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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第二回 因縁のラストバトル企画(2017.7.22正午〆)
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朧月暗晦 (観月 作)

※作者本人ページでも同作品を公開しています。

 戸を蹴破り本丸の中へ入ると、そこは無数の妖魔たちで埋め尽くされていた。

 

「野火! 行け!」


 清丸が、手にした苦無クナイで襲いかかってきた羽虫の妖怪をなぎ払いながら叫んだ。


「ここは任せな」

 

 鎖鎌をブンブンと振り回し、不敵な笑みを浮かべたマムシの低い声がする。


「ぼ、ぼくたちで、ここは、だ、大丈夫ですからっ!」


 風太の声は震えている。それでも、手にした忍刀しのびがたなでカサカサと野火に追いつこうとする、巨大な蜘蛛の妖怪を一突きしてみせた。


「すまねえ! 先に行く!」


 野火は足の裏に力を込め走り出す。体を斜めに傾けたまま方向転換をして、階段に飛びついた。階段はくるくると螺旋を描きながら天守閣へと続く。

 階段を二つ飛びで駆け上がりながら、追いすがろうとする妖魔に棒手裏剣を投げると、巨大な百足が体液を撒き散らしながら階段を転げ落ちていった。


「畜生めが……っ!」


 落ちていく妖魔にちらりと視線を向けている間にも、上階から山犬の妖魔が野火めがけて襲い掛かる。


「くそっ!」


 振り向きざま投げた棒手裏剣がきれいに山犬の額を割った。

 野火は身をかがめ、どうっと倒れ込む妖魔を避けると、そのまま螺旋を登り始める。


 この上に敵の大将が陣取っているのだとしたら、更に妖魔が増えてもおかしくはない。なのに一層目の、部屋を埋め尽くすような妖怪の数に比べて、天守閣へと続く階段はあまりにも閑散としている。

 どうにも嫌な感じがするが、迷う間はなかった。


「うら! 姫を貰い受けに来てやったぜ!」


 勢いをつけて最後の段を五段飛ばしに跳躍すると、天守閣へと飛び込む。

 

 しかし、飛び込んだ先の板張りの間は、しんと静まっている。四方にあいた四角い小窓から見えるのは、幽鬼のように闇に浮かぶ朧月。

 その淡い光の中にきらびやかな打掛姿の女が倒れていた。


「おい、あんた! 千代姫か!?」


 野火が駆けつけて助け起こすと、女はけほけほと咳き込みながらうっすらと目を開けた。

 目を開いた女は、ひいっと引きつったような声を上げながら、野火から身を引こうとする。


「助けに来たんだ。あんたの親父さんに頼まれたんだよ」

「助け……に?」


 千代姫の目が、野火の上で焦点を結んだ。


「立てるか? 脱出する」


 立ち上がろうとする千代姫だが、足に力が入らないらしい。

 野火は小さく舌打ちをすると「ごめん」とひと声かけて、姫の背中に腕を回した。


「きゃ……なにを!」


 驚いてしがみつく姫を抱き上げて振り返る。と、そこには風太が立っていた。


「なんだ、早いじゃねえか風太。もう、雑魚はやっつけたのかよ? 清丸と蝮はまだ下か?」


 そう言って一歩近づこうとした野火の装束を千代姫は強く引き「行ってはなりません!」と叫んだ。


「うお? なにしやがんでい。こいつは俺の仲間だよ」


 しかし、千代姫は一向におとなしくならず、余計にバタバタと暴れる。


「この者が、お前の仲間? ではお前も、化物の仲間ということですか!?」

「あ? ちげーよ。だから俺らは……」

「この者は、化け物どもの棟梁ではありませんか!」

「はあ?」


 次の瞬間。野火のいた場所には、黒々と先の尖った針のようなものが無数に突き刺さっていた。


「ちぃぃ……っ!」


 野火は、姫を抱きかかえて後ろに飛び退すさる。


「風太っ! てめえっ!」

 

 野火は姫を部屋の隅へと突き飛ばし、左肩から伸びる忍刀の鍔元を左の手でひっつかみ、柄を掴んだ右手で鯉口を切ると、空中で刀を抜き放ちそのまま風太に斬りかかった。

 野火を見上げる風太の口元がきゅうっとつり上がり、両の手に持っている苦無で忍刀を受け止める。


 ガキィィ…………ン!


 風太は、振り上げた両の手の下から、真っ赤に染まった瞳で野火を見上げていた。


「――!」


 赤い瞳に魅入られた野火に向け、風太が唇を突き出すようにして、ふっと何かを吹き出す。野火は身体を捩って床に転がり、吐き出された黒い針を避ける。


「うあぁぁあぁぁ!」


 野火は自分の上げた叫び声にハッとした。

 転がった野火の上に馬乗りになり、風太が手にした苦無を振り下ろしていた。痛みに、目の前が真っ赤に染まった。


「相手がぼくだと思って油断してるからだよ」


 風太がもう一方の手にした苦無も野火の上に振り下ろそうとしている。


「がはっ!」


 野火は渾身の力で自分の上に乗る風太を振り落とした。風太が小柄だったから良かったが、蝮のような大男だったらやられていた。


「ああー。残念だなあ。その苦無に毒でも塗っておけば一発だったねぇ」


 そう語りかける風太の表情は、幼い日のあの笑顔と同じなのに、口にする言葉は、とても風太のものとは思えない。


「てめぇ……、本当に風太か?」


 野火がそう言いながら左肩に刺さった苦無を抜くと、そこからどくどくと血が流れた。

2018/03/07 作者本人ページでも同作品を公開のため、注を追記

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