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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第三回 妄想お食事会企画(2017.11.25正午〆)
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宇宙アイス (キュノスーラ 作)

 外あそびの時間だ。

 ヒロユキは蒸気機関車みたいに白い息を吐きながら、園庭をななめにつっきって走った。

 薄く積もった雪の上に足跡が残って、もも組の戸からゆるやかにカーブして続く点線を描いた。

 朝は、すぐ近くにバカシマがいたせいで、あれがどんなふうにできあがったか、確かめることができなかったのだ。バカシマに見つかったら、何でもかんでもうばわれて、こわされてしまう。

 ヒロユキは、とてもおごそかな気持ちで、園庭のすみのフェンスについている鉄の箱の前に立った。

 マリエ先生たちが、園庭で音楽を流すときに線をつなぐところだ。ふだんは、だれもさわらない。だから、ちょうどいい隠し場所になった。

(うまくできていますように)

 祈りながら、鉄のふたをあけて、

(――しっぱいだ)

 ヒロユキはその場にがっくりと座りこみたくなった。

 思っていたのと全然ちがう。

 今日は凍るくらい寒くなると言われていたから、きのうのうちに、砂場道具の赤いプラスチックのカップに、きれいなビーズと水をいっぱい入れておいた。

 ガラスみたいにとうめいな氷の中に、キラキラ光るビーズが浮かんで、宇宙みたいになっているだろうと思っていた。

 でも、氷の上は白くくもって、ガサガサだった。

 ビーズはみんな下に沈んでしまったようで、はっきり見えなかった。

「あっ、ヒロユキが、あけたらいけないところ、あけてる! わーるい、わるい!」

 しかもバカシマに見つかった。最悪だ。

「うるさい!」

 ヒロユキはふりむいて怒鳴ると、氷のカップをバカシマの顔に投げつけようとしたが、結局、投げるまねをしただけで、カップを持ったまま、ゆり組まで一目散に走った。

「あか! きて!」

 ドアのところからあかねを呼ぶと、部屋の中でへんなダンスを踊っていたあかねが、うれしそうに寄ってきた。

「きょうはなに?」

「しっぱいした。でも、たべてみて」

「いいよ。なに?」

「うちゅうアイス。でも、しっぱいした」

「おいしそう!」

 あかねは大きな口をあけて笑った。

「うちゅうアイスう!」

「もっときれいになるとおもったのに、ならなかった」

「みずであらえば?」

 あかねは天才だ。

 ヒロユキはすぐに手洗い場に行って、あかねが後ろから見守るなか、カップに水を注ぎ込んだ。

 ピシピシッとするどい音、手応えがあって、あふれた水の下から、魔法のようにくっきりと澄んだ氷があらわれた。

 目を輝かせてカップに手を当て、勢いよく振ると、キラキラ光る宇宙アイスがヒロユキの手のひらにのった。

 ぜんぶは凍っていなかったみたいで、端のほうががたがただ。

 底に沈んでいたビーズが、すっかり上のほうにあつまって、色とりどりに輝いている。

 完全に納得のいくできばえではなかったが、お客様がもうしゃがんで笑顔で待っているので、ヒロユキもしゃがみ、ていねいに作品を差し出した。

「どうぞ。うちゅうアイスでございます」

「いただきますでございます」

 あかねはていねいに頭を下げてから、宇宙アイスに顔を近づけてにおいをかいだ。

 ヒロユキは食い入るようにあかねの顔を見つめ、お客様が口をぱくぱくと動かして宇宙アイスを味わうのを見守った。

「おあじは、いかがですか?」

「うまーいです!」

「えっ、ほんとですか! どこが、うまーいですか?」

「ビーズのつぶつぶがうまーいです。せかいじゅうのいろんなフルーツのあじがします。においも、とってもいいです!」

「よかった!」

「ごちそうさまでした。きょうも、とってもおいしかった!」

「ありがとうございます」

 そのあと、人にものをなげつけようとした――もちろんバカシマが言いつけたのだ――つみ・・でマリエ先生にしかられたけど、そんなことはどうでもいい。

『とってもおいしかった』

 その一言があれば、あとのことは全部、どうだっていい。

 もう、頭の中は、次の食材とメニューのことでいっぱいだ。

 明日、きれいな雪が残っていたら使おう。花壇には、冬でも枯れない緑色の葉っぱがある。 砂場の砂をふるいにかけよう。お絵かき用のパスをくだいて、虹の味がする粉をつくろう。

(あしたは、なにをたべさせてあげようか)


      *


「あか、来て」

「今日は何? 楽しみ!」

「うまくいったと思うんだ。自信はある。でも、まだ分からない。食べてみて」

「もちろん」

 席についた茜の前に、宏幸が恭しく料理を供する。

「うわあ、おいしそう!」

「パテ・ド・カンパーニュでございます。クリスマスに向けて出そうと思ってる」

「いただきます」

 フォークを持ち上げて香りをたしかめ、ひと口目を口に入れる茜の顔を、宏幸は食い入るように見つめていた。

 ふだんは厨房を離れられない宏幸にとって、お客様が自分の料理を口にする瞬間に立ち会う機会は、とても貴重だ。

 真剣そのものだった茜の表情が、みるみるうちにほころんでゆく。

 彼にとって一番目の、一番大切なお客様。

 一番大切なひとに食べさせたいものでなくては、人の心にまでは届かない――

 シェフは微笑んだ。

「お味は、いかがですか?」

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