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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第二回 因縁のラストバトル企画(2017.7.22正午〆)
42/268

水底から (ながる 作)

緊張しています。よろしくお願いします。


※作者本人ページでも同作品を公開しています。

 イカヅチは震えていた。

 船に並走するように海面から飛び出し、飛翔するそれ(・・)を見たが故に。

 彼は嗤う。これは武者震いだと。

 彼は吠える。その叫び(こえ)でそれを撃ち落とさんとするように。


 遥か海原では黒雲が湧きあがり、その表面を彼の名と同じ白い稲妻が走り抜ける。


 行け行け。

 あそこまで行ってその(いかづち)に撃ち抜かれてしまえ。

 独りでは寂しいか。我も行こうぞ。

 行って、決着をつけるのだ。


 ぎょろりとした目玉がイカヅチを捉えた気がした。

 その巨体が波に沈み込んでいく。


 横波を受けて船が大きく揺れた。

 漁船ならともかく、盗むようにして借り受けてきたこの船ならば、この程度では沈むまい。

 足を踏ん張り、手にした銛を握り直す。

 乾いた唇をぺろりと舐めると、潮の味がした。




 海辺の小さな村の生命線とも呼べる漁獲量が激減したのは、もう三月程前だ。

 赤潮でも青潮でもない。漁師たちは一様に首を捻った。

 そのうちに漁場から戻らぬ船が増えた。

 海神(わだつみ)の怒りかと震える仲間たちの横で、イカヅチは笑っていた。

 つつましく暮らす我らの何が神の怒りに触れるのかと。


 或る日、虫の息で浜に打ち上げられた仲間は片腕と片足が無く、体中に丸い噛み痕のようなものが付いていた。

 化物。そう彼は言い残し息を引き取った。


 化物ならば退治すればいい。

 イカヅチ達は武器を持ち漁場に赴いた。


 化物は、化物だった。


 彼らの漁船はその複数の脚と長い腕に絡め取られ、木の葉のように簡単に水底に沈んだ。

 我らは狩る側ではなく、狩られる側になったのだと、皆は気付かされた。


 男衆がいなくなれば村はどうやって食っていくのだ。三々五々散らばってはもう村としてやっていけない。

 命からがら舞い戻ったイカヅチは、同じように戻ったカブラギに、一番大きな船を借りるぞと、それだけ告げた。




 ようよう獲れた一網分の魚を囮に、イカヅチは船を走らせた。

 舵はカブラギに任せてある。

 目を凝らし、船尾で海中の網を見守った。


 ぬるりと白い蛇の様なものがそれを抱え込んだ時、イカヅチは迷うことなく銛を叩き込んだ。

 白い蛇は大きく暴れ、海が泡立った。

 船が速度を増し、怒りのままにそれ(・・)は船を追ってきた。

 並走し、飛翔する。その体躯を見せつけるかのように。


 一度海に潜った巨体は船の下を潜り抜け、反対側に取り付こうと脚を伸ばした。

 イカヅチはそれを腰帯に挟み込んでいた大鉈で切りつける。

 一瞬怯んで縮こまりはするものの、すぐに別の脚が伸びてきた。

 モグラ叩きのように一心不乱に鉈を振るい、叩きつけた。いくつかの脚先は切れて船上に転がっており、まだうねうねと動き続けている。


 イカヅチが届かぬ場所に脚を掛け、化物はその巨体を持ち上げた。

 イライラとするように、その体躯の表面は次々と色を変えている。

 すかさずイカヅチがぎょろりとした目に銛を投げつけた。


 咆哮、ではない。音など無かった。

 しかしイカヅチにはそれが咆哮に聞こえた。


 ザマアミロ。せせら笑う。


 化物は忌々しげに、粘つく生臭い墨を吐きかけて、一度船から離れていった。

 船から離れた化物は、長い二本の腕を伸ばしイカヅチを狙う。

 二方向から来る鞭のような攻撃に、鉈の防御では追いつかない。

 波と墨を被って濡れた床に足を取られ、バランスを崩したイカヅチを、その腕は逃さずぐるぐると巻きつける。

 鋸のような歯のある吸盤は容赦なく彼の肌を噛み千切った。


 ――イカヅチ!!


 イカヅチが宙に浮きかけたその時、カブラギの声が聞こえ、ブン、と空を切る音がした。

 ぶちぶちと繊維の切れる音の後にダンっと何かが床を打つ。

 カブラギの(まさかり)だった。

 べりべりと化物の腕が剥がされていく。


 先を失った長い腕は大きく空を駆け、波打つようにうねっている。


 まだだ。まだやれる。

 せめて、コイツをあの漁場から離し、何処か遠いところまで連れて往かねば。


 巨体は今一度海に潜っていく。


 次は何処だ。

 前か。後ろか。


 血と墨でその衣を染め上げて、イカヅチは目を皿のようにして待つ。次の一撃を。

2017/08/16 作者本人ページでも同作品を公開のため、注を追記

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