塔の魔女の最終候補生 (天崎剣 作)
※作者本人ページでも同作品を公開予定。
「ガチガチね、モニカ」
ローラはモニカを完全に見下していた。
数人の試験官が見守る中、モニカは何も言わず両手で杖を握りしめる。大丈夫、今日は気に入りの黒いフリルで纏めてきたし、塔の魔女になるためにこれまで頑張ってきたのだと彼女は自分に言い聞かせる。
日差し色のローブをはためかせ、ローラが最初の魔法を唱え始めた。彼女の細い杖の先には、性格を表すような花の装飾が美しい紫色の魔法陣。
――“敵の速さを奪え”
至極単純な魔法ほど、術者の力量が加算される。魔法陣と同じ紫色の光が取り囲むと、途端にモニカの動きは鈍くなった。
モニカは慌てて自身に速度回復の魔法をかけようとするが、ローラの方が格段素早かった。
「ゴメンねモニカ! 悪いけど、私が勝たせて貰うわよ!」
今度は深緑色の魔法陣、石畳の隙間から何本もの蔦が這い出して伸び、モニカに向かっていく。
「そうはいきません!」
モニカは咄嗟に杖をかざした。魔法陣なしで落雷、蔦をどんどん焼き払っていく。
「チッ……! じゃ、こういうのはどう?」
バッとローラが左手を掲げると、そこには真っ赤な炎の鳥が。羽を広げればモニカの身長程もありそうな怪鳥が、彼女めがけて火の粉を散らし、突っ込んでくる。
咄嗟にシールド魔法、モニカの真ん前に現れた透明な盾が上手く攻撃を跳ね返すも、飛んだ火の粉が肌に当たり、彼女は思わず顔を歪めた。
グルッと空を一回りし、また火の鳥が突っ込んでくる。
守ってばかりではダメ、攻撃をすることこそが最大の防御となるという言葉を思い出し、モニカは意を決する。
――“水の精よ、炎を食い止めよ”
青色の魔法陣を出現させたモニカは、力の限り魔法を注ぎ込んだ。半人半魚の美しい精霊をかたどった水の固まりが、火の鳥の前に立ちはだかった。火の鳥は構わず水の精の身体めがけて急降下、水の精が広げた両手から猛烈なシャワーをお見舞いすると、火の鳥は慌てふためきパッと姿を消す。
「召喚魔法が使えるって聞いてなかったけど」
ローラが悔しそうに舌打ち、
「言いませんよ。手の内を全て見せてどうするんですか」
水の精を大気に戻して、モニカも負けじと言い放った。
負けるわけにはいかなかった。未だ若いローラとは違い、二十歳を優に過ぎたモニカにとって、これは最後の戦いだったのだから。勝負に負ければ、もう二度と塔の魔女になるチャンスを得られないと突きつけられていた。
「負けられないんです。私、絶対に……!」
ローラは候補生の中でもずば抜けた才能の持ち主。モニカはローラに嫉妬していた。若いし美しい。才能も力もある。もしかしたら選ばれるのは彼女かもしれないと常に恐怖していた。
「負けられない? 可笑しいわね。普段は静かなモニカがそんな激しい言葉。どうなさったの?」
ローラはアゴを突き上げ、クルクルと余裕たっぷりに杖を回している。
「あなたは何故塔の魔女に?」
息を切らしながらモニカが問う。ローラは馬鹿ねと鼻で笑い、
「それをあなたに話したところで、私を最終候補生にしてくれるの?」
眉間にシワを寄せて、明らかな敵意を見せてきた。
「ごめんなさい。ちょっと聞いてみたかっただけ」
人にはそれぞれ事情がある。聞いたところで彼女の言う通り、権利を渡すなんて絶対に嫌だとモニカは思う。
「ただ、私よりもあなたの方が塔の魔女に相応しいのかどうか。判断材料になればと」
モニカは言いながら魔法陣を展開した。幾何学模様の美しいそれは、責任感の強さを覗わせる。
――“凍てつく波動よ、渦となり敵を呑み込め”
再び青く光る魔法陣。全ての文字が刻み終わると、全てを凍らせる寒風が音を立てて吹き荒れ、ローラを襲った。彼女は慌ててローブの端を掴み、身体を縮めた。身体にはたちまち霜が付き、髪の毛は凍り、睫毛まで白くなる。口元を隠したローラが「水の魔法ばかり」と揶揄すると、モニカは「では次」と、吹雪の魔法が切れる前に新たなる魔法陣を描き始めた。
紫色の光。ドッと大きく地面が揺れ、石畳の下から土柱が何本も迫り出してくる。
「ヒィッ!」とローラは奇声を上げ、必死に土柱から逃げようとするが、冷たい風に晒され、かじかんだ身体が言うことを聞かないらしい。何度もよろけ、転びそうになりながら必死に避けている。
一人の試験官がモニカを制止しようと歩を進めるが、未だ早いと別の試験官がそれを止める。「大丈夫、未だ正気です」とモニカは試験官らに笑顔を見せ、「これが最後です」と杖を高く掲げた。
その先には、皓々と光を放ち宙に浮く大きな魔法の玉があった。まばゆい光に誰もが目をくらませている。
「この世界では力が全てだというなら、私は今、全ての力を光の玉に注ぎます。私はどうしても塔の魔女にならなくちゃいけない。私を止めたいなら、ローラ。あなたも全力で向かってきて。本気で勝負をしましょうよ」
モニカは腹の底から声を出した。
ローラはそれまでの緩んだ表情を消し、奥歯を噛んでモニカを睨んでいた。




