「モノクロームな因縁」 (玉藻稲荷&土鍋ご飯 作)
『ついに決着をつける時が来たな……』
既に廃墟と化した都市の中、白い機体の前に立ちふさがる漆黒の機体。人型を模したその目に当たる部分のカメラアイが禍々しく紅く光る。それはまるでパイロットの声に呼応するかの様にどこか不気味に点滅している。
『ええ。今度こそあなたを倒し……この因果をっ! 断ち切ってみせる』
アイナはそう言い放つと、自らの白い機体の火器管制システムをフル起動。そして機体後部のバーニアを全開で吹かせると、まるで放たれた矢の様に黒き機体へと疾走る。距離を詰めながら両手で持っていたショットガンを乱射。撃ち続け弾幕を張り、カチンと音がした途端にそれを投げ捨てる。弾切れの合図だ。機体腰部に装着されたサーベルを抜き放つと加速の方向を上へ。一気に跳び上がると、真っ向から大上段に斬り下げる。
『少しはやる様になったな。白きヤツよ』
『うるさいっ! 私が一体どんな気持ちでここまで戦ってきたと思っている!』
黒い機体は軽々とサーベルを手のひらで受け止める。だが、その受け止めた刀身が赤熱し始めたのを見て慌てて振り払う。その振り払われた勢いをも利用して、まるで演舞の様に白い機体は連続で攻撃をしかけていく。
『あの時! あのコロニーを飛び出したあなたを! 私がどんな想いでここまで戦い続けて追ってきたと!』
サーベルの刀身がパイロットの熱気に連動していくかの様に熱量を上げていく。赤を通り越して白色になり、白い機体はサーベルも自分の身体の延長のごとく使いこなし更なる剣撃を繰り返す。黒い機体が肉薄された距離のまま、背面からミサイルを放つが、それも同時に斬り払っていく。
『何故だ! 機体性能では俺が勝っているはずだ! この力はなんだ!』
『守るための力よっ!』
防戦一方となった黒い機体は、ありったけの弾を機体の各所から撃ち、バックステップの様に短距離のブースト。さらにそのまま後退しつつエネルギーを溜める。
『そんなものは……過去に俺が捨てた力だ!』
広範囲に放たれる極太のレーザーが辺りを薙ぎ払う。近くの湖にも着弾。盛大な水しぶきが上がり、水蒸気へと変わる。辺り一面が白で染まる。
『やったか』
『その捨てた力に、あなたは負けるのよ!』
その水蒸気で辺りが白く染まる中、真上に飛び上がった白い機体が、黒い機体の直上から一気にサーベルを投げ放つ。回避が間に合わず、大地に串刺しにされる黒い機体。
『何だとっ!』
『これでとどみょえー あ』
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「はいストップ―! 相川さんが噛んだので戦闘シーンの頭からやり直しね。黒木さんは今のままで大丈夫です」
マイク前でやってしまったという顔をして呆然としている相川の肩を、黒木は笑いながら軽く叩く。
「今日こそ決着つけるんじゃなかったのか、アイナくーん」
「うっさい馬鹿! いい声で耳元でキャラ名呼ぶなー! この黒騎士がぁー」
さっきまでの緊迫した雰囲気はどこへやら。ただの痴話喧嘩状態になった録音ブースを見て、防音のガラス越しにスタッフは大笑いする。
「あの二人は、幼馴染のまんま、この業界に入ってからもずっと一緒らしいね」
「息合ってるし、間が生きてますよね。キャスティングの妙というか、いい味ですよね」
「ずっとあんな感じで、どっちが上かはっきりさせたいとかバトルしてるらしいぞ」
二人のリアルでの因縁も決着がつくのか、それは男女の仲的なあれなのか。それとも何かで優劣を決めるのか。スタッフの間でも話題になっているのを知らない二人。結局、音響監督が止めに入るまで、先ほど収録していたアニメの中の様に、二人はそのままやりあうのだった。




