レッド-朱色の機械兵装- (同人サークルUNDOT EFFECT(KAITO) 作)
『――敵軍、第六から第八防衛線を突破! 依然、北上を続けています』
『――ジジジ……な、なんだあいつ! ――うぁああああああッッ!? ジジッジ――ッ』
『――敵はたったの一機だろ!? 何をてこずっているんだ!!』
無線機から、戦況の報告が聞こえて来る。断末魔とノイズが、激戦を物語っている。
『――あ、あれは……。黒地に赤い龍のエンブレム……』
一瞬の静寂。無線機から聞こえた、敵の特徴を聞き、息をのむ。
『――蒼い、重装甲兵装……だ』
全身の毛が逆立ち、無線機を握る手に力が入る。
「 「 あ い つ か ァ ぁ あ あ あ あ あ ッ ッ ッ!!」 」
【レッド-朱色の機械兵装- 著:UNDOT EFFECT(KAITO)】
「ば、ばけものぉお」
強張る隊員。身を隠している瓦礫が、今から入る墓石のように感じた。表情が曇る。
空になった弾倉を落し、ジャケットから次の弾倉を取り出す。傷だらけのライフルに差し込み、マガジンキャッチを手のひらで叩く。
「だめ、か……?」
中隊長が死を覚悟した、その時だった。声が聞こえる。
「 そ こ を どけええええええェッッ!!!」
一人の兵士が、瓦礫を飛び越え前に出た。中隊員ではない。一般兵装ですらなかった。対赤外線塗料の独特のにおいが鼻をつく。最新鋭の、紅い色の軽装甲兵装。
俺は、力任せに、真っ直ぐに突っ込み、蒼いアーマードを蹴り飛ばした。叩きつけられた建物が揺れて砂埃が肩に積もる。
「紅いバトルギア。あの時の賊か……生きてい――」
「うるせええええええエッッ!!!」
左足が地面にめり込む。重心が前のめりになった。紅いバトルギアが駆け出す。蒼いアーマードも遅れて動き出す。一直線の突撃を横に避けた。
突き立てられた右の拳が、肘の辺りまで、ひび割れた建物の外壁にめり込んでいる。
「そのデタラメな攻撃。相変わらずのようだな、全く成長がみられない」
首をひねり、声の方を向く。フェイスガード越しでも表情が読みとれる。怒り。
腕を壁から引き抜くと、構造的完全性を失った建物が地響きを立てながら倒壊する。
「だったら何だッッ!!」
「ふっ、言わなければわからないか。本当にあの時のままのようだ。……いいだろう、ならば、もう一度教えてやろう。その身に刻め。ハア――ッ!」
碧いアーマードが視界から消える。
鈍い金属音が聞こえる。接触警報がHUDに表示された。装甲を抜けて衝撃が、肺の空気を押し出した。
「うっぐ――ッ」
100キロ近いバトルギアが軽々と吹き飛ばされた。両脚が離れて無防備な状態。
蒼いアーマードは、足を止める。電子音。装甲が開く。小さな破裂音とともに、無数の小型誘導弾が放たれる。花火のような音を立て向かってくる。すかさず身体を丸めて耐衝撃体勢をとる。
瓦礫に叩きつけられるのと同時に、小型誘導弾が着弾する。
「ぐぅ……ッ! おまえの、おまえのせいで! 綾瀬はッ!!」
爆炎から飛び出す紅いバトルギア。右腕は無くなっていた。バトルギアの配線と生身の血管が絡まり、肉片がプラプラとぶら下がる。装甲は傷が付き、至る所に亀裂が確認できる。
「……アヤセ。このアーマードの持ち主の名。いや……」
チャージライフルの砲身が回転を始める。薙ぎ払うような銃撃。弾の軌跡が線を引く。
「――今となっては元持ち主、か」
「おまえがああああ!! うぉおおおおおおッッ!!!」
『――ジジッジジジジ……』
中隊長の無線機にノイズ混じりの無線が入る。EMPの効果が薄れ、電子機器が復旧しはじめていた。
『――ジジジッ、こちらスカイリーダー。ジジ……該当空域まで20秒。目標の指示を――ジッ、ジジ……、求む』
中隊長は、銃弾で穴が空いたポーチから、発煙弾を取り出す。安全ピンを抜くと化学反応が始まる。投擲する。
発煙弾はポスッと音をたてると、先端から勢いよく、橙色の煙が吐き出す。
「スカイリーダー! 爆撃要請! グリッドE-4、オレンジスモークを避けて、南側全域を焼き払え!」
『――ジジジッ、目標を目視。安全圏外に退避せよ! 投下する』
目の前が一瞬、真っ白になる。物凄い衝撃波が地震のように大地を揺らした。
空爆が過ぎると、一面は火の海だった。
「油断、したな……。――ッ!」
「グゥハッ……」
高振動ブレードが真っ赤な装甲を貫いていた。刃を伝って、血が滴る。吐血が続く。
「ぁっ……綾っ瀬ッ! ……仇、とったぞ」
蒼かったアーマードの装甲は、噴き出す鮮血で、真っ赤に染まっていた。ブレードを引き抜くと、アーマードの膝が折れる。
二機の装甲兵装は、燃えさかる業火に照らされ、一段と強く、朱色を放っていた。
…………。
……。




