしが全部喰ってやるんじゃ……良い夢だけ見とりゃぁいい……ほれ、良い顔になってきた」

「……兄者もあほうじゃの。それは器ぞ? 餌の入った器に惚れてどうする?」

「わしの勝手じゃ!」


 ケッと悪態をつき、しっしと弟を追い払う。そして、眠る女の頬を愛し愛しと何度も撫で、零したねばねばを一滴も残さぬようにと舐めまわすのだった。悪夢を、ほんの一欠片も残さぬように。

 それを、弟は呆れたように見つめる。兄が、一人の女の悪夢しか餌にしないのが心配だった。


「……人間はすぐに死ぬぞ。百年も生きんぞ」

「ええんじゃ、コイツが死んだら、わしも餓えて死にゃあいい……」

2018/10/29 カクヨム及び作者本人ページで同作品を公開のため、注を追記

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