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【習作】描写力アップを目指そう企画  作者: 描写力アップ企画管理者
第二回 因縁のラストバトル企画(2017.7.22正午〆)
35/268

 (北瀬多気 作)

 前方から真白な手が伸びる。肩を掴まれたと思った瞬間、僕は空を眺めていた。

「なんで遠慮すんのっ」

 ミナの声が降ってくる。荒野に仰向けになった僕を、ミナはファイティングポーズのまま見下ろしていた。

 遠慮しているつもりはない。彼女が強すぎるのだ。僕の攻撃は予備動作の時点で見抜かれ、反撃されてしまう。何十回と行われた僕らの戦い。常に全力なのに、僕は一度も勝てたことがない。

 起き上がっても棒立ちの僕に、ミナは軽いパンチを繰り出した。

「ちゃんと戦えっ。今日が最後なんだぞ」

 そうなのだ。ミナと戦うのはこれが最後。だから僕だって、いつも以上に頑張って、ミナとの三年間を勝利で終わりにしたいのに。なぜか体が上手く動かせない。

 しびれを切らしたミナは、僕に助走つきの蹴りを見舞った。咄嗟に腕をクロスさせて防御する。凄まじい衝撃に、細い体は戦場の一番端に吹っ飛ばされた。どうにか受け身を取って転がりつつ、ミナの追撃を警戒する。いつもなら、ミナはここで……

「真面目にやれ! この、いくじなし! 根暗野郎!」

 やけくそみたいに叫ぶミナが、思いきりジャンプして拳を高く突き上げる。思った通りだ。相手を端に追いつめたときに出す、ミナの得意な必殺技。

「真面目だよ僕だって!」

 本気で勝ちたい。女の子に負けっぱなしなんて、男がすたるというものだ。ミナ相手なら、なおさら。

 拳を振り下ろそうとするミナに、僕はガラス瓶を投げつけた。ミナが驚いて目を見開くのと、瓶に封じていた炎が噴き出るのはほぼ同時だった。必殺技を途中で防がれたミナが地面に倒れる。

 瓶は威力の低い火炎瓶。ミナの拳と比べたら大したことないけど、力だけが強さじゃない。瓶は扱いが難しいし、セコイと罵られることも多い。でも頭を使って力の強いやつに勝つほうがカッコイイと思うから。僕はこの戦い方で、ミナに勝ちたい。

「勝ちたい、けど」

 起き上がるミナの隙を突き、さらに続ける。勢いよくめくったスカートの下(・・・・・・)――太ももの革ベルトへ手を伸ばし、つってあるポケットから次の瓶を取り出す。間髪入れずミナに投げると、白煙が彼女の体を覆った。催涙瓶。ミナは膝をついたまま動けない。

「ミナに勝ったら終わってしまう」

 咳き込むミナの前で、思わず本音がこぼれた。

「今日が最後。最後なんだよ。勝っても負けても、会えなくなる。なら……決着なんかつかなくていい」

 この時間がずっと続けばいい。

 そばにいたい。

 だって……

「僕は、ミナが」

「いくじなし」

 ミナが立ち上がる。

 鋭い蹴りが入り、僕は抵抗する間もなく浮かされた。

「そんな台詞、一度でも勝ってから言いなさい!」

 腹にかかと落としが決まる。地面に叩きつけられた僕は、ミナの足を退かして起き上がる。

 わかってる。ミナは中途半端な答えに納得しない。

 互いに体力は残り僅か。次の一撃で決まる。勝利と敗北しかないなら、勝つしかない。

 ミナに勝つのは僕の目標だった。

 今ここで達成する。

「全力出しなよ。情けで負けてやるつもりないから!」

「僕の心配より、負けて大泣きする準備してなよっ」

 ミナの拳に強い光が溢れ出したところで、僕も瓶を抜いた。ミナの戦い方は熟知しているつもりだ。きっと彼女は飛び出してくる。そこへ麻痺瓶を浴びせ、動きを封じたら火炎瓶で爆発を起こせば、僕の勝ちだ。

「言ったな根暗!」

 予想通り、ミナは弾丸のように飛び出す。僕は麻痺瓶を地面に叩きつけ――


『TIMEUP! DRAW!』


 抑揚のない合成音声。僕らは同時に「あーっ」と声をあげた。

「ロクがぐだぐだしてるからだよ、もうっ!」

 隣でコントローラーを持つミナが液晶画面を指さした。画面いっぱいに表示された『ドロー』の文字に口を尖らせる。戦っていたキャラクターも、煮え切らない結果に肩を落としていた。

「やっぱり勝てなかった。ミナは強いね」

 僕はキャラクターと同じか、それ以上にがっかりした。

 中学に入ってから毎日やりこんだ格闘ゲーム。強くはないけど楽しかったし、おかげでミナと仲良くなれた。

 そんな彼女とも今日でお別れ。最後の対戦だったのに。

「けどすごいじゃん。ドローって初めてじゃない? 時間切れなのに。体力ゲージ全く一緒ってことだよ」

「負けと変わらないよ」

「ロクは後ろ向きすぎ! すごい進歩だって」

「でも」

 この時間は終わりじゃないか。

 ミナは親の都合で海外に行く。来年やっと高校生の僕らにとって、その距離は残酷すぎた。

「永遠に会えないわけじゃないよ。ネットもあるし」

 コントローラーを置いて伸びをするミナが言う。

「だから、さ」

 彼女の横顔が、泣いているように見えたのは、僕の勘違いだろうか。

 僕を見たミナは最高の笑顔だった。

「次はオンラインで対戦しようよ! それまでにお互い強くなること!」

「ミナ……」

「一度くらい、私に勝ってみなさいよ」

 もし勝てたら――ミナは僕の耳元でささやいた。

「さっきの続き、聞いてあげる」

 ミナに勝ちたい理由が、一つ増えた。

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