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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第二回 因縁のラストバトル企画(2017.7.22正午〆)
48/268

 (zooey 作)

 どこからが天か分からないほど透きとおった空に、タン、タン、タン、と小気味いい音が吸い込まれていく。このあたりで唯一、バスケットゴールのある公園。四人の少年たちがプレイしている。

 

 拓と龍はバスケットボールのクラブチームに所属している小学六年生。練習のない放課後は、いつもこの公園に来ていた。

 でも六年に上がってすぐ、別の二人組が現れた。名前は知らないが、一人は茶髪で一人はノッポ。中学一年生だという彼らは、進学と共にクラブチームから部活に切り替えたらしいのだが、あまりにも物足りなかったため、この公園へ練習しに来ているそうだ。迷惑な話だ。

 初めの日、年上だから、という理由で拓と龍は茶髪とノッポに公園を奪われかけた。けれど、二人は実力で勝負しようと持ちかけたのだ。茶髪とノッポは、にたりと片頬を吊り上げて頷いた。軽く勝てると踏んでいたのだろう。

 見当違いだった。

 拓は小柄だかスピードとテクニックがあり、龍は相手を「ノッポ」と呼びつつ、ノッポより背が高い。二人揃えば、高さと上手さを併せ持つ強力なコンビになる。

 部活を物足りないと言うくらい、バスケに自信のあった二人だ。年下に負けたのは相当悔しかっただろう。

 それからは公園の占有権を巡って何度も対決した。時には勝ち、時には負け、また時には決着がつかずに引き分けになり、いつしか勝負そのものが公園へ来る目的になっていた。

 だが、そんな日々も今日で終わり。公園が閉鎖されるのだ。

 

 タン、タン、タン、タン――。一定のリズムでボールをつきながら、拓は行く手を阻む茶髪の姿へ、じっと視線を這わせた。彼は腰をしっかり落とし、広げた両手で左右のコースを塞いでいる。額に浮いた汗が垂れ、あごから滴る。でも、そんなことには頓着していられない。目を皿みたいにして、拓は茶髪の隙を探し続けた。

 カチリと目が合う。

 鷹を思わせる鋭さで目の奥を凝視された。髪の根元がギュッとし、首筋が変にざわつく。一瞬、手元がおろそかになってしまう。

 やばい。

 という気持ちが突き上げて、気づいた時にはドライブを仕掛けていた。でも、コースは空いていない。茶髪に防がれる。

「拓!」

 声が飛んできた。視界の隅に意識を向けると、ノッポのマークを振り切った龍が手を上げている。

 拓は龍に向かってボールを放った。

 龍がボールを掴み取る。

 よし。

 すかさず、拓はインサイドへ走る。茶髪の呼吸と足音が、ぴったりついてきた。

 一方、龍はマークに戻ったノッポと対峙していた。拓はパスが来てもいいように、茶髪のマークを外そうと懸命に動き回って、なんとか振り切った。

「パス!」

 声と同時に、龍は拓の方へ右手を振りかぶり、ボールを投げる――と見せかけて、バシリと左手で止めた。パスを弾こうと飛び上がったノッポ。フリーになった龍は、その場でジャンプシュートを打つ。ボールは綺麗な孤を描いてゴールに吸い込まれた。

「やった!」

 龍は満面の笑みで拳を振り上げた。一ゴール返せた。拓も笑おうとしたが、なんだか頬が引きつってしまう。胸では悔しさが燻っていた。

 

 今度は茶髪たちの攻めだ。

 拓を見つめてボールをつく茶髪は、いつもとどこか違っていた。彼のプレイは、飄々としていて何となく真剣さに欠けているのだけど、今日は……まるで飢えた肉食獣のように、こちらの隙をついてくる。けれど、負けたくないのは拓も同じだ。チームとしても、個人としても。

 拓は茶髪との距離を詰めた。守ると言うより、攻めるようにボールを狙う。茶髪の眉間が険しくなり、チラリとノッポを見やる。

 間髪入れず、拓はボールを弾いた。

「あ」

 茶髪が声を漏らした時、拓はもう走り出していた。零れたボールを取り、一直線にゴールへ。一瞬遅れた茶髪の気配は追いついてこない。

 いける。

 ゴール下でシュート体勢に。

「拓! ノッポが行ったぞ!」

 龍の声にはっとしたのと同時に、ノッポにボールを叩き落とされた。


「ごめん、ノッポに振り切られちゃって」

「別にいいよ」

 龍にそう答えた時、拓はちゃんと笑えていた。茶髪からボールを奪えたこと、そしてゴールまで走れたことが嬉しかった。

 

 それからも両者の攻防は続き、勝負はつかなかった。

 

 暮れなずむ景色。ゴールやフェンス、それに四人の少年たちの影は、沈んでいく日によって少しずつ形を変えていく。

 拓は肩で息をしながら満ち足りた、けれどポッカリ穴が空いてしまったような、妙な気持ちになっていた。そんな彼に、やはり肩を上下させながら茶髪が近寄ってくる。

「オレら、ちょっと離れた所に、ゴールのある公園見つけたんだ。だから、もしまた勝負したいんなら、そこで相手になってやるよ」 

 胸にパッと明かりが灯った。

 横からノッポが出てくる。

「部活の連中とやるより、ずっといいからな」

「よっしゃ。じゃあ、今日の決着も次だな」

 龍も快活な声で答える。拓も笑って、

「でも、相手になってやんのは、オレらだから」

 少年たちの笑い声が夕暮れの空に響いた。

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