風と水と、火と土と (キュノスーラ 作)
いつもの時間だ。
わたしはiPadをけして、ベッドからおきあがって、れいぞうこをあける。
いつもみたいに、ミートグラタンのふたにはってあるピンク色のメモをはがして読んで、おかしのあきばこにつめる。
ミートグラタンをレンジに入れて6分間あたためるあいだに、スプーンのふくろをやぶってすてて、れいぞうこからレモンソーダのペットボトルを出して、つくえの上におく。
シンクのよこのかごから、一番きれいな、とうめいなガラスのおさらと、ママのグラスをとって、つくえの上におく。
ママのコレクションの中から、一番高いおさけをえらんで、とうめいなガラスのおさらのそこが、やっとかくれるくらい、ほんのちょっぴりそそぐ。
レンジが鳴って、ミートグラタンができあがる。
ふたをとってすてて、湯気をたてる紙のおさらのりょうはしをつまんで、いそいでテーブルまでもってくる。
そのときにはもう、ルックルックがテーブルのむこうがわにすわって、にこにこしながらこっちをみている。
図書室の図かんで見た、ボルゾイというしゅるいの犬にそっくりだけど、王子さまのふくをきていて、つやつやの毛は赤い。
黒い目と、はなの先も、つやつや光っている。
「さあ、食べましょうか」
「手をあわせましょう。ごいっしょに、いただきます」
わたしはルックルックといっしょにいただきますをして、ミートグラタンにスプーンをさしこむ。
いつもと同じ、いいにおいがして、口に入れると、おいしいあじがする。
ルックルックは、光る青いふくのポケットから、きれいなライターを出して、ママの高いおさけに火をつける。青い火が、とうめいなおさらの上で、ゆらゆらゆれる。
ルックルックは、べつのポケットから金色の長いスプーンを出して、それで青い火をすくって食べる。
おさけのところは、食べない。ルックルックの食べものは、おさけがもえた火だけだ。
ママがおやすみの日に、げいのう人の人たちがおいしいものを食べるテレビを、ママといっしょにみた。そこに、コップに入れたおさけをもやすところが出てきた。青い火がぼうっと光ってゆれて、本当にきれいだった。
そのつぎの日、図書室の図かんで、ボルゾイという犬をみた。
だから、その日の夜から、ルックルックが来てくれるようになった。
「毎日そればかり食べてますけど、そんなにおいしいんですか? その、赤いどろみたいなやつ」
「うん、大すき。食べる?」
「私は、おいしい火しか食べません。あなたも一口どうですか?」
「いらない。口がもえちゃうもん」
私たちはいつも同じことを言いあいながら、ばんごはんを食べる。
ぜんぶ食べおわると、ルックルックはかってにママのコレクションのところに行って、すきなびんをもってきて、ママのグラスに、ほんのちょっぴりのおさけをいれる。それから、また、ライターで火をつける。
わたしは、レモンソーダのペットボトルをあける。
「毎日そればかりのんでますけど、そんなにおいしいんですか? その黄色のしゅわしゅわ」
「おいしいよ。のむ?」
「わたしは、風と水でできたのみものなんていりません。土と火のほうが、ずっとおいしいんですから」
ルックルックは、ふくのポケットから、しお入れみたいな形の小さなびんを出して、おさけがもえているグラスの中に、ぱっぱっとふりかける。
赤い土がもえて、むらさき色のけむりがあがる。
「これで、すばらしいかおりがつきます。こくも出ます。あなたも一口どうですか?」
「いらない。子どもだから、まだ、おさけはのんじゃだめだもん」
「おさけじゃありませんよ。火とけむりをのむんです」
「そんなことしたら、しんじゃうよ」
わたしはレモンソーダを半分のんで、ルックルックはグラスの中の火をぜんぶのむ。
「今日のごはんも、おいしかったですね」
「うん。手をあわせましょう。ごいっしょに、ごちそうさまでした」
わたしはひとりでかたづけをする。
とうめいなガラスのおさらと、ママのグラスを、そっとシンクのよこのかごにもどす。
食べたあとのごみをすてて、半分のこったレモンソーダのペットボトルをもって、ベッドにねころがってiPadをつけて、どう画のつづきを見る。




