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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第二回 因縁のラストバトル企画(2017.7.22正午〆)
54/268

最後の夏、最後の拳 (橙山ロボ富 作)

       :インターハイ県予選

       :個人組手準決勝第2試合

「ぢェやぁッ!」


 発声とともにマットを蹴り、メンホー(頭部防具)を打った拳を引く。

 残心。

 副審の旗が動き、主審の声が響く。


「赤! 上段突き有効!」


 有効(1点)が入った。これで3ー0。

 開始位置に戻って奴と向かい合う。

 目が合うと、「やるじゃないか」という表情を浮かべてきた。


 バカ野郎。

 やるのはこれからだっての。

 今日こそは俺が勝つ。


「始め!」


 主審の合図でお互い動く。

 俺は拳の、奴はあの長い蹴り足の間合いに。


 互いの間合いのギリギリ外で、互いに踏み込むタイミングを探る。

 この三年間で奴の呼吸は知り尽くしているし。


「はッ!」

「っ!」


 奴だって、俺のことはよく知っていた。


「青! 中段蹴り技あり!」


 出の早い奴の(まえ)足が一瞬の隙をついて俺の腹に刺さる。

 技あり(2点)が入って3ー2。点差を詰められる。


「続けて、始め!」


 コノヤロウ。相変わらずいい蹴りじゃないか。

 初めて戦ったときからいっそう鋭くなりやがって。


 けどなぁ。


「ア゛アァイッ!!」


 俺だって強くなったんだよ。


「赤! 中段突き有効!」


 飛んでくる蹴り足を払いながらの中段。

 今度は俺のほうが上手かった。

 カウンターを取って4ー2。さらに突き放す。


「始め!」


 そしてここで残り時間が1分を切った。

 あと半分か、まだ半分か。

 どちらにせよ、このまま終わると思うのはムシがよすぎるな。


「せぃやっ!」

「くっ!」


 (うしろ)足。胸元に伸びてくる。

 なんとか右手で受け、こちらからも踏み込もうとしたら。


「――っ!?」


 奴がさらに詰めてきた。

 片足で!? 軸足を滑らせたのか!

 俺の突きの出を抑え、左足がマットに付くと同時に。


「たあっ!!」


 俺のメンホーに奴の蹴りが入った。

 どこから来たのか一瞬分からなかったが。


「……なるほど」


 跳び下がった奴を見て理解した。

 後ろに跳びながら右足で、俺の左肩の外から蹴り込んできたのか。

 肩口の後ろからの蹴りは俺の視界の外、死角になっていたわけだ。

 しかしクソ、これで。


「青! 上段蹴り一本!」


 一本(3点)が入ってついに点差がひっくり返った。

 4ー5。

 今度は俺が追う立場になった。


「始め!」


 今まで以上に攻め手を出す必要がある。

 このまま時間切れになったら負けだ。また、――負ける。


「……って、んなこと……!」


 認められっかよ!


「シャオラッッ!」


 打つ、打つ、打って踏み込んで、さらに打つ。

 手技の早さと多彩さが俺の武器だ。

 うまく蹴りをかいくぐって奴に密着して……!


「アァ゛アイ!」


 離れ際、奴の側頭部に背刀打ちを入れた。

 上段打ち有効。

 5ー5の同点。


 まだまだ、だ!


「チ゛ェェイッ!」


 中段突き。

 防がれたがもういっちょ!


「ヤ゛ァアアアアッ!」

「赤! 上段突き有効!」


 フェイントを織り混ぜながら手を出し続ける。

 そのうちのひとつが奴を捉えた。

 6ー5。再度逆転。


「続けて、始め!」


 時間も残り30秒を切った!

 このまま……!


「やるね、けど――」


 そのとき奴の声が聞こえた気がした。


「勝つのはボクだよ!」


 いや、負けず嫌いな奴の目が、そう言っているのか……!


「はいっ!」


 伸びてくる(まえ)足を叩き落とす。落とした、はずなのに、


「っ……!?」


 なんでまだ、そこに足が……!?


「はいぃいっ!!」


 俺のメンホーが弾けた。

 奴が残心を取る。


「青! 上段蹴り一本!」


 これで6ー8。

 だが、それよりも。


「てめェ……!」


 なんだそれ。

 いつの間にそんな面白いモン身に付けてきたんだよ……!


 蹴り足のくせに妙に力が入ってないと思ったら。

 最初から俺に払わせるつもりで。


 払ったと思って意識を逸らした俺を、膝から先だけぐるりと回して蹴ってきたんだな。


 そんなの、今日の大会で初めて見たぞ。


「いいでしょ、頑張って覚えたんだ」


 開始位置に戻った俺に、そう言わんばかりの笑顔を向けてくる。

 ああ、いいな。

 やっぱ最高だわお前。


 俺との戦いのために今まで使わずにとっといてくれたんだな。

 そう思うと自然と俺も笑みがこぼれた。


 残り15秒。

 主審の声が響く。


「始め!」


 互いの間合いで呼吸を読み合う。

 奴はもう待ちの姿勢か。


 当然だな。

 2点差あるんだ。俺の拳じゃ1点ずつしか詰められない。

 ならばあとは逃げ切るだけ。


 そう思ってるんだな。

 普通はそう思うもんな。


 けどな、この戦いのために奥の手を用意してきたのは、


「……俺も一緒なんだ、ぜ!」


 踏み込む。深く。

 奴との距離を潰す。


 奴の右足。迎撃に伸びてくる。

 狙いは。

 腹か。


 そうだよな。

 いつもそうだったもんな!


 だから俺は。


「カァッ!」


 蹴り足を掴む。

 いや、正確には、脇に抱え込んだ。

 伸びた足を押さえ、固定し、さらに踏み込む。


 奴の左肩、掴んで後ろに引く。

 同時に残った()足を刈った。


「なっ!?」


 倒れた奴の驚いた顔に、拳を打ち込んだ。


「ア゛アァイ!」


 残心。

 永遠にも思える一瞬の後、副審の旗が動く。


 主審の声が響いた。


「赤! 上段突き一本!!」


 決まった。

 そして、時間が尽きた。


「9ー8! 勝者、――赤!」


 勝った。


 俺は泣いて、笑ってる友と握手した。

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